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初恋の痛みとのこと

11/29:修正。オフでの会話や、ゲームとは関係のない話の場合はリアルの名前で表記していきます。


 オレは愛理沙たちのうしろを歩いていた。

 というより、すこし遠慮をしている。


「どうかしたんですか?」


 みんなとの足並みを遅くしながら、オレの横にやってきたのは流凪ちゃんだった。


「いや、多分みんな前々から会おうって話してたんだろうけど、オレなんかが飛び入り参加してもいいのかなって」


 最初に咲夢さんから話を聞いた時は、てっきり恋華が個人的に会いたいと思っていた。

 でも実際、箱を開けてみたら、女子会に男一人が入るようなものですよ。そりゃぁ若干の遠慮もする。


「大丈夫ですよ。昨日セイエイさんから[線]で聞いてましたから。それに私と楓も、シャミセンさんに会ってみたいなって思ってましたし」


 流凪ちゃんはそうはにかむような笑みでオレを見る。


「想像してた人とは違ってましたけど」


 どんな想像をしてたんだろうか。そこはあえて訊かないことにする。



「流凪っ! ナズナさん」


 オレと流凪ちゃんが話しているのに気付いたのか、楓ちゃんがそう呼びかけてきた。


「ふたりとも積もる話もあるだろうけど、キビキビ歩いて」


 陽花さんはすこしムッとした表情を見せている。

 メガネをかけているせいか、クラス委員長みたいな雰囲気だ。

 オレと流凪ちゃんは慌てた表情で、みんなのところへと駆け寄った。


「早くしないと映画始まる」


 恋華が、ゲームの中と同様、いつものように淡々とした口調で言う。

 多分この子、オンとオフではあんまり変わらないのだろう。


「いや、自分の分は自分で買うよ。ところでなにを見るんだ?」


 オレがそうたずねると、恋華はオレの腕を引っ張り、自分に耳をかしてと言い、オレの耳と自分の口を近寄らせた。


「『三回死ぬ女』っていう映画。今ちょっとした話題になってる」


 それを聞いて、オレは怪訝な表情で恋華を見つめ返した。


「それってタイトル的にホラー映画じゃないのか? 大丈夫か、もしかしたら苦手だって人もいるだろうし」


「みんなには言ってある。でもネタバレとかしたら面白くないし、最初から知ってたら結末とか調べそう。それにさすがに生半可なホラーはおもしろくない」


 ダメだ。この子……目が爛々と輝いてらっしゃる。


「でも恋愛要素もある」


 あ、そこはちゃんと考えてるのな。

 本当、恋華の思考回路ってどうなってるんだろ。ちょっと覗いてみたいものだ。



 駅を出て、駐車場に向かい、あのホワイトパールのミニバンを探す。

 咲夢さんが車の中で待っていたようで、オレたちに気付くとクラクションを一回鳴らし、注目を向けさせる。


「大丈夫か? オレを入れて八人だけど」


 いくら八人乗っても大丈夫とはいえ、間違いがあったらたまったものじゃない。


「そこは大丈夫。シャミセンには荷台に乗ってもらうから」


 恋華はそう言うと、自分は助手席のほうに坐った。


「いや、そこは助手席に座らせたほうがよろしいのでは?」


 咲夢が慌てた表情を見せる。


「昨日フチンにシャミセンも一緒だって話したら、男は黙って荷台に乗るものだ。だから荷台に乗せなさいって言ってた」


 そう説明する恋華。特に不思議に思っていないようだ。

 ボースさん、いくら悪い虫がつかないようにするためとはいえ、自分の娘に嘘言っちゃいけませんやね?


「まぁ、たしかにみんながくつろいで乗れるのを考えたら、荷台に乗ったほうがいいな。それじゃあ咲夢さん、荷台の鍵開けてください」


 空気を読んで、オレは咲夢さんにそうお願いをする。


「……わかりました」


 ミニバンのバックドアの鍵を開いた音が聞こえ、オレはドアを開けた。

 さいわい成人男性一人が坐って乗れるくらいのスペースはあった。


「ほんじゃ、失礼しまーす」


 オレはのぞのぞと乗り込む。


「それじゃぁ、閉めますね」


 そう言いながら、里桜はバックドアを閉めた。

 ――そういえば、これって交通法違反じゃ?

 そう思ったが、うしろからでもみんなをうかがうことができたのでよしとしよう。



 ちなみに席順は、運転席に咲夢、助手席に恋華。

 中座席には左から陽花さん、愛理沙。

 後部座席には左から里桜、楓ちゃん、流凪ちゃんが乗り込んでいる。


「それじゃぁ、出発しますね」


 咲夢さんはエンジンをかけると、車のアクセルを踏んで、ゆっくりと発進させ、駐車場を後にした。



 車の中では各々話題を出しながら話をしている。

 で、男一人のオレですよ。

 ――ついていけねぇ。というかみんな話題かえるの早くねぇか?

