黒風とのこと
17/01/05:文章修正
さてジンリンからのチュートリアルもある程度は理解できたし、あとはわからないことがあれば喚び出して聞くことにしましょう。
多分彼女もそれのほうが楽だろうし、習うより慣れろだ。
さっそく町に出てみると、古びた町並みだった。石造りの家が両サイドで並んだように建てられており、石畳だ。
出店と思われる屋台でアイテムを売るNPCの姿もあった。
店の屋根に目を向けると、
[YASAI][KUDAMONO][MAGIC]
という看板がそれぞれ、店の屋根に掛けられていた。
「なぜにローマ字?」
もしかして、[VEGETABLE]とか[FRUIT]だと石盤のヒントになるからかね?
ジッと看板を見ていると、[YASAI]の[S]の文字が点滅していた。
◇文字が不思議な光で輝いている。
というのがポップアップされた。
たぶん、あれが最初ジンリンが言っていた、石盤に埋め込まれる文字ってことだろうな。
しかし、どうやって手に入れるんだろうか?
困ったときのF&A。ってことで……
「教えてジンえも~んっ!」
そう口にしてみると、
「呼んだかい? シャミ太くん」
某猫型ロボットの真似をしながらジンリンが姿を現した。
というかなんでこれで出てきたのか小一時間ほど問い詰めたい。
「看板の文字が一文字点滅してるんだけど?」
「もう見つけたんですか?」
おどろいているのは、おそらく初めてから三十分も経っていないからだろうな。
「ごほん、それでは石盤を取り出してください」
そう言われ、石盤を右手に展開させる。
「石盤のポインターを、点滅している文字に照準を合わせて、予想するアルファペットをダイアルで選択してください」
つまりそれが正しければ、文字が手に入れられるってことか。
今もっていない文字は[B]、[C]、[F]、[J]、[O]、[Q]、[W]、[Y]、[Z]の九文字。
「今欲しいのは[O]だから、それに合わせてみるか」
ダイアルのアルファペットを[O]に合わせると、
◇不思議な光は蝋燭の火のように静かに消えた。
という文字が表示された。
「ありゃ、不正解?」
看板を見るとまったく光った部分がない。
「あらら、まぁそんな簡単に手に入れられませんよ。文字は他にも色々な場所にありますから、同じ文字なら違う文字を選べば、もしかしたら正解するかもしれませんよ」
ジンリンが苦笑を見せる。
「あっと、いちおう整理させて」
オレは石盤をジッと見つめる。
埋まっていないのは[B]、[C]、[F]、[J]、[O]、[Q]、[W]、[Y]、[Z]の九文字で、当てはめられたアルファペット以外を整理すると、[G]、[I]、[L]、[O]、[Z]、[S]、[A]、[R]、[P]の九文字がない。
ってことは、この文字がひとつずつなにかに当てはめられるってわけか。
「あれ? それならさっきなんで[A]は点滅してなかったんだろうか?」
「手に入れられる文字は複数ではなく単独で光ります。つまりさきほど[YASAI]という看板の文字のひとつが点滅していたのなら、その場にはもう手に入れられる文字がないということです」
「気をつけたほうがいいことってある?」
「そうですね。アルファペットはかならずしも大文字ではないということです」
小文字もありえ……もしかしてローマ数字っていう引っ掛けもあるってこと?
