悪役令嬢ぴるぴる2
月日が経つのは早いものです。
私も10歳になりました。
努力の甲斐あり、美少女へと成長することができました。
エド君ありがとう。
8割はエド君の努力であり功績です。
腰丈まである銀の髪が艶々なのは、エド君が毎朝毎晩精魂込めて香油を駆使しつつ梳いてくれるからです。
透明感のある白磁の肌は、エド君が献立から作った食事を規則正しく食べさせてくれるからです。
手作りクリームでのマッサージも毎日気持ち良いよ。
爪を磨いてくれるのもエド君だね。
桜色の爪って、自分のものとは思えないぐらい可愛いよ。
でもね、実は今、悩んでいることがあるの。
「いかがなさいました、お嬢様」
相も変わらず、エド君に抱き上げられて移動する私がいます。
そうそう、これこれ。
「大丈夫よ、エディ。なんでもないの」
にっこり応える私。
お嬢様らしい可愛い笑顔も様になるでしょう?
なんて、エド君に聞いたら、もちろんですお嬢様って返ってきそう。
エド君に抱かれて移動するのを、止めるタイミングがないままここまで来ました。
最近一人でちょっと移動しようと思ったら足元が覚束なくて、そういえばあまり自分の足で歩いてないなと、はたと気がつきました。
はい、もう一回。
そういえばあまり自分の足で歩いてないなと。
・・・・・やばいんじゃないの、私?
ようよう気がついた瞬間でした。
幼い頃はさんざん抱っこをねだっていた私。
今更といえば今更の今になって、なんて言えばいいだろう。
しかも私のせいで、エド君も抱っこが当たり前になってるから、自分で歩くとか言ったらエド君が寝込みかねない。
甘えまくった私に応えて、エド君の甘やかし&過保護も進化しちゃったからなぁ。
エド君のお手入れのおかげで、見苦しくないように程よい筋肉もついているはずだから、バランスの問題だろうか。
それなら、練習してれば、まあそのうちスイスイ歩けるようになるよね。
そういえば、エド君はいつまで私を抱っこし続けてくれるつもりなのかな?
「エディ、私、重くない?」
「お嬢様は羽根のように軽いですよ」
あらまあ、うふふ。
「今日はお兄様の稽古をするの?」
「そのようですね」
この5年の間に、私もいつまでもエド君を縛り付けていてはダメだと思って、反省した。
エド君の剣の稽古や学問とか、稽古場に私も一緒に行ってエド君の姿が見えるところで見学したり、学問系はエド君と一緒に家庭教師についたり。
おかげで、公爵家の剣の稽古場には見学用の東屋が建てられ、私とエド君は今そこに向かっているのだ。
東屋にはゆったりした長椅子とティーテーブルが設えられており、ふかふかクッションももちろん用意されている。
沈み込むようなそこに下ろされるや、エド君が胸元から出した櫛で髪を梳られ、襟元や袖口もささっと調えられる。
細かいところまでありがとう。
今の私はきっとすばらしい絵になることでしょうね。
「エディ、ねえ、勝利の女神になるから、そこに座って」
「お嬢様、勝負ではなく、稽古ですよ」
「いいじゃない。ね、エディ」
にこにこにこ。
エド君が弱い私の笑顔。
私が狙って微笑んでることはエド君も分かってる。
分かってて付き合ってくれるのだから、やっぱりエド君は甘い。
もうそろそろ顔面に張り付きそうな苦笑を浮かべ、片膝を立ててエド君が私の前に跪く。
「エドワードの勝利を祈ります」
エド君の額に唇を押し当てる。
少し離れて、緑色の瞳を見つめた。
「どう? 勝てそうな気分になる?」
「たいへんありがたいご利益を感じます」
「えへへ」
勝てそうも何も勝負しないってエド君は言ってるものね。
15歳にしてエド君も完成されちゃった感じだよ、ほんと。
今日の私の服は、薄い青絹のドレスにデコルテ部分が小さなレース編みを品良くあしらって飾っているもの。
刺繍を施した繊細な作りの白手袋は、外に出るときにいつも嵌めてくれるけれど、通気性も良く気に入っている。
東屋には屋根がついているのに、それとは別にパラソルみたいな大きな日傘を備えてくれる始末。
私のお世話も完璧。
「あ、お兄様」
稽古場にお付とともに入ってきた少年は、お父様のミニチュア版だ。
お父様よりも若干髪色が明るいけれど、たぶん近い将来あの色に変わっていくだろう。
少なくとも私があの呪われた学園に入学するまでにはね。
ゲームの中で見たときには、くすんだ金髪に紅色の瞳と、ちょっといっちゃった感じの配色だった。
ひとつ上の兄は学園卒業後に官僚の道を進んでいたとかで、ゲームに登場するときはいつも厳しい顔つきをしていて・・・。
なんですかね、あの眉間の皺と人を射殺しそうな眼差しは。
うう、ぴるぴるしてきた。
「リリウム、その、息災だったか」
近づいてきた兄が何か言ってる。
どこのお爺さんだよ。
息災とか、貴族の子供ってそんな言葉使わなあかんの?
