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六角星形とのこと



 ふと、今何時なのか、リアルでの時間を確認すると午前0時を回っていた。

 そのためか、セイエイはすでにビーチパラソルの下に設けらているソファに寝転がっていて、微動だにしていない。

 ホルターネックのビキニを着ているが、身体冷えないようにとパーカーを上に羽織って、眠っていた。

 双子も、セイエイと同じように、二人仲良くシートに寝転がっている。

 ふたりとも柄は違えど、タンキニという、タンクトップとビキニが一緒になったものを着ている。

 見た目が幼いためか、ふたりによく似合っていた。

 フレンドリストを確認すると、三人ともログアウトしていた。



「ナツカ、いちおうメイゲツたちには転移アイテムを渡してるんだっけか」


 確認のために聞いておく。


「ええ。このダンジョンのステータスを確認したら、転移可能ってあったからね。近くのフィールドまでだったら転移できるはずよ」


 オレの質問に応えるように、ナツカがそう話してくれた。


「……って、セイエイの心配はしないの?」


「それはサクラさんがどうにかしてくれるんじゃないか?」


 オレは、ふとあることに気付いた。


「えっと、たしか今日の朝からログインできないんだっけか?」


「あぁ、そのこと。ビコウの話だとログインができないってことは、間違ってここに来たプレイヤーからの攻撃も受けないってこと」


 と言っても、アクアラングの話をしない限りはってことじゃないか?



 オレはふと、悪戯心に寝ているセイエイたちにちょっかいを出したくなった。

 まぁ、あれです。ほっぺをぷにぷにしようかなと。


「それにしても、宿屋以外の場所でログアウトすると、キャラは寝てるようなエフェクトになるんですね」


 ……先客がいやがりました。

 白水さんがセイフウのほっぺたをぷにぷにと指でつついてる。

 時折、口をモゴモゴと動かす仕草を見せているが、ログアウトしてるのはフレンドリストで明らかだ。たぶん演出的なものだろう。


「なにやってるんですか?」


「あぁ、すみません。いやあまりに寝顔が可愛いものでしたので、ちょっと悪戯を」


 白水さんは苦笑をみせながら、ゆっくりとその指を避けていく。

 考えてること、まるっきりいっしょじゃないですかぁ~~っ!

 ちょっと泣きたくなってきた。



「あ、そういえばナツカからメッセージもらいました。[土毒蛾(ナハトファルター)の指環]を持ってきて欲しいとかなんとか」


 オレは本来土曜日の朝にやろうと思っていたことを、今やっておいたほうがいいなと思い、[土毒蛾(ナハトファルター)の指環]を装備から外す。


「あぁ、読んでもらえたんですね。ちょっと新しい方法を考えまして……その、セイエイちゃんから聞きましたが、ルビーを持っているとか?」


 あ、もしかして宝石による付加をつけるってことか?