 その話題が終わったら次の話題。それが終わればまた別の話題。

 それこそ[星天遊戯]の情報交換もさることながら、洋服や化粧品に関するおしゃれから、友達に彼氏ができたみたいな恋話までさまざまだ。

 よくそんなにネタがあるなと思う。

 オレは一度みんなの様子を見るのをやめ、うしろの方を見た。

 さいわいうしろを走っている車からはオレが見えていないようだ。



 駅の自販機で買っていたペットボトルのミルクコーヒーを飲もうとした時だった。

 ポケットにしまいこんでいたスマホが震えだし、オレはそれを確認する。


『シャミセン、もしかしてつまらない?』


 というセイエイからの[線]メッセージだった。


『別につまらなくはないよ』


 と返信。女子の会話なんて滅多に聞かないから、実を言うとつまらなくはない。むしろゲームの情報も話しているので、今後のためにもなる。


『今日、みんなに会わせたい人がいる。だからシャミセンも誘った』


 ――会わせたい人?

 オレはそれが誰なのかたずねる。


『それはまだ内緒。でもみんな知ってる。シャミセンもゲームの中で何回も会ってる』


 恋華はそう返事を返してきた。何回も会ってる……ねぇ。

 皆目検討もつかなかった。



 さて車は駐車場を出てから十分ほどで目的地近くの駐車場で停まった。

 そして車から降りると、近くの映画館へと向かう。

 日曜だけにかなりの人で賑わっていた。


「結構、話題になってるんだな」


 そのほとんどが恋華が見せようとしている『三回死ぬ女』だ。


「それじゃぁチケットを購入してきますね」


 咲夢が手提げバッグを片手に、チケット売り場へと足を向ける。


「っと、オレも自分のチケット買ってくるわ」


 それについていくようにオレも咲夢の後を追った。



 さて、映画の内容を説明すると、


『ある古びた屋敷に老婆が一人だけで暮らしていた。ある日の大雨、一組のカップルが雨宿りをするためにその屋敷を訪れ、老婆と出会う。雨音は強くなり、その日はやまないだろうと老婆に言われ、カップルは一夜をその屋敷で過ごすこととなった。老婆はカップルに今まで三人の男性と付き合ってきたと話す。その三人と付き合っていた各時代で彼女は付き合ってきた男から殺される。しかしなぜか彼女は死なない。不思議に思ったカップルは、老婆の出生について調べることとなった』


 という内容だった。



「ま、まさかあんな結末だったとは」


 陽花が唖然とした表情を見せる。オレもさすがにあれにはおどろいた。


「主人公が最初から死んでいたなんて」


「女性視点から見ていたから気付かなかったけど、最後、老婆の影がなかったものね」


 各時代の男性が女性を見ていた。だが女性の名前が統一されていない。つまり主人公は男が付き合っていた女性に取り憑き、あたかも自分と付き合っていると、観客に思わせていたのだ。

 主人公の姿は最初と最後にしか出てこなかった。

 つまり本編はすべて主人公の視点、見た景色で映像が流れている。

 それで騙されてしまっていたのだ。



「意味がわかると怖いですけど、ちょっと感動しましたね」


 と流凪ちゃん。


「屋敷に咲いていた花がヒントになっていたなんて」


「たしかライラックだったよね?」


「花言葉は『初恋の痛み』だっけ?」


 首をかしげるように愛理沙がたずねる。


「カップルの女性に着せたウエディングドレスが、まさか彼女の母親のものだったなんて」


「途中『ゴンゲ~ッ!』って、怪魚が出てきた時のカップルのおどろきぶりには笑っちゃったけど」


 双子も楽しんだみたいだ。


「みんな満足してくれてよかった」


 と恋華。内心、自分が選んだ映画が不安だったようで、ホッとした表情を見せている。



「みなさん、小腹が空いてませんか? 近くに美味しいカフェテラスがあるんですよ」


 咲夢さんがそうみんなを誘う。


「へぇ、なにかおすすめはあるんですか?」


 オレは咲夢に近寄り、


「すこしくらいならオレも出しますよ」


 と耳打ちをした。

 いちおう男としての見栄くらいははりたかった。


「いえいえ、みなさんちゃんと自分の分はお払いになりますし」


 ご丁寧に断られた。

 まぁ多分恋華がオレを誘う前にみんなでオフ会を考えていたということはわかっていたのだけど、やっぱり見栄を張りたいというのが男心である。


「いや、あまりお金を使うってことないんで、それにこの前バイトの給料が入りましたし。この前恋華から[玉兎の法衣]で依頼料やクリスタルを出してくれましたから、すこしはお礼もしたいんですよ」


 ふと、これってRMTになるんじゃないかと思ったが、別にこれでなにかアイテムが得られるというわけではないしな。


「そうですか? それじゃぁよろしくお願いします」


 咲夢さんはオレの懐事情についてはあまり詮索しなかったが、多分そう持っていないと思ったのだろう。

 ただオレの気持ちをたててくれた。



「…………っ」


 ふと恋華を見ると、彼女は通りの反対にある大きな病院を見上げていた。


「お嬢さま、ちょっとお尋ねになられますか?」


 咲夢さんがそう恋華に声をかける。

 恋華は応えるようにうなずいてみせようとしたが、


「でも迷惑にならないかな?」


 と、いつもと違い、遠慮がちな表情を見せていた。


「個室ですから大丈夫ですよ。それにみなさん知り合いですから」


 恋華と咲夢さんの知り合いだというのはすぐにわかったが、オレたちも知っているというのはどういうことだろうか。



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