表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/380

試行錯誤とのこと


 ケラケラケラ……と、歯痒いほどに気持ちの悪いロクジビコウの嘲笑が、耳鳴りのように聞こえる。

 ロクジビコウに苛まれたことが、PTSDに匹敵するほどだったようだ。

 冷静になればなるほど、悔しさが倍増していく。

 といっても、今のオレが勝てるとは思っていないので、どうすることもできないだろう。

 それよりオレが消滅する前、ロクジビコウに殺されたセイエイが気になる。

 周りを見渡すと、原っぱに放り投げられていた。

 怪我とか、アイテムは?

 アイテムボックスを見ると、案の定、東海ステージのメダルのかけらを失っていた。またボスを倒さないといけないのかね?



「シャミセン」


 声が聞こえ、そちらを振り向く。

 そこには悄然としたセイエイの姿があった。

 普段の無邪気な雰囲気を微塵も感じられない。

 かなり精神的にダメージを受けていることがわかる。


「ごめん、オレが余計なことをしなかったら」


 それを否定するようにセイエイは頭を振るう。


「たぶんシャミセンがなにかをしたところで状況は変わっていなかったと思う。でもあのロクジビコウがあくまでおねえちゃんの真似事をしてるとしたら、戦ってみてわかった――」


 その先を言おうとした時、オレはセイエイがゲームとしてではなく、あくまでビコウを騙られたことに苛立ちをもっていることがわかった。


「おねえちゃん、あんなふうに自分の力を人に見せびらかすようなことはしない。ステータスをおくびにも出さない人だったから」


 近くにいたからこそわかる、信じているからこそ知っている。

 オレもそんなにビコウたちとは付き合いが長いというわけじゃないが、ロクジビコウには甚だしいくらいに怒りを感じていた。


「でも、かなり厳しいぞ? セイエイが持っている相手のLUKを下げる[貧乏神]は[幻影]で相殺されているし、オレのLUKがいくら高いといっても、他のステータス……あれ?」


 オレは、自分で言っていて妙なことに気付いたが、これもおそらく[幻影]によって相殺されていたということだろうか。


「どうかしたの?」


 悩んでいるオレの表情が気になったのだろう。セイエイが首をかしげながら聞いてきた。


「いや、オレが持ってる[刹那の見切り]は、間合いがレッドで相手のAGIがオレより高ければ避けることができるけど」


「でも、あの時レッドゾーンにはなっていなかったと思う。それに[幻影]の効果で、相手のスキルは全部無効化されているから」


「打つ手がまったくないな」


 さて、どうしたものか。

 ステータス画面を見てみると、クエスト残り時間は[36:25]となっていた。地下空洞に入ってから、おおよそ八時間くらい減少している。

 もしかして、デスペナを食らうと時間減少されるのかね?

 あれか、某ピクチャークロスワードゲームで、勢い余って凡ミスすると時間が減少するとかそういう仕組みか……。

 まぁ、減ったものは仕方がない。



「ところでセイエイ、メダルのかけらは?」


 そうたずねると、セイエイはお手上げと云わんばかりに、肩をすくめた。

 デスペナによって、イベントでゲットしたアイテムはすべてロストしたということだろう。

 そういえば、パーティーを組んでいた双子は?


「セイフウとメイゲツなら大丈夫。もしかしたら何かあるかもしれないと思って、二人にはシャミセンとパーティー解除させてる」


 ほんと、こういうところが抜け目ない。


「それじゃぁ二人は大丈夫ってことか」


「心配はさせたけどね。でもコウマさんも一緒だし、出口用のモニュメントへの行き方は試行錯誤してるみたいだった」


 セイエイの話では、先に気付いた時、すぐ双子に連絡をしたようだ。


「それと……シャミセンごめん」


「どうかしたのか?」


「シャミセンのやつかもしれない[紫雲の法衣]も消えてた」


 マジですか?

 と言っても、元々はオレが油断して盗まれたのだから、セイエイが責任を感じなくてもいいと思う。


「わたしが早くシャミセンに渡してたら……」


「装備する前に死んでたら、結局同じことだとは思うけどな」


 [紫雲の法衣]はイベント中に手に入れたアイテムだ。

 そうなると、セイエイが今まで集めてきた3つのメダルのかけらが、死んだことで消滅していたとなれば、装備しているアイテム以外の、今回のイベントで手に入れたアイテムはすべて消滅したと考えてもいいだろう。



「でも、なんであんなのが……あれ?」


 オレは、妙な既視感を覚える。

 なんか、どこかで似たようなことを経験……違うな、どこかで見ている?