「あれ? もしかしてシャミセン?」
女の子から声をかけられ、そちらに振り向くと、黒尽くめのマントを羽織った二人の少女がいた。
◇ビコウ/Xb5
◇セイエイ/Xb3
ビコウとセイエイだった。
「シャミセンさんもはじめたんですね」
普段大学とかで会う時とは違い、ゲームの中でのビコウは丁寧口調だ。
「ついさっきな。っていうかもうレベル5か」
「ここらへんのモンスターだともう経験値は期待できなくなりましたけどね」
ビコウが苦笑いを見せた。
「モンスターのレベルが最高で5だった」
セイエイの言葉に、ビコウの苦笑の意味がわかった。
「ビコウのレベルが5だから、それより低いとどうなるの?」
「あくまで予測ですけど、モンスターのレベルが4だと経験値は[0.8]もらえるくらいですね」
「セイエイの場合は?」
「わたしは今レベル3だから、モンスターが2だと「0.6」ってところかな」
つまりモンスターのレベルが低い場合は、[モンスターのレベル/プレイヤーのレベル]って思えばいいわけね。
まぁこれはジンリンからのチュートリアルで聞いたけど、再確認。
「でもシャミセンさん、さっき石盤を展開してましたけど」
「あぁ、さっき文字を見つけたんだけど、予想外した」
「すごい。わたしたちまだ一文字も正解してない」
セイエイがちいさく目を見開く。いやオレも正解してないけどね。
よほどおどろいているって感じだが、オレは別のことが気になっていた。
「それはそうと、セイエイ」
「なに?」
いつもどおりの反応で、本人にキョトンとした目で首をかしげられた。
セイエイの容姿は[星天遊戯]と特に変わり映えはしないのだが、首元の装飾品で施した襟とつながったカラシリスのような薄いビロードの布は、彼女の胸を隠す程度で、ミニスカートの動きやすそうな服装だった。
すこし横を向くと、胸がチャイナドレスのスリットのようなかたちで見えている。
セイエイの少女的な雰囲気と相反する女性的な容姿にこの服装では、扇情的と言えよう。
「興奮しました?」
「しないっての。っていうかそれってどこで手に入れたの?」
ビコウのからかいにツッコミを入れてから、本人に聞いてみる。
「最初に服が選択できるやつで、動きやすいものないかなって選んだ」
「なにそれ? オレ普通にマントをもらっただけなんだけど?」
っていうか、男性プレイヤーに対する扱いが雑じゃね?
「あっと、多分女性プレイヤーは自由に服が選べられるようですね。ちなみにわたしも選んでみたんですけど、どうですか?」
そう言いながら、ビコウはその場でぐるりと回った。
ビコウはクレタ女性のようなコスチュームで、紅鶸色のヘッドドレスをかぶっており、コーセレットの上にシルバーの胸当てが当てられている。それもあってか彼女の豊満な胸の揺れがない。
まぁそれで揺れてたら、胸当ての意味がないけど。
「あ、そうだ。恋華、ちょっと手をうしろで組んでくれない?」
ビコウにそう言われ、セイエイは言われたとおり、両手をうしろで組んだ。
「で、腕を伸ばすように胸を張る」
「こう?」
セイエイは胸を張るように腕を伸ばしていく。
どうでもいいけど、なんかまた成長してない?
「で、手を放して脱力」
指示通りに動くと、セイエイの上半身は前後にバウンドする。
それ以外に特に変化はなかった。
「……おねえちゃん、なにさせたかったの?」
特に気にもしてないらしく、セイエイはキョトンとしている。
「うーん、特におっぱいが揺れるってわけではないみたいですね」
「アホか」
自分の姪っ子でなんて実験してんだよ。
「アホかってなんですか? 気になるじゃないですか? この子の服装って軽装に近いですから、女の子の胸が揺れるかとか」
「テメェでやれっ!」
この中だとビコウがいちばん大きいでしょうが?
「こんな公の場でですか?」
ビコウは胸元を隠すように身体をくねらす。
「だぁれもこんなところでやれとは言ってないって。個室で確認すればいいでしょ?」
なんかモンスターと戦闘する前から疲れが出てきた。
「それじゃぁシャミセン、フレンド登録しよう」
セイエイからの申し出。別に断る理由もないし承諾。ビコウとも流れで登録完了。
◇[フレンドプレイヤー]
・セイエイ〈ログイン〉[ルア・ノーバ]
・ビコウ〈ログイン〉[ルア・ノーバ]
今気付いたけど、[星天遊戯]の時も最初にフレンド登録したのって、ビコウなんだよな。今回はセイエイが先だったけど。
「シャミセンさんはこれからどうします?」
「こっちの戦闘に慣れたいから、ある程度戦闘しようかなって思ってるけど、二人は?」
「わたしたちはこれから銭湯に行くことになっているので、ログアウトするためにわたしの個室に戻るところです」
「お風呂壊れたの?」
そうたずねると、ビコウとセイエイはうなずいてみせた。
「ボイラーの調子が悪くなってきたので、今日一日は使えないんですよ」
「フチンがさっき帰ってきたから、みんなでお風呂入りに行く」
「なるほどね。まぁゆっくり浸かってきなさい」
二人とはここで別れて、オレは戦闘システムに慣れるため、フィールドへと足を運んだ。