「ええ、いちおうありますよ」


 オレはルビーによる恩恵の事を思い出す。

 たしかAGIが上昇するはずだ。


「これを[土毒蛾(ナハトファルター)の指環]に付ければ、元々のAGIに宝石による効果が付加されるはずです」


 そうなると、たしか[土毒蛾(ナハトファルター)の指環]のAGIは+20だから、30は期待してもいいということか。


「あまり期待されるのはよろしくないかと。宝石の品質にも影響されますし、最悪見た目の悪いものになってしまいますから」


 白水さんが苦笑を見せる。


「というか、オレそんなに期待してるような顔してた?」


「ええ、それはもう」


 クスクスと白水さんが笑みを浮かべる。

 メガネはコンタクトにしているのではなく、あくまでファッションとしてつけていたらしい。本来は晴眼(せいがん)(はっきりと物が見える目という意)とのこと。

 黒の単色ビキニのためか、彼女の白い肌が際立っている。

 しかも肩まであった髪をうしろに束ねているためか、うなじのラインがいい。



 オレは忘れないうちに[土毒蛾(ナハトファルター)の指環]と[紅宝石]を白水さんに渡した。


「たしかにお預かりいたしました。と言っても、今回わたしは参加しないので、メイゲツちゃんとセイフウちゃんのついでに、あなたの装備を強化しようと思ったのですけどね」


「あらら……」


 まぁ、ハッキリと言ってくれるのならそれはそれでいい。

 それにこの人の場合は、ちゃんとやってくれそうだ。


「あれ? でもイベントって日曜の夕方ですよね? なにかご用事でも?」


「いえ、ただのスキルアップです。アクセサリー作成のスキルをさらにあげようかなと。それにシャミセンさんだから教えますけど、わたしそんなに強くないんですよ。極振りではないんですが、DEXのポイントは今のところ200以上振り分けているので。もともと小物作りが好きでよくシルバーアクセサリーとか自作していたんです。このゲームでもプレイヤーが道具や装備を作れるじゃないですか? それでアクセサリーを作って、それをみんなに売っていたんですよ。最初はナツカに誘われてプレイしていたので、あまり積極的ではなかったんですが、現実でのアクセサリー作りより、こちらで作ったやつのほうが評判がいいんです。最近はRMTで作ってほしいというプレイヤーもいるんですよ」


 つまり条件が整えば、商品として売っていたということになるのか?

 といっても、かなりの厳しい条件があるらしい。


「シャミセンさんに渡した[土毒蛾(ナハトファルター)の指環]は、もともと魔法効果があるアクセサリーを作ろうと思って、試行錯誤のすえ偶然できた作品だったんです。それをどこかの誰かさんが掲示板に載せてしまって」


 つまり、白水さんにとっては秘密裏にしたかったのか。


「それでゲット方法を知らないとまず手に入れることのできない[夜光虫]を素材として入れていたわけですな」


「ほんとうにそうなんですよ。だからあの時、失礼ながらシャミセンさんの運にはおどろきました。というか普通はあんなところに夜光虫がいるとは思いませんよね?」


 本来は海に生息しているプランクトンだから、川の中で暮らしているなんて誰も思わない。

 そうなると、その情報を流した人間もいたということになる。



「つまり今度のイベントはレベルではなく、ステータス的に不安があると?」


「はい。もともと戦闘向きのステータスではないことは自分がいちばんわかっていますから。それに遠くから攻撃できる狙撃手(スナイパー)がいいんじゃないかなと思ったんです。これならDEXも重要になりますから」


 たしか命中率はDEXが高いほど上がるんだっけか?

 モンスターの急所をライフル一撃で仕留める。


「依頼金はスイス銀行に?」


「一人頭最低でも一億ほどいただきますけど?」


 言い返すように、白水さんは笑みを浮かべる。

 オレの冗談に乗っかるあたり、意味がわかってらっしゃるなこの人。



「あれ? ずいぶんとめずらしい組み合わせですね」


 泳いでいたテンポウが水の中から上がり、オレと白水さんに近付いて来た。

 桃花色のツインテールをサイドテールにしている。

 水着は柄付きのビキニなのだけど、なんか妙な違和感があった。


「なんですか? 人の身体をジロジロと」


 ムッとした表情で、テンポウや身体を隠すようにくねらす。


「あ、ごめん。なんか妙に胸が盛ってるなぁって」


「いや、シャミセンさんがそう思うのはわかりますよ。テンポウさん、それってワイヤービキニですよね?」


 えっと、普通のビキニとなんの違いが?


「まぁ、簡単に説明すると下着と変わらないんですよ。だから胸の谷間とか」


「わぁーわぁー」


 慌てふためくテンポウ。


「さっきセイエイちゃんに胸のサイズ聞いたら、測ったことないって言われたんですよぉ」


 いや、テンポウも同じくらいだと思うのだけど?


「中学生に負けるって、それなんか年上として悔しいものがありましてね」


「あぁ、それで胸が強調できるワイヤービキニにしたと」


 白水さんがそう聞き返す。テンポウはわなわなと震えながらうなずいた。

 よほど、中学生に負けたのが悔しかったようだ。

 というよりは、セイエイがまだ中学生になったばかりだから、最悪小学生に負けたとも言えるのだろう。



「チルル、取ってきて」


 池の方から叫び声が聞こえて、オレはそちらに目をやった。

 溜池で立泳ぎをしながら、ケンレンとサクラさん、ハウル、チルルの三人と一匹がビーチバレーをしており、ちょうどビーチボールがオレのほうへと飛んできている。

 これくらいならオレが跳ね返してもいいのだが、それよりも猛スピードでチルルが走ってきていた。


「ちょ、待てっ! チルルっ! とまれぇっ!」


 オレの言葉に気付かなかったのか、チルルはオレを踏み越えてボールを返そうとしている。


「だが、断るっ!」


 オレはすんでのところでチルルの身体を自分の方へと抱きかかえるように引き寄せた。


「きゃっ?」


 体勢が崩れる手前、なんか妙な声が聞こえた。



「ちょ、ちょっと大丈……夫?」


 テンポウと白水さんの声も妙だった。

 というか、なんか想像していた感触じゃないんですが?