「・・・・・・・・はい」
「・・・うむ。それは重畳」
いやだから。
兄が私の姿を見るたびに癇癪を起こしていたのも、私が5歳になるぐらいまでだった。
憑き物が落ちたみたいに、気づいたら兄は大人しくなっており、たまに邂逅があると、古めかしい言葉をかけてくる。
お子ちゃまの癖にと思いながらも、怖いので、俯いている。
ただでさえ目も表情も怖い上、私にとっては父も兄もいずれ私を排除する存在だ。
おまけに二人とも相変わらず私に対して冷ややかな対応を崩さない。
なんかもう、救いが見えてこない。
「エドワード、今日こそ貴様を叩きのめしてやる!」
ちみっこ父ならぬ兄が、物騒な宣言をしだした。
どうした兄。
やる気だな。
怖いぞ。
「アラン様、稽古は勝負ではないと」
「ちょっと過激な対戦式の稽古や、模擬戦と思えばいいじゃないですか」
呆れたようなエド君に口を挟んだのは兄の従者だ。
名前は知らない。
兄の学友として置かれているので、兄と同じ年なのだけれど、イイ具合に空気が抜けている。
「エディ、行ってしまうのね」
「申し訳ありません、すぐに戻ってまいります」
「待ってるわ」
エド君のすぐは、すぐだ。
エド君の稽古が再開されると、エド君はめきめきと上達した。
素振りの稽古はすぐに終了したし、対戦稽古も早々に勝って帰ってきて私の世話を焼いてくれた。
そう、私の世話の合間に稽古をしていたといっても過言ではない。
人に稽古をつけることも鍛錬のひとつといわれ、今では兄に稽古をつけたりしているぐらいだ。
「オリアスティアーノ、お嬢様のそばに控えていなさい」
「はい」
兄の従者が私の足元にひざまずいて控える。
・・・・・・お、おり?
え?