「どうかしたの? もしかして頭打った?」


 セイエイが、それこそ戦々恐々とした表情でオレを見る。


「いや、どっちかというと、セイエイのほうがひどい目にあってたんだけど……じゃなくて、見てるんだよっ! オレ……フレアを使って、状況は若干違うけど、なんかビコウにやられるような……」


 そうだ。色々と思い出してきた。

 あの夢でオレが見たのは大熊蜂のようなモンスターをフレアで倒した時、油断していたオレをビコウが襲い殺した夢……。



「既視感の理由はこいつか」


「…………」


 セイエイがジッと黙りこむ。

 ただその瞬間、彼女が覗かせたのは闘志の宿った瞳だった。


「シャミセン、ちょっといいかな?」


「なにか対策でも思いついたか?」


「うん、ちょっと危険な賭けかもしれないけど」


「賭けねぇ。勝率がコンマでも上がるなら乗っかるけど?」


 オレは笑みを浮かべる。

 それを見て、セイエイは苦笑を浮かべた。


「あくまでシャミセンはLUKの高さで勝負するわけだ」


「オレからそれを取ったら、面白くないだろ?」


「言えてる」


 そこは違うとかフォローして欲しかった。

 まぁこの子の場合は、自分に正直なところがあるから、虚偽するということはないだろうけど。


「で、どんな方法なんだ?」


「NPCならある程度はパターン化されているはずなのに、あのロクジビコウ……私に乗ったままシャミセンに攻撃してる。普通だったら、モンスターが同時攻撃以外で複数のプレイヤーを攻撃することはできない」


「ってことは、もしかしてプレイヤーってことか?」


「それに変身能力はおねえちゃんが持ってる[化魂(かこん)(きょう)]以外は、魔獣演武のコンバーターが前のゲームで覚えているかしかないと思う」


 それって、マミマミとかハウルが……。


「ってことは、あれか? もしかしてロクジビコウもあの二人と同様、変身能力を持ったコンバーターってことになるのか?」


 オレがそうたずねると、セイエイはちいさくうなずいてみせた。


「証拠はないけどね。でもコンバーターがこのゲームをプレイできるようになったのは最近のことだし、そのあいだおねえちゃんが通常のサーバーでレベル上げとかフィールドに出るってことは滅多にないから」