 こう、狐ってモフモフしてて気持ちいいと思ったんだけど、実際触ってみると、柔らかくて熱を帯びてるのな。

 おしりのほうに手をやると、まるい膨らみがあったり……。


「あふぅっ?」


 うん、狐って気持ちいいところを触られると、女の子が喘いだような……。

 ――喘いだ?


「おい、大丈夫か?」


 池から上がってきた斑鳩もオレたちのほうへと近付いていた。


「って、なんじゃこりゃぁああああああっ?」


 斑鳩の悲鳴が聞こえた。

 というか、どうなってんだ?

 顔はチルルが覆いかぶさっていて、視界が真っ暗だ。


「シャ、シャミセンさん? これはいったいどういうことですか? というか誰ですか? その人?」


 テンポウがみょうちくりんなことを言ってますが?

 というか、人って……チルルは狐だろ?


「ったく、いったいどういう」


 ようやくチルルが退いてくれたのか、オレの視界が晴れた。



「あうあうあう……」


 オレの目の前に、というか騎乗位のように乗っかってる少女に目を疑う。

 そこには下着姿のハウルの姿があった。


「…………えっ?」


 どういうこと? というかハウル?


「えっ? なんで? なんでハウルがオレの上に乗ってる? ってかさっきまで池の中で遊んでたんじゃ?」


 もうなにがなんだか……。


「これっていったいどういう?」


 斑鳩がすこし考えるような仕草を見せるや、視線を池で泳いでいるハウルに向けた。


「もしかして、今シャミセンの上に乗っかってるのが本物のハウルじゃないのか?」


「えっと、どういうことですか?」


 テンポウたちがついていけてない。もちろんオレも。



「あ、もしかして……」


 ナツカがポンッと手をたたく。

 というか、ハウル、そろそろ降りてくれない?

 変に倒れてしまったのか、背中が痛い。

 オレと斑鳩も水着に着替えてるから、装備品ほとんどないんだよ。


「たしか[魔獣演武]には、プレイヤーとテイムモンスターに変身魔法があったんだっけ?」


 あぁ、なんかマミマミが似たようなことをやってた気がする。


「チルル、戻ってきてっ!」


 オレの下半身に乗っている、本物らしいハウルが、そう呼びかける。


「グルルッ!」


 池の方から獣の鳴き声が聞こえ、そっちに視線を向けるや、そこには黒い狼が犬かきしながらこちらへと泳いできていた。

 そして水から上がるや、身体を震わせて水を飛ばすと、ゆっくりとオレのところへとやってきた。


「というか、いつまでそういう状態なんですか?」


 テンポウがツッコミを入れる。

 いや降りて欲しいのはこっちもなんですが……


「ハウル、これってどういうことだ? いやその前に降りてくれない?」


「ひゃ、ひゃい」


 そう言うや、ハウルは素直にオレから降りてくれた。



「つまり、今日の狩りの最中、変身していた状態だったことを忘れていたってこと?」


 ようやく落ち着いた本物の方のハウルがそう応えてくれた。


「あっとですね、たまに変身しないと要領を忘れてしまうといいますか」


 慌てふためくハウル。チルルも一緒になって困った表情を見せている。


「しかしすごいな。人間が変身するならまだわかるけど、モンスターも変身できるんだな」


「これに関しては何回も練習しないといけないんです。魔法スキルのひとつで、周りに違う姿だと勘違いさせるものなんですよ」


 オレはハウルの簡易ステータスを確認した。



 ◇ハウル/【職業・吟遊詩人】/レベル32



 あまりレベルを見ていなかったのであれだが、実際はこっちがただしいレベルらしい。

 ということは、最初に見た時はチルルのレベルだったということか?