「それでは、お嬢様、行ってまいります」
「う、うん。いってらっしゃい」
兄の従者、名前長すぎでしょう。
向き合って一礼した二人が打ち合いを始めると、カキンカキンと良い音が響いてくる。
一生懸命打ち込む兄に対して、エド君は余裕綽々といった様子だ。
「エドワード様、お強いですね」
「うふふ」
そうでしょうそうでしょう。
鼻高々である。
「お待たせしました、お嬢様」
「ううん」
全然待ってない。
俊殺だったからね。
稽古的にこれでいいのか疑問だけど。
「風が出てまいりましたね」
そよ風がね。
エド君は兄の従者をどかして跪き、乱れたらしい私の襟元のレースを整えてくれた。
その乱れ、私にはまったく分からないけどね。
うんうん、突っ走ってるね。
嫌いじゃないよ、そういうの。
「ありがとう、エディ」
「こちらこそ、女神のご利益に預かりまして」
そんなこともしたね、そういえば。
にっこり。
「おめでとう、エディ」
「ありがとうございます」
あら、やだ。
離れた場所で、負けた兄が従者に宥められている。
11歳だもんね。
負けたら悔しいよね。
でもその眼力はやめてほしいな。
エド君をにらむ眼力の余波を受けて、私の精神が疲弊する。
「エドワード、次はアスティだ」
アスティ。
そうか、アスティか。
いたね、そういえば。
いたよ、アスティ、乙女ゲームの攻略対象に。
兄の側近で、兄に接触する主人公の素行調査に来てた。
名前表示されても、読むの面倒で一度もまともに読んだことなかったな。
ぐるぐるしてる間に、エド君が立ち上がってしまう。
「あ、エディ」
「はい」
再び腰を下ろして跪くエド君。
躾の良い犬みたいだ。
「エドワードの勝利を祈ります」
さっきみたいに額に唇を押し付けようとしたら、エド君の少し骨ばった手が私の頭蓋骨を押しとどめた。
「エディ?」
「汗をかきましたから」
「大丈夫よ」
「いえ」
「汗なんてかいてないわ」
ぐぐっと押せば、エド君はどうせ私に力を込められないから、ほら押し切れた。
唇を押し当てたついでに、舌先でエド君の額を舐めてみる。
「ほら、汗なんてかいてないわ」
塩気はなかったよ。
「・・・お嬢様」
「なあに?」
疲れたようなエド君、稽古はこれからでしょうに。
「行ってまいります」
「いってらっしゃい。早く戻ってきてね」
兄と二人きりで残されるとか、胃がきりきりするわ。
「承知しました」
二人を見送ると、兄は寝椅子と別にあるソファに腰掛けた。
私はひたすらエド君に焦点を当てて、兄が視界に映らないようにする。
兄だとて普段は私の存在を無視しているはずなのに、
「リリウム」
何故か話しかけられてしまった。
助けてエド君。
「・・・・・ぁい」
あいってなんだろうね。
「お前はいつまでエドワードをそばに置くつもりなんだ」
え。
「エドワードもそろそろお前の世話係ばかりさせておるわけにもいかないだろう」
え。
「父上も、一度エドワードは他の屋敷で修行させてはどうかと仰っていた。お前もそろそろ・・・・・」
え。
云々かんぬんはもはや聞こえん。
私の鉄壁の護りが、奪われようとしている。
防御ゼロで魔王に挑めと?
それはもはや戦って来いではなく、死んで来いですよ。
エド君は私の命綱。
ただの従者ってだけじゃないんですよ、お兄様。
「えでぃ」
涙声で名を呼べば、手加減もせずに兄の従者を吹っ飛ばして、駆け寄ってくる。
「どうしましたお嬢様!」
「えでぃがいなくては、私は生きていけないわ」
ほろほろと涙をこぼす。
明日からの生活だってままならないのに。
「エドワードはずっとお嬢様のそばにおりますとも」
「でも、お兄様が・・・」
「アラン様、お嬢様を泣かせるとは、どういうおつもりですか」
エド君の口調こそ丁寧だが、漂う冷気はブリザード並だ。
「いやー、泣き顔も綺麗ですねー」
アスティは神経ナイロンザイルで羨ましいわー。
「父上もエドワードは他の屋敷に行かせると仰っていたぞ」
「確かにそういったお話も頂きましたが、立ち消えになりますよ」
「なんだと」
「旦那様は領地の視察を早々に終えられて、さきほどご帰宅なさいましたので、後ほどお話を聞くことになるかと思いますが、立ち消えることには間違いないかと」
「先ほどの馬車は、父の乗っていたものか」
兄には思い当たることがあるようだ。
ずっとエド君と一緒にいたけれど、まったく気づかなかったよ。
なんだかイライラしだした兄に、昔の兄の癇癪を思い出してぴるぴるする。
「え、えでぃ」
「はい、お嬢様」
「ずっと傍にいてくれるのね」
「もちろんでございます」
「そうよね。エディ、大好きよ」
ほっとして首に抱きつく。
その後、兄は空気となり、濡れた布で汗を拭いたエド君に抱き上げられて部屋に戻り、エド君はセバスチャンに呼ばれて父の書斎に行き、立ち消えになったことを改めて報告してくれた。
ぐっじょぶ。
私はベッドの上からエド君に飛びついて喜びを表現してみた。
難なく受け止めてくれるエド君にますますテンションが上がる。
艱難辛苦を乗り越えて、ちょっと箍が外れていたみたいです。
そして今日は、なんと、歩く練習をしてみようと思うのです。
ふ。
歩く練習が必要になるとか、考えてみたこともなかったよ。
10歩ぐらいは大丈夫。
ただ、そこから先が危うい。
筋力はあるので、だんだん思わぬ方向に進んで足がもつれて倒れこんでしまうだけ。
・・・だけというのは語弊があったかもしれません。
あとは、エド君対策。
相変わらず一人で部屋で食べる朝ごはんを終え、柔らかいナプキンでエド君が口元を優しく拭ってくれる。
あれ?