「それより前に、魔法スキルとかで変身とかはなかったのか?」


「いちおうあるけど、それってかなりレベルが高いプレイヤーじゃないとキツいかもしれない」


 相手のステータスをコピーする能力は、INTとDEXがかなり高くないと無理に等しいらしい。


「それに普通のプレイヤーがあんなところにいること自体が可笑しい」


「ってことは、マミマミと同じで、スタッフの一人がってことか?」


「おねえちゃんの実力を知ってるのは、私やナツカ以外のトッププレイヤーでもかなり限られてくるから、そう思っても間違いはないと思うけど」


 なんとも煮え切らないセイエイの表情。

 彼女自身、納得がいかないといったところだろう。


「でもそれって結局真似事だろ? それにステータスを真似ることはできても、装備品までってのは」


「それが一番わからないところ。あの装備品は云ってしまえば孫悟空が一番強かった時の装備品で、おねえちゃんしか持っていないユニーク装備だから」


 そこまで来ると、やはりロクジビコウはスタッフがプレイヤーとしてこちらに参加しているということだろうか。



「でも仮にイベントじゃなかったにしても、参加しているプレイヤーを製作側が管理しているはずだけど」


 オレがセイエイにそうたずねた時だった。


「それがどうもおかしなところがあるんですな」


 男性の声が聞こえ、オレとセイエイはそちらに視線を向けた。

 そこにはコウマさんとメイゲツ、セイフウの姿があった。


「コウマさん、それってどういうことですか?」


「実は知り合いにセイエイさんから聞いた話を相談しましたところ、ビコウさんの実力を知っているプレイヤーはセイエイさん以外このイベントに参加はしていないんですな」


 コウマさんは頭を抱え、片眉をしかめる。


「まぁ、セイエイさんはシャミセンさんたちが参加するからという理由でイベントに出てるわけですが」


 コウマさんの言葉に、セイエイはすこしばかりムッとした表情を見せた。たぶん知られたくなかったのだろう。

 別にそういう理由なら恥ずかしがることでもない気がするけど。



「でも変身魔法とか体現スキルを持っているプレイヤーってトップくらいじゃないんですか?」


「ええ。ただ今回のイベントはどちらかというと日本サーバーでのみ行われていることなんですよ」


 その言葉に、オレとセイエイはアッと声を上げた。


「ちょ、ちょっと待ってコウマさん、もしかして他のサーバーから参加してる?」


「でもこのイベントは日本サーバーでしかやっていないんですよね? 他の、海外サーバーのプレイヤーがそんなことできるんですか?」


「普通はできませんな。だからこそ別の方法で日本サーバーに紛れ込んでいる」


「スタッフの一人じゃないってことですか?」


 スタッフだったらそんな面倒なことはしないだろうし、ビコウみたいに管理しているにしても、あれはひどい。



「もちろん、スタッフがイベントに関してプレイヤーに手を貸したり、助言することは禁止としていますからな」


「わたしがラプシンに呪術をかけられた時、ビコウさんがメイゲツに呪術解除の魔法を教えたことは?」


 セイフウがそうコウマさんにたずねる。


「あれは緊急事態でしたからな。それにあのレベルで……」


 言葉を止め、コウマさんはアッと声を上げた。


「それを聞いた時、オレも妙だなと思ったんです。あのラプシンのレベルを考えても、協力な呪術を覚えているとは思えない。よほどINTが高くないと」


 オレの言葉が引き金となったのだろう。

 コウマさんは苦痛に満ちた表情で、その場に座り込んでしまった。



「実は[四龍討伐]が始まる前に一日だけサーバーメンテナンスでログインができない状態になっていましたよね。その時一時間だけ中国サーバーにあるフィールドの一部分にエラーが出ていたんです」


「でもこのイベントは日本サーバーでしかやっていないんですよね?」


 セイフウが首をかしげる。

 オレも、どうしてそんな話を始めたのか、怪訝な表情でコウマさんを見ていた。


「もちろん日本サーバーに影響があるというわけではなかったのですが、その部分が日本サーバーにつながっていたとすれば話は別になるんです。そこは地下空洞で溜り池があるんですが、一部に誰も通れない通路があるんですよ」


 オレはそれを聞いて、セイエイを見据えた。

 セイエイも、オレがなにに気付いたのか、うすうすと勘付いたようだ。



「コウマさん、もしかして、それってはじまりの町の裏山にある隠しダンジョンのこと?」


「おそらく。ですがまだそこを知っているのはセイエイさんたちを含む一部のプレイヤーのみで、まだモンスターの配置とかは決まっていないんですよ」


「いや、それがどうも……」


 オレは申し訳ないといった表情を見せる。


「じつはその隠しダンジョン、すでに掲示板でリークされているんですよ」


 オレがそう説明するや、コウマさんは唖然とした表情を見せた。


「もちろんアクアラングがないと入れない場所だから、あまりそこに入ろうと思っているプレイヤーはいないとは思いますけど」


「だけど、これで日本サーバーでトッププレイヤーがおねえちゃん以外でわたししかイベントに参加していないってことはわかったね」


「もしその通路が日本サーバーと中国サーバーとでつながっていたとしたら」


「トロイの木馬のように気付かないうちに日本サーバーに紛れ込んでいたということでしょうな」


 コウマさんはスッと立ち上がる。


「シャミセンさんたちはふたたび挑戦を?」


「いや、ゴウコウを倒すのは諦めます」


 オレはそう応える。


「そうですか。賢明な判断――」


 コウマさんはオレの意図に気付くや、おどろいた表情でオレを見る。



「まさか、ロクジビコウにリベンジするつもりですか?」


「もし相手がプレイヤーだとしたら、倒すことだって可能ですよね? ってことは盗られたものは取り返せばいいだけの話でしょ?」


「あのですな? 実力を前にしてなにを考えているんですか? それにセイエイさんですら倒せなかったのに、どうやってあなたが、そのプレイヤーに勝つんですか?」


 コウマさんが慌てふためく。


「もちろん勝率があるとは思っていません。でも……」


 オレはセイエイを見据える。


「セイエイはオレなんかより、もっと大事なものを盗まれてますから」


 セイエイが盗まれたもの。

 それはビコウという憧れであり大好きなプレイヤーを騙ったロクジビコウによる卑劣な行いだ。

 やつはセイエイが知っているビコウを貶した。

 そのおこないが、彼女の中にある星藍との思い出を盗んだと言っても過言じゃない。

 やつを倒してそれを取り返す。ただそれだけの理由だ。

 単純(シンプル)な理由だからこそ、あまり難しいことを考えるのが苦手なセイエイには、それだけでも十分な理由だった。


「うし、もう一回地下空洞に行ってリベンジするぞ」


「うん」


 オレの言葉に、セイエイはハッキリと、大きくうなずいてみせた。



「だけど、そのロクジビコウがプレイヤーだとしたら、すでにそこにはいないんじゃないんですか?」


 セイフウがもっともなことを言う。


「だろうけど、でもどうしてか動いていない気がするんだよ」


「それってどういうことですかな?」


 コウマさんが首をかしげる。


「ただの勘です」


 オレはそう応えた。ハッキリと――力強く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