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悪役令嬢ぴるぴる13


 曰く、学園の理念を真っ向から進行するという立場のもとに、身分という概念の一切を捨て去った少女。

 曰く、くるくるとよく変わる表情が愛嬌を感じさせると、一部の生徒に人気がある。

 曰く、婚約者のいる男子生徒に対しても、分け隔てなく接する。

 曰く、学園でも人気のある男子生徒に、何故かよく接触する機会が多い。

 曰く、国内上層部の家庭の事情にも通じているようである。



 一切って、先生にも学園長にも、自分の独善的な正義感でお説教してること?

 まあ、この学園の生徒って、あまり不愉快な感情を表情に出したり、大きな口を開けて笑うとかしないからね。むしろ感情をそのまま表情にのせるって、浅薄だと思われるからね。

 公平ね、こーへー、素晴らしいね。

 攻略本でも持ってるんじゃない?

 攻略本でも持ってるんじゃない