ちいさな好敵手とのこと
セイエイとボースさん親子、そしてサクラさんが暮らしている屋敷を出たのは午後三時。それから色々と買い物をして帰宅した。
理由は、親からメールでタマネギやら人参やら豚肉やら買ってこいと言われたからだ。
「信じられるか? これってオレの自腹なんだぜ?」
いくら大学の単位が取れればいいとは言っても、懐事情はそこら辺の中学生と対して変わらない。
バイトをしているとはいえ、ほとんど学費と携帯代、ネット代で消えるから、リアルマネーがジリ貧だ。ジリジリヒンヒンジリジリヒンヒンヒン……。
で、家に帰ったのは夕方四時になろうとしていたころだった。
なんだかんだとセイエイの家に長居してしまい、奥さんの出作りケーキとか軽食をごちそうになっているので、実を言うとそんなにお腹が減っていない。
それでも夕食は食べたいので、そのあいだ[星天遊戯]にログインすることにした。
[セイエイさまからメッセージが届いています]
インフォメーションを見て、セイエイがログインしていたことに気付く。
他のみんなは出かけているのか、ログインしているのはセイエイだけだった。サクラさんはたぶんメイドとしての仕事でいないのだろう。
さっそくセイエイのメッセージを確認。
『シャミセン、今日は来てくれてありがとう。あとあれ私のせい? それだったらごめんなさい。シャミセン大人だから私みたいなこどもの裸みても大丈夫じゃないかな? なんでフチン怒ってた?
話を変えるけど、知り合いがプレイヤーキラーに遭遇して、デスペナになった。プレイヤーキラーだとモンスターを倒すより経験値が上がりやすい。でもわたしはモンスターを倒してこそのレベル上げだと思う。効率悪いだろうけど』
というメッセージだった。
「自覚ないのかね?」
もはや天然っていうより、育ってきた環境?
ちなみにオレはロリコンじゃないです。でもセイエイの場合は、前にも例えたけど、なんかほのぼのとして、性的な目で見れないんだよな。
「自分の娘の裸を他人に見られて、笑ってられる父親っているのかね?」
オレはそういう経験がないからわからん。
でも多分許せないだろうな。ボースさん血の涙流してたもの。
セイエイのメッセージ後半に出てきた話だが、レベルあげにいいとはいえ、オレもあまりしたくない。
「ってことは、本当に素でレベル44なんだな。セイエイって」
これには素直にすごいと思った。オレなんて未だにレベル19だ。
イベントにも参加してはいるが、倒したとしてもプレイヤーキラー時の経験値とは違うようだ。
イベントまであまり日にちがない。
ビコウの言っていた最低でもレベル20にはしたいところ。
とりあえず以前ビコウ、セイエイ、ナツカに助言されたとおり、[はじまりの町の裏山]にあるレベル制限エリアでレベル上げするしかないか。
裏山を登り、レベル制限がされている山道に入ろうと鳥居をくぐった時だった。
「セイフウ、そこから攻撃して」
二人組のパーティーが[魔熊]と戦闘をしているのが目に入った。
「あれって、セイフウとメイゲツじゃないか?」
たしかナツカのギルドにいた双子の姉妹だった気がする。
オレと同様、ここでレベル上げをしているのか、セイフウは魔熊との間合いをイエローに、メイゲツはグリーンの位置で戦闘をしている。
メイゲツが詠唱を繰り出す。
「チャージング」
そう唱えると、セイフウの身体に魔法エフェクトが現れる。
そしてセイフウが放った矢には魔法効果が付加されていたのだが、その炎の威力は二倍に跳ね上がっており、炎の矢が魔熊を射抜いた。
効果は抜群だ。魔熊は粒子となって散ると同時に、ドロップアイテムを落としていった。
「お、レベルアップした」
と歓天喜地なセイフウ。
「よかったね」
と、自分のように喜んでいるメイゲツ。
見ててほのぼのとするぞ、この双子の姉妹。
「……っ!」
オレは警戒するように周りを見た。[蜂の王]のスキルで蜂の気配を感じたのだ。
そして一点に目がいった。メイゲツとセイフウの、おそらくグリーンゾーンちかくと思う場所に蜂モンスターが現れていた。
[スンリンフン]Lv10 属性・木
モンスターの情報が表示される。なんかくさそう。
それはそうと、セイフウはどうやらパラメータの振り分けをどうしようか考えている最中で蜂に気付いていなかった。
メイゲツも相談を聞いていて、同様に気付いていない。
――間に合うか?
自分のAGIに不満がある。
オレは「危ないっ!」と叫ぶべきか悩んだ。
その音で、モンスターがあわてて二人に攻撃を仕掛けないとは限らない。
だからこそ賭けてみた。
オレと蜂モンスターとの間合いがグリーンゾーンに入った。
そこからライトニングの詠唱。
モンスターの戦闘対象がオレに変わっている。……しめた。
「[ライトニング]ッ!」
詠唱を終え、攻撃魔法を蜂モンスターに放った。
攻撃は間合いによって命中率も変わる。
弱い攻撃魔法を確実に当てる場合、できるかぎりイエローからレッドまでの間合いで攻撃したほうがいい。
だか、オレと蜂モンスターの間合いはグリーンで、それだけでも命中率が下がる。
命中率をLUKで補う。
ある意味、賭けだった。
「くぅぎゃぁああああああっ!」
かろうじて命中。
蜂モンスターの羽根にライトニングの矢が突き刺さり、体の一部が消失した。
羽根をなくした蜂モンスターは地面に叩きつけられ、ジタバタとその場でもがき苦しんでいる。
「きゃあっ?」
それに気付いた双子が悲鳴をあげた。
オレはパッと蜂モンスターとの間合いをグリーンから、イエロー……レッドへと詰めていく。
そこから素で攻撃。錫杖の先で、蜂の身体を突き刺す。
蜂モンスターのHPも残り少なかったこともあり、なんとか倒すことができた。
[プレイヤーのレベルが上昇しました]
[[蜜蜂の羽根]を手に入れました]
とのこと。さっきのセイフウではないけど、自分も歓天喜地の気分だ。
「うし、目標のレベル20に到達!」
って、よく考えたら一週間やってていて、いまだにレベル20というのは遅い気がする。本当に成長スピード遅すぎるなこのゲーム。
「あ、あの……」
声が聞こえ、そちらに振り返ると、ジッとオレを見上げているメイゲツとセイフウの姿があった。
「す、すみません」
メイゲツは申し訳ないといった表情で頭を下げた。
はて? なぜにあやまる?
「蜂モンスターの存在に気付かなかった私たちを助けてくださったんでしょうか?」
メイゲツの問いかけは疑問形だった。たしかにいきなり羽根を失った蜂モンスターが出てくればおどろくし、助けてもらったのかわからない。
もしくは攻撃対象のところに自分たちが割って入ったのではないかと思ったのだろう。
……ヘタしたら攻撃が当たっていたかもしれないのだ。
もしかして、蜂モンスターに攻撃が当たったというより、彼女たちに攻撃が当たらなかったことのほうにLUKが生きたんじゃないか?
「ま、まぁ二人が無事ならそれでよかったよ」
オレはとりあえずそう言っておく。さいわい偶然にもレベルが上ったわけだし。
メニューを開いてパラメータの振り分け。当然LUKに全振り。
基礎値で130。[水神の首飾り]の付加は変わらず+8だった。
「早いんですね」
不貞腐れたようにセイフウが声をかけてきた。どうやらいまだにポイントをなにに入れようか悩んでいるご様子。
「オレはポイントをLUKに全振りしてるから早いんだよ」
「もしかして極振りですか?」
「いや、最初の振り分けは6D10で振り分けたんだよ。それを何回かやって、あまりをLUKに入れて、レベルアップした時のポイントもLUKに入れてるんだ」
そう説明すると、
「それって後でつみません?」
と、メイゲツからしごく当然のことを言われた。
「うん、それは覚悟してる。でもそういうプレイスタイルがあってもいいんじゃないかな? ゲームは楽しんだもの勝ちだしね」
むしろLUKが高いおかげか、結構レアなアイテムやスキルを手に入れてる。
というか、ビコウたちに出会っている時点で運使ってる気がしていた。
「よし決まった」
どうやらセイフウのポイント振り分けは終わったようだ。
「そういえば、魔熊と戦闘してる時、メイゲツが[チャージング]って魔法でセイフウの攻撃力を上げていたけど、あれって、[チャージ]と同じなのかい?」
「はい。[チャージ]は自分の魔法を強くできますけど、[チャージング]は味方の攻撃力があげられるんです。わたし、あんまり戦うのって苦手で」
オレも[チャージ]は覚えているけど、基本的に自分の攻撃力を上げるだけだ。[チャージング]を覚えておけば、今後チーム戦にはいいだろうな。
「それって取得条件とかある? [チャージ]を何回か詠唱するとか」
「いえ、私の場合は魔法の書で得ることができました。ただINTが40以上はないと厳しいかと」
うーん、オレの現在のINTは33だ。
話を聞くと、メイゲツのINTは基礎値で現在60は振っているとのこと。
「あと覚えているのは補助魔法以外だと回復がメインですね。攻撃も覚えようとは思ってるんですが、パーティーを組んでいれば、経験値がその人数分に分けられますから」
「それって、チームリーダーが上級で、モンスターが強敵だったとしても、四人チームだった場合、経験値が四分割されるってことでいいのかな?」
メイゲツは応えるようにうなずいた。
「でもそれはナツカたちが強いってことで恩恵がもらえるけど……あれ?」
オレはすこし疑問に思った。双子が一緒にゲームを始めていたとして、行動を一緒にしていることが多いだろう。
だから戦闘経験も同じくらいだと思った。
「えっと、さっきセイフウがレベルアップしてたみたいだけど」
「えへへ、今レベル18になった」
そう言いながら、セイフウは∨サインをする。
「メイゲツは?」
「今レベル17です。わたしクラブに入ってますから、ログイン時間は妹とくらべてすくないんですよ」
そうなると、セイフウがメイゲツを誘ったということだろう。
「部活ってことは、高校生?」
「あ、いえ……小学校のクラブ活動です。鼓笛隊をやってます」
それを聞いて、オレは、
「大丈夫なの? へんな勧誘とか引っかからない?」
と心配した表情で聞いた。
というか二人ともそれぞれひとつずつVRギアを持ってるってことなんだけど。
――あれって、たしかスペックにもよるけど、最低スペックギリギリでも二万くらいはしなかったっけ?
もしかして結構な金持ちだったりする?
「それはすこし心配していたんですけど、ゲームのやり方は妹がわかっていて、教えてもらいましたし、妹がナツカさんと知り合いだったみたいですから、安全ってことでギルドに誘ってもらったんです」
なるほど。たしかにナツカのところにいれば下手な勧誘に引っかかることはない。どうやら妹もしっかりしているようだ。
ふと、メイゲツに目をやった。あまり見覚えのない装備をつけていたからだ。
「この前会った時は着けていなかったけど、それってレアアイテム?」
オレはメイゲツの耳元を指さした。可愛らしい蝶のイヤリングだ。
「これですか? [鳳蝶の耳飾り]という、白水さんお手製の装飾品なんです。INTが10上がるんですよ」
お手製ということはオリジナルだろう。
このゲームではかなりたかい鍛冶スキルを持っているプレイヤーは、オリジナルの装備品を作れるらしい。
「そういえば、シャミセンさんはここでなにを?」
セイフウがそうたずねる。
「あぁ、次のイベントに向けてレベルあげをしようと思ってね」
「私たちと同じなんですね」
「同じってことは、二人とも今度のイベントに出るんだ」
そういえば、イベント内容はまだ発表されていない。
あとでケンレンあたりに聞いてみるか。
「ナツカさんから出てみたらって言われたんです。この前のイベントはナツカさんたちとチームを組んだんですけど、ほとんどナツカさんと白水さんがポイントを稼いでましたから、今度は二人で頑張って、いけるところまでいってみようかなって」
そうなると、二人はライバルになるということか。
「まぁ、こっちも負ける気はないから。もし戦うことになっても手加減はしないからね」
オレは笑顔でそう答えた。
「「はいっ!」」
と双子は笑顔で返事をする。
この二人を見て、自分もなにか、味方をサポートできる魔法かスキルを覚えるべきだなとも思った。
お知らせ。次回から日に一回の更新とします。大体19時に予約しています。
いや、ストックはあるんですが、そろそろ落ち着こうかなと。




