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約束をしようか。

もし落としどころを見つけたら『つき合う』ことを。



フウ~


隣で思わずという感じに息を吐き出す彼。

うん。気持ちはわかる。ここはとても暑いもの。


私はそんな彼を横目でチラリと見てから、前に立つ人に笑顔を向けた。


「はい、フランクフルト二本ですね。ケチャップとマスタードはどうなさいますか。どちらもですか。わかりました。それで、マスタードは粒マスタードと、普通のマスタードがございますけど。普通のほうと粒と一つずつに。はい、こちらになります」


お客さんに渡してお金を受け取った。


「ちょうどいただきます。ありがとうございました」


フランクフルトを受け取った男が、浴衣姿の女性と仲良く離れていった。ちょうど人がきれた。私もつい「ふう~」と息を吐き出した。


「お疲れさん、和花菜わかなちゃん。そろそろ上がっていいぞ。この3日間本当にお疲れさん」

「そうそう。せっかくのお祭りなんだし、浴衣に着替えるんだろう。碧生あおい君も着るのかい」


このフランクフルトとホッとドックの屋台の店主であるおっちゃん達にそう言われて、私は碧生と顔を見合わせた。碧生は首に巻いたタオルで顔の汗を拭きながらおっちゃんたちに答えた。


「ええ、着せようと手ぐすね引いて待っているんですよ。そんじゃあ、お言葉に甘えて上がらせて貰います」

「おっちゃん達、楽しかったよ」


私も笑顔でそう言った。裏に抜け出て、エプロンを外した。兄おっちゃんが来て、私達に封筒を差し出した。それを受けとって中身を確認したら、最初に聞いたより多い金額が入っていたので、驚いた。碧生のことを見たら、碧生も同じ見たいで私の顔を見てきた。

私達が何か言うより早く、おっちゃんが口を開いた。


「今までありがとな。本当に助かったから。また次もって言いたいが、もう社会人になるもんな。最後だから今までの分も色をつけといたぜ」


そう言って二カッと笑うおっちゃんの笑顔が眩しかった。


「おっちゃん、最後なんて言うなよ。秋のお宮さんの祭りに、年末年始の神社に参加すんだろ。そこまでは手伝うからさ」

「無理すんな。就職するんだろ。この三日だって本当は忙しかったんじゃないのか」

「だから、俺と和花菜はもう内定をもらっているから大丈夫なの」


碧生がそう言って、おっちゃんに笑いかけた。


「わかったよ。もし時間があったら頼むとするよ」


そう言っておっちゃんは屋台の中に戻っていった。


私と碧生は歩き出した。


「それにしても本当に暑いな。和花菜、行く前にかき氷食わねえ」

「そうだね。浴衣に着替えたら、かき氷は食べたくないかな」

「そんなこと言ったら、何も食べれなくなるぞ。汚した時はその時だろ」


男らしくそういう碧生について歩いて行く。


かき氷屋で、私達は宇治抹茶金時の練乳掛けを頼んだ。懐が温かいとおまけを追加しても気にならない。


人混みを外れて屋台の裏のほうの切り株型ベンチのところに行って、座って食べた。

半分くらい食べたところで、碧生が話し掛けてきた。


「ところでさ、和花菜。お前好きな奴って出来たの」

「うんにゃ~。碧生は?」


私はスプーンを口にくわえたまま答えた。


「俺も」


碧生の返事に私は溜め息を吐き出した。碧生も溜め息を吐き出したから、意図せずに溜め息の二重奏だ。


「それじゃあさ」(碧生)

「約束通りに」(和花菜)

「「付き合いますか」」


一言ずつ区切って言ったら、最後の言葉が重なった。お互いに顔を見合わせて吹き出した。


「まあ、いいか」

「それはこっちの台詞だってば」

「だけどさ」

「うん」

「なんか癪だよな~」

「まあね。このあと、大喜びをされるんだろうな~」


残りのかき氷を食べながらお互いの顔を見ないでの会話。わかっているからこその言葉だけど、やっぱり釈然としない。


食べ終わった碧生が立ち上がりながら言った。


「まあ、落としどころがあったという事だろうな」

「そうだね」


私も立ち上がり手を出している碧生に、空になったカップを渡す。小さい時からいつも碧生がしてくれていることだから、捨てるのを任せてしまう。


二人で歩きながら、この後のことをどう乗り切ろうかと、話したのだった。



私の名前は結城和花菜ゆうきわかな。先ほど初カレが出来ました。


・・・といっても何の目新しさもないんだけどね。


彼の名前は相馬碧生そうまあおい。実は幼なじみで親戚で義理の兄妹だったりするのよ。


何で、こんな不思議な関係なのかというと、まずはうちらの母親たちが高校からの親友だったことから始まるのよね。なので、同い年の私達は赤ちゃんどころか、まだお腹の中にいる時からのつき合いなの。


そして親戚になったのは、私の従兄と彼の従姉が結婚した、小学一年の時だった。母親たちが「これから親戚ね~、よろしく~」というのを、肩に手を置かれて聞いたのさ。


で、義理の兄妹になったのは高校に入った年だった。うちの長兄と碧生の長姉が目出度くも結婚してくれたのよ。


そう、もうお分かりだと思うけど、私達二人は母親たちからおつき合いすることを期待されて育ったのよ。というのも、うちは兄四人と私の五人兄妹。碧生のところは姉三人に碧生の四人姉弟。それも私と碧生は同い年というおまけつき。『兄達の誰かと碧生の姉達の誰かがくっついたらいいな』と思われていたのが、長兄の結婚で母親たちの願いが叶ってしまったのよね。


うちの母なんて、お義姉さんのことを可愛がりまくっているのよ。そうしたら碧生の母親も期待というか、自分も~! となってね。ことあるごとに私達に「ねえ、二人は良い人いないの?」から「それだけ相手が見つからないのなら二人が付き合っちゃえば」となり「もういっそ既成事実からの出来婚も許すわよ」まで言うようになったのよ。


それで、私と碧生は話し合ってあることを決めたの。お互いが大学四年の夏までに好きな人が出来なかったら、つき合おうと。


そう、さっきの会話はその確認だったのよね。


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