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次善とのこと


 そういえば、セイエイ、ハウル、セイフウは、それぞれ、小学生、中学生、高校生と綺麗に分かれているし、そろそろ夏休み明けのテストも終わっているころだろう。

 セイエイとかほとんど夏休み中は星天でほとんど見てるからなぁ。


「ちょっと気になったんだけど、三人ともテストって終わったのか?」


「「「んぐぅっ?」」」


 オレの質問に、三人はバツの悪い表情を見せた。

 これって、完全にダメだったってことじゃないのか?


「あまりに酷いからお祖父ちゃんから一週間ゲーム禁止って言われた」


 マジかぁ。セイエイとセイフウを見ると、ふたりとも似たようなものだったようだ。ってか、今やってるよね? 君たち。

 ちなみにセイエイから聞いた話だが、セイエイのクラスメイトである綾姫の成績はかなり良く、ハウルのクラスメイトであるテンポウも赤点だったそうだ。

 メイゲツに至っては学内ランキングに入るくらいの好成績。

 それに加えてセイフウは成績不振で、かなり落ち込んでいるようだった。

 姉は優秀だったが、自分はダメだったという、双子とか姉妹だからこその悩みなんだろうな、周りからなんでも見比べられるっていうのは。


「ま、まぁ……中間で巻き返せばいいんじゃないかなぁ」


 しかしまぁ綾姫からセイエイって頭いいみたいなこと言ってたが、やはり夏休み中、遊び過ぎたってところだろうな。



「き、気を取り直してモンスター探しましょう。まだまだ時間もありますし」


 セイフウが話を変えた。うん、野暮なこと聞いてスマン。


「そういえば、パーティーじゃなくても同じモンスターを倒すことはできたよな?」


「早い者勝ちになるけど、チームでの協力戦はできたと思う」


 前に、オレが死にそうになったところを、ビコウが助けてくれたからな、あの時もパーティーは組んでいなかったし。


「ただ、パーティーでの経験値と違って、個人での経験値になる」


 ソロでの経験値計算になるから、今のオレは少なくてもXb7以上のモンスターじゃないと経験値に期待ができないってことか。


「まぁ、それでもいいけど」


「だったら早い者勝ちってことだね。魔法盤展開っ!」


 いうや、早速ハウルは魔法盤を使って……


「半径二十メートル圏内っ!」


 さすがにエリア無尽蔵はダメだろ。お互い視界に入ったり、ピンチだった時は助けるとかしないと。


「ただし止めは一番最初に戦っていた奴に限る」


「それに対しては異議なし」


「それに対しては?」


「モンスターが多かったらどうするの? 多勢に無勢って言葉があるけど」


 ハウルがオレにそうたずねた時だった。



「それは大丈夫です。ソロ状態でのモンスターポップにはレベル制限が掛けられていますので」


 オレの肩に腰をおろしていたジンリンがそう説明した。


「レベルの制限?」


「ソロプレイでもXbが低い状態の人もいますから、できるかぎりそのXbよりは高くならないように設定がされているんです」


 ということは、オレの場合はXb7が最高ってことになるんだろうか。


「あぁ、だから最低レベルでXb3なのか」


 第二フィールドに入るには、まず条件としてXb5以上でなければいけない。


 まぁ新しいフィールドに入って早々、デスペナになるってのはちょっと嫌だものなぁ。パーティーでなら協力し合える分、モンスターのXbがそのエリアマックスまであるってことでいいのか。