「あの皆さん、こ、このことはご内密に」


「はて、なにを秘密に?」


「それはその……」


 ハウルは視線を逸らす。


「だって、チルルが人に触られてたら気持ちよさそうだったので、試したくなるじゃないですか? 実際狐に化けるとみんな物珍しいし、人懐っこくしてたら身体触ってくるんですよ。女の子に触られると気持ちいいんですけど、野郎に触られただけで吐き気がしそうでしたけどね」


 顔を紅潮させるハウル。ところどころ毒をはいてます。



 飼い犬が可愛い女の子になでくりまわされる経験を自分もしたい。

 その欲望はなんとなく分かる。オレも近所の犬がかわいい女の子に撫でられてると、なんか羨ましいと思うこともある。

 でもなんでしょうね? なんか無性にぶん殴りたくなった。

 いや思っただけだから、実際やろうなんて思ってない。

 というか、よかった変態なおっさんじゃなかっただけで。

 実際は腹黒だったけど。



「なのでシャミセンさん、私の身体に無断で触ったとして訴えていいですか? 痴漢として」


 なぜに? というか偶然だろ?


「うん、キミはちょっと色々と謝ったほうがいいわよ」


 ナツカの目が怖い。


「くぅん」


 と、申し訳ない表情でオレを見ている、本物のチルル。

 実際はかっこよく凛々しい顔付きなのだろうけど、なんか誰かに雰囲気が似てる。



「みなさん、そろそろログアウトしないと、明日に響きますよ」


 パンパンと柏手を打ちながら、サクラさんがそうオレたちに言う。


「ここでログアウトしても大丈夫です。皆さんには各一名ずつ、土曜日の昼頃に転移アイテムをトレードでわたしますから」


 サクラさんはそう説明しながらも、ちいさくあくびをしていた。


「眠たそうですね」


「あ、すみません。普段あまり遊ぶ機会がなかったもので、それに後四時間くらいしたらお嬢が起きますので」


「えっ? ってかまだその時間って日も昇ってませんよ?」


「ええ。普段旦那さまが同じような時間に起きますので、こちらは先に起きて、いつでも目覚めのコーヒーをご用意できるよう心かけて置かなければいけないんですよ」


 あぁ、なんかチルルが誰に似ているのかわかった。

 サクラさんと似ていたのだ。

 なんかこう、わがままな主に苦労しているような。…………



「よしっ! とりあえず男から先にログアウトしなさい」


 ケンレンの言葉に、オレは同意する。


「まぁ、そうなるわな」


「なんでだ? 誰が最後でもいいだろ?」


 斑鳩がそう反論した。いや、お前なぁ、空気読め。


「とりあえずオレはこいつがログアウトしてから抜ける」


 いちおう言っておこう。斑鳩のことを信頼していないというわけじゃないが、こいつより先にログアウトすると、なにをするかわからん。


「ナ、ナズナァッ! お前オレを裏切るつもりか?」


「リアルの名前を出すな」


 まぁ、ハウルと白水さん以外は全員知ってるようなものだからいいんだけど。


「いまのところ、私たちの斑鳩さんとシャミセンさんの信頼度は、雲泥の差でシャミセンさんのほうが高いですよ。といっても、アリとシロアリくらいの違いしかありませんけど」


 テンポウが、笑顔で末おそろしいことを言いやがります。


「く、くそぉ」


 名残惜しいだろうが、ログアウトしないと、ホント明日に響きそうだ。

 斑鳩もそれがわかったのか、しぶしぶログアウトしていった。


「ほんじゃぁ、オレも抜けるわ。それじゃぁ、土曜日にでも」


 オレもログアウトし、翌土曜日の朝九時までログインできなかった。



 ……あのあと、オレと斑鳩がなにをされたのかは、まぁ想像に任せる。

 ただひとつだけ断っておく。性的なことはされてない。

 土曜日の昼頃にログインしてみたら、身体に落書きはされてたけどね。



『この前のオフ会楽しかったです。またみんなで遊びましょう』


『ケーキおごってくれてありがとうね。すこし見なおした』


『恋華が言ってたとおりの人だったわ』


『今度はわたしも都合ができれば参加したいです』


『お嬢さまの代わりに、ありがとうございます』


 ……というメッセージが添えられていた。



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