エド君て、ダメ人間培養器?
いやでも、エド君をそうしたのは私だから、私はダメ人間培養器開発者?
よし、そこはもう考えない。
「エディ、あのね」
「はい」
かちゃかちゃというような音を立てることなく食器類をワゴンに片付けるエド君の背中に、ごくりとつばを飲み込む。
「私ね、エディと手をつないで歩きたいの」
だから抱き上げちゃダメだよ。
ちなみに反抗期じゃないから安心してね。
「エディ?」
あらやだ、止まっちゃった。
「エディ、エディ」
再生ボタンはどこにあるの。
「申し訳ありません、少々動揺してしまいました」
エド君が動揺するなんて、珍しい。
振り返ったエド君は、確かに端正なお顔がちょっと崩れてるかも?
「ワゴンを廊下に出してきますので、少々お待ちください」
「はあい」
エド君がワゴンを廊下に出すと、他の使用人が後は片付けてくれるらしい。
戻ってきたエド君にいつもの癖で両腕を伸ばしそうになり、慌てて胸元に引っ込める。
仕切りなおして片方の手をパーにして差し出す。
逡巡しながらも手をとってくれるエド君の腕にしがみつくようにして、ひとまず立ち上がった。
よ、い、しょ、っと
「エディ、お母様の肖像画を見に行きましょう」
直立を保つって実は意外と難しいのかもとかアホなことを思ってしまった。
歩き出して、あれ?って思った。
いつの間にかエド君の腕が腰に回されていて、私はエド君の腕にしがみつきつつ、空いたほうの手でしがみついたエド君の手と指を組み合わせて手をつなぐという、8割がたエド君頼りの歩き方をしていたのだ。
・・・初日だし、10割頼ってるよりはいいよね。
言い訳じゃないよ、単なる負け惜しみだよ。
「ねえ、エディ」
「はい」
「あのね、別のお屋敷に、行きたかった?」
「いいえ。ありがたいお話でしたが、この屋敷での仕事を全うしたかったので」
見込みのある人間を別の屋敷で修行させて、元の屋敷に戻す際に大役に抜擢するのはよくあることらしい。
あのセバスチャンも、若い頃はいくつかの屋敷で経験を積んできたのだとか。
別の屋敷での修行の話が来るというのは、見込まれているといことなのだ。
エドワードは出世の話を蹴ってしまったようなものなのだ。
ん?
でも、父が立ち消えにしたんだよね。
どうしてダメになったのかって聞いたら失礼・・・だよね。
私の世話役だから、期待を持たせておいて落胆させてみたとか?
いやそれはせこ過ぎるでしょう。
ちろり。
緑色の瞳を見上げると、涼やかに見返された。
「先様のご事情ですよ」
「え」
「今回の話が立ち消えになった理由です」
「あ、そ、そうなの」
「はい」
でも、じゃあ、また別の屋敷に行く話が持ち上がるかもしれないってこと?
