初戦闘の疑問とのこと
半角英数の誤変換を修正。
12/14:スキル取得文を修正。
じっくりと周りを見渡し、めぼしいモンスターに狙いを定める。
「相手は……そうだな」
目に入った、前方十メートルにいるウサギを狙うことにした。
そのウサギはオレの気配に気付いておらず、のんびりと草を食べている。
見てて、なんともほのぼのとしたモンスターだ。それをオレはいまから杖で攻撃を仕掛けようとしている。
「なんか普通に考えると動物虐待だよなぁ」
ゲームなんだから気にするなと言われそうだが、こうも現実に近いと、本当にやってるように思えてきて、こころもとない。
今回は魔法ではなく、攻撃力がどれほどのものなのかを確認するため、杖が当たる範囲まで相手に近付かなければいけない。
オレは意を決して、一歩、また一歩とウサギに近付いていく。
ウサギはまだ気付かない。
――そろそろ気付くかな?
そう思いながらも、ジワリ、ジワリと足を近付ける。
モンスターはこちらに気付かないが、これ以上近付いたら攻撃されそうだ。
足を一歩踏み出し、
「おらぁっ!」
……と、杖でウサギの頭をポカリ。
「杖装備してるキャラがこんな物理攻撃なんてしないよな」
「……っ! キュゥ」
と自分にツッコミを入れると同時に、ポテン……と、そんな音が聞こえるくらい、ウサギは柔らかく、気をうしなうように倒れ、消滅する。
ウサギがいた場所にコインが散らばっている。
「…………はぁ?」
いやいやいや? ちょっと待て?
攻撃してまだワンターンですよ? ウサギさん。
そんなね、出たばかりの冒険者の攻撃を一撃喰らっただけで倒れますか?
そんなオレのツッコミをさえぎるようにファンファーレとアナウンスが流れた。
◇プレイヤーのレベルが上昇しました。
・ポイント【5】授与されます。
どうやらレベルアップしたということらしいが……。
「いや、ちょっと待て?」
オレはレベルが上ったことにおどろくとともにツッコミを入れる。
そんな一回の戦闘ですぐにレベルが上がるのかい?
それってどうなんだ? 運営。……
「まぁいいや。どうせあとからきつくなってくるんだろ」
ウサギがいた場所に散らばっているコインを拾い集める。
コインは手に持った瞬間、消える。
「あらら?」
唖然としたが、すぐにメニューを開いて確認する。
◇シャミセン【職業/法術士】(+5)
◇Lv/2
◇HP25/25 ◇MP10/10 ■1N
「あ、増えてる」
最初[0N]だった所持金が[1N]に変わっていた。
どうやら手に持った瞬間、その人の所持金になるようだ。
「財布いらねぇなぁこれ」
五枚落ちていたのでそれら全部を拾い集めると合計で[5N]。
まったく割が合わん。
「もしかすると、レベルがすぐに上がるようになってるのか?」
すると、メニューボタンが光っていることに気付き、それを開いた。
◇体現スキル【忍び足】を取得しました
それを見て、はてと首をかしげる。
そんな一回の戦闘でスキルを覚えるのか?
「えっと[忍び足]か。えっと、なになに? 相手の攻撃範囲のレッドゾーンからでも先制が取れる……かぁ」
気付かれはするけど、相手の動きが遅くなって先制が取れやすいってことか……これって、アサシンが覚えるやつじゃないのか?
そう思いながら、下に目をやると、スキル取得の条件が記されており、さらに「はぁっ?」という、素っ頓狂な声をあげてしまった。
◇【忍び足】
*体現スキル/AGI値補正
・相手の攻撃範囲がレッドゾーンの場合でも先制が取れる。
◇【取得条件】
・モンスターとの間合いがレッドゾーンに入っても、気付かれずに攻撃に成功させる。
取得条件の説明を見て、オレは思わず納得のいかない声を出した。
「嘘だぁ、それってレベル1はどう考えても取得できないだろ?」
オレは目を点にする。
もしかしたらAGIとかが高かったら手に入れられたかもしれない。アサシンとか。
でも、オレのAGIすんげぇひくいよ。ってことはLUKで手に入れたのかね?
気を取り直してステータス画面を見ると、職業の横に[+5]という文字が出ていた。レベルアップの時に追加されたんだろう。
「やはり、ポイントを振り分けるみたいだな」
さて、どれに振り分けるか…………。
「魔法を覚えるということを考えると、INTに振り分けたほうがいいだろうな」
普通の魔法系職業ならそうする。オレだってそうする。
「だが、すべてLUKに振り分けてやる」
もはや決定事項だ。
省略するが、ステータスは【LUK35】から【LUK40】に変わった。
「あれ? HPとMPに変化はないのか」
おそらく、VITを増やせば、それにともなってHPが増えていたかもしれないが、レベルによる補強はないようだ。
「うーん、LUK補正があったのか? もしかするとクリティカルで倒せたとか?」
さきほどの理解不能な勝利に、オレは色々と推察してみる。
それでもせいぜい通常攻撃しかしていないから、150%くらいの補正しかないと思う。
モンスターのVITにおける防御力もあるから、一撃で倒せたとはあまり思えない。
「モンスター図鑑みたいなものはないのかね?」
メニューを広げると『図鑑』という項目があり、それを開く。
「お、モンスターが結構登録されている」
ウサギ以外にもネズミ、虫の名前が一覧に表示されていた。
「あ、見ただけだと図鑑に登録はされるけど、戦闘して勝たないとステータス全部が見えないんだな」
ウサギ以外のステータスはすべてハテナが並んでおり、ウサギだけしっかりとステータス情報が記録されていた。
◇ピーバーラビット
◇HP20 ◇MP0 ◇属性/【木】
・草原に暮らしている、人になつきやすいおとなしい兎。
・齧歯類のようなするどい前歯を持っている。
・攻撃を仕掛けてなければさほど恐ろしくもない。
・ただし攻撃されたらされたで強力な前歯で攻撃を仕掛けてくるため注意が必要。
・また素である穴蔵に住んでいる母兎は敵がその穴に近づいてきたと察した時点で毒霧を吹き出すスキルを発動する。
「HPはっと、…………20?」
そのHPを見て、オレは思った。
「あぁっと、たしか忍び足の取得条件が『モンスターとの間合いがレッドゾーンに入っても、気付かれずに』……」
オレはとっさに[F&A]にウィンドゥを切り替えた。
「[攻撃範囲]、[攻撃範囲]っと」
質問一覧に、モンスターとの間合いについての説明が載せられていた。
*F&A
◇モンスター、並びに対プレイヤーとの攻撃範囲について
・攻撃範囲は三段階あり、グリーンはモンスターと一番離れており、攻撃力はイエローの1/2。そこから攻撃が通っても、攻撃ダメージを受ける前に立ち去ることができる。
・イエローは剣と剣がぶつかる範囲。あたえられるダメージは100%。
・レッドは入った瞬間モンスターがすぐに気付き、被ダメージは150%。プレイヤーの攻撃も150%になる。さらにクリティカルが出れば+100%となる。
「ということは、あの攻撃で、合計で250%になっていたってことか?」
それでもたとえば与えられるダメージが[5]だったとしても、250%だから、せいぜい[12]くらいだろう。一撃で倒せるほどじゃない。
「もしかして、急所とかあったりして」
オレは[F&A]を上にスワイプし、下にある『モンスターの急所について』という項目を見つけた。
*F&A
◇モンスターの急所について
・モンスターにはその部分を攻撃するとかならずダメージ補正が出る【急所】という部分があります。
・その部分を攻撃するとモンスターとの間合いがグリーンの場合においても150%のダメージ補正になります。
つまり、これまでの、レッドゾーンによるダメージ補正の[150%]に加えて、クリティカルの+[100%]、そして急所によるダメージ補正が[150%]だから、合計でダメージが[400%]になっていたということになる。
これで通常攻撃であたえられるダメージが[5]だとしたら、キッチリ[20]になるから、ウサギのモンスターは一撃KOだ。
「LUK補正すげぇ」
そう思ったが、どうせ運が良かったのだ。次どうなるかわからない。
気を引き締めて、オレは次の戦闘へと気持ちを切り替えた。