 さてと、まずはルールの確認。



 1・ソロ状態で戦闘をする。

 2・ポップされたモンスターをできるかぎり一人で戦う。

   危ないと思ったら優先的に助けに入る。

   助けてもらったプレイヤーは必ずそのプレイヤーの手助けをする。

 3・モンスターにとどめを刺すのは、そのプレイヤーだけ。



 ということで話がまとまった。

 ちなみに全体攻撃による流れ弾で倒してしまった場合は、罰金として一匹につき回復ポーションを渡すということに決まった。

 オレとハウルはそれぞれ召喚獣が使えるのだけど、今回に限っては使用禁止とした。

 その理由が……、



「シャミセンとハウルはすぐモンスター見つけられる。でもわたしとセイフウはモンスターがポップされてからじゃないと見つけられない」


 と、セイエイから不服の表情で言われたからであった。

 たしかにセイエイの言うとおり、ワンシアとチルルがいればモンスターが出て来なくても察知することは可能だからな。

 そのスキルがあるから、不公平だと思ったのだろう。



 オレたちは四方に別れるが、できるかぎり相手に駆けつけられるか、ギリギリ遠距離魔法が届くくらいまでの間合いをとっておく。



 しばらく周りを見渡していると、モンスターがポップされた。



 ◇ナイトサラマンダー/Xb3/属性【火】

 ◇サンドラゴン/Xb4/属性【地】



 ナイトサラマンダーと表記されているオオトカゲは、赤が混じった紫色の体色をしており、舌をチロチロと出しながら、息吐くたびに火が出ている。

 もう一匹の、サンドラゴンは……いないんだけど?


「って、どこに行った?」


 もしかして見失った? モンスターがいきなりいなくなるってどういうことよ?



 ゴボッ!

 うしろからなにか、土の中から何かが出て来たような音が聞こえた瞬間、オレの背中をモンスターが貫いた。


「ガハァッ?」


 背後に回られた? っていうかいつの間に?

 体勢を立て直し、出て来たモンスターに攻撃を仕掛ける。


「魔法盤展開っ!」


 サンドラゴンの属性は地だから、システム上弱点属性は火になる。

 が、逆に言えば、それを同じ属性になっているナイトサラマンダーに、以前戦ったカラスみたいな同属性による回復体質だとすれば、オレの攻撃を甘んじて受け止めているだろう。



「それなら確認するまでだっ!」


 相手はまだダメージを与えられていない。

 それに同属性でもダメージがないということはなかったはずだ。

 右手に取り出していた魔法盤のダイアルを回していく。



 【LXYJF】



 スタッフから炎が吹き荒れ、ナイトサラマンダーを飲み込む。

 が、やはり同属性だからか、さほどダメージを与えることができなかった。


「まぁ、回復がなかっただけいいか」


 そのナイトサラマンダーが炎を吹き出すが、場所がグリーンだったこともあり、その攻撃タイミングを計ることができた。



 その隙を狙ってか、サンドラゴンがオレに攻撃を仕掛けてきた時だった。


「シャミセンさんっ! ちょっと避けてくださいっ!」


 セイフウの声が聞こえ、オレは彼女のほうに目をやると、指で空を指していた。


「上?」


 なに、なんかいるの?

 上を確認してみると、そこには無数の弓矢が上空を待っていた。



「なぁにこぉれぇっ?」


 おい待て? さすがにこれはないだろ?

 魔法みたいなエフェクトがないから、おそらく魔法武器だろう。

 んっ? たしか弓矢って、[BOW]じゃ――


「っていうか? あれ? セイフウって[B]と[O]の魔法文字使えるの?」


 お祭りマンボよろしく、降り注ぐ弓矢の雨を避けながらたずねてみた。


「[O]はさっき自力で、[B]は昨夜メイゲツからもらいました。……って、あれだけ降ってるのになんでダメージないんですか?」


 あぁ、そういうことね。まぁそっちは幸運値の恩恵だと思う。

 オレが対峙しているナイトサラマンダーや、セイエイ、ハウルが対応しているモンスターにも、流れ弾みたいにダメージを与えられており、しかも急所判定が入ったのか、スタン状態になった。