涙腺が。
あ、やばい、ぴるぴるしてきた。
「エドワードはお嬢様の傍にずっといますよ」
良いタイミングでエドワードがぶっこんでくれる。
うんうん、そうだよね。
「ありがとう、エディ」
ほろり。
微笑んだら涙が零れちゃった。
胸元のチーフでエド君が丁寧に拭いてくれる。
「仲睦まじくいらして、よろしいことですね」
この声は。
振り返るとセバスチャンがそこにいた。
「おや、珍しいことですね。リリウム様がご自分の足で歩いていらっしゃるとは」
ですよね。
そのお気持ちは十分に理解できるつもりです。
ただエド君にはちょっと理解するのは無理だったみたい。
なんかイラっとした空気が伝わってくる。
見上げると端正な笑顔なんだけどね。
「セバスチャン、私に、なにかご用事があるの?」
あるなら聞くよ?
だからエド君をいじめないでね。
「いえ。リリウム様が歩いていらっしゃるという話を耳にしたものですから、確認に参りました」
「まあ、そうなの」
にっこり。
じゃあ確認できたよね、さっさと去えてね。
そんな暴言が聞こえたのか。
「リリウム様、なぜ歩こうと思われたのでしょうか」
ひた、と見据えられてしまいました。
ごめんごめん、謝るから去えて。
「・・・エディと手を繋いで歩いたり、並んで歩いたり、したかったからよ」
けして他意はないんです。
何かあったときに逃走するためとかではないんです。
できれば目標は走って賊を振り切れるぐらいになることなんですけどね。
ふと思い出したら、ルート次第では私修道院にたどり着く前に賊に殺されてましたから。
しかも醜聞を嫌った公爵家が手配したんだろうとかエピローグでやってたよ?
生涯幽閉もやだけど、人生閉じちゃうのも困っちゃうよね。
「えでぃ」
この人怖い、追い払って。
ぴるぴると縋りつくと、心得たのか(?)エド君は笑顔でブリザードを繰り出した。
なんと。
「もう、用事はお済みですよね」
力強く言い切る。
猛吹雪に私の心がくじけそうになる。
いかん。
この猛吹雪は私のためのものなのに、私がやられてどうする。
う、敵はどうだ。
「そうですね」
引いたが、あの顔は負けて引いたわけではなそうだ。
敵ながら天晴れ。
「では、失礼します」
さようなら、できれば永遠に。
セバスチャンの背中が見えなくなると、息を吐き出す。
「セバスチャンが苦手ですか?」
あれが得意な人なんているだろうか、いや、いるまい。
反語だよ、反語。
思わず反語使っちゃうよ。
「エディは好きなの?」
「尊敬できる方ですよ」
まあ上司相手への感想を聞かれれば、そう答えるよね。
たどり着いた先では、母の肖像画がステンドグラス越しの淡い光を浴びて、銀色の髪と紫水晶の瞳を煌かせていた。
いつ見ても綺麗だこと。
「お母様がご存命でいらしたら、きっと、何もかも違っていたでしょうね」
父や兄の私への態度は違っていただろうし、そうしたらリリウムは悪役令嬢になっていなくて、王太子から婚約を破棄されたとしても、実家から勘当更迭されることはなかっただろう。
乙女ゲームのイベントのひとつだから、なくなることはない流れなんだろうけれど、気分のいいものじゃない。
私は他人の恋の成就のためなんかで人生を棒に振らされるのだから。
この肖像画の母も、話の展開のために殺されたようなものだろうか。
設定はあくまでも設定だ。
制作者たちだってあくまでゲームの設定を作り上げたに過ぎず、この肖像画の人を殺す意図があったわけではないんだろうけれど。
「そうですね。奥様がご存命でいらしたら、エドワードがお嬢様にお仕えすることもありませんでしたしね」
「そうなの?」
「はい」
うーん。
たらればを考えても仕方ないとは思いつつ、究極の選択だなぁ。
今更選択のしようもないけどね。
「エディ」
「はい」
「もしも、他にしたいお仕事ができたら、そのときは教えてね」
解放すると約束はできないけれど、善処するよ。
私に害のない範囲でね。