「まぁ、モグラみたいなやつは土の中に避難してるけど」


 うーん、できればそっちにもダメージ当たって欲しかったわ。



 そのサンドラゴンは、最初攻撃した時と同様、土の中から飛び出してきたが、さっきと違って魔法攻撃ではなかった。


「どこかの人はいいました。一度躱された必殺技は二度と使うな」


 さすがに同じ攻撃をされて学習しないほどバカじゃないんでね。

 出て来たサンドラゴンの攻撃を、うしろに飛び下がって回避する。



 スタッフを振り翳し、サンドラゴン目掛けて投擲する。

 スタッフの先がサンドラゴンのカラダを掠めたが、それでもダメージを与えることができた。



 【YTZVW】



 アポートで、投げたスタッフを自分の手元に引き寄せた。


「なんで、そこで魔法武器作らないの?」


 そんなオレを見ていたのか、セイエイが疑問そうに聞いてきた。


「いや、警戒はしてたんだけど、見えないところから攻撃されたら多分セイエイでも反撃できるかなぁって」


「むぅ~っ」


 失言だったか、セイエイが頬をふくらませた。

 VRギアがプレイヤーの感情を読み込んでいるため、そう演出してるんでしょうな。


「おーい、そこイチャづくなぁ」


 野次馬がいた。

 声の先を一瞥すると、ハウルがオレとセイエイに視線を向けながら、それでもモンスターと対峙していた。



 ハウルはナイトサラマンダーと、フクブクロウとかいう白黒のまだら模様をしたフクロウ。そして、マントを羽織ったような、ゴースト系のモンスターと対峙しているが、戦況はかなり不利と見える。

 ハウルが魔法盤で、そのゴーストの弱点属性と思われる、光の剣で斬りかかったが、まるで泡沫のように崩れて消えた。


「なぁもうっ! まだ二つ目のフィールドなのにっ! なんで姿消すかなぁ?」


 んっ? 今の攻撃、確実に当たってるように見えたんだが?


「あのスィヌスィア、結構ステータス高い。わたしも戦ってるけど攻撃結構避けられた」


 スィヌスィアって、いまハウルが攻撃してたゴーストのこと?


「幻視系っぽいから、攻撃が鈍らされている」


「物理はまずムリってことか」


 さてどう助けるか。


「ハウル、今HTどれくらい残ってる?」


「いま? ……二割ちょっと」


 それ、かなり危なくね? これはオレのところに引き寄せて回復させたほうが無難だろう。

 だけど一緒にモンスターを引き寄せてしまう危険性も、万が一にだが可能性がないとはいえない。



「セイエイ、お前のプレイヤースキルを見込んで頼みがある」


「わかった」


 即答ですか? まだなにも言ってないんですけど?


「ハウルをアポートでシャミセンのところに引き寄せたいけど、一緒にモンスターを引き寄せてしまうからわたしがスイッチでそれに攻撃すればいい」


「うん。まったくもって大正解なんだが」


 セイエイって自分以外の事は結構俯瞰できるんだよなぁ。

 だからなのか、一緒にいると鬼に金棒なんだよ。


「わたしも、多分同じことしてると思う」


 あ、そういう理由もあったわけね。


「そんじゃぁ手筈どおり。できればハウルにダメージが当たらない程度に頼む」


「フレンドだからそれはない」


 うし、決まった。


「ハウルっ! しっかり受け身とれよぉっ!」


 魔法盤を右手に取り出し、ダイアルを回していく。



 【YTZVW】



 アポートの魔法文字が展開され、手の平をハウルに差し出す。


「――っ?」


 グイッと、ハウルがオレのところへと引き寄せられてきた。

 それと一緒に、フクブクロウも引き寄せられてきている。



「セイエイッ!」


 パッと飛び出したセイエイの手には、いつの間に作ったのか、ふたふりの青竜刀。


「一閃っ……」


 ハウルと一緒に引き寄せられてきたフクブクロウに、連続で攻撃を仕掛ける。


「ハウルッ!」


「魔法盤展開っ!」


 セイエイの攻撃でかなりのダメージを与えられたフクブクロウに追い打ちをかける形で、ハウルがオレに引き寄せられながらも魔法盤のダイアルを回していく。



 【FUTXZCNZQ】



 爆裂魔法を解き放ち、フクブクロウにとどめを刺した。



「すげぇ……いぶくじぁ?」


 と同時に、爆風のせいで、引き寄せられる速さが増してしまい、オレはハウルを受け止めきれなかった。


「ふたりとも大丈夫?」


 セイエイの声が聞こえてるけど、ちょっとそれどころじゃない。

 いちおうオレが下敷きになったから、ハウルにダメージはないけど、その代わりハウルの片胸を鷲掴みしている状態だった。


「…………っ」


 ハウルが震えた目でオレを見つめてる。

 さすがに一発ぶん殴られそう。と思ったのだが――


「助けてくれたし、あんな状態で爆裂魔法使った自分が悪いから、殴るに殴れない」


 拳を震わせながら、ハウルはオレのカラダから降りた。

 やばい、正直殴られると思ってたから、変な汗出てきた。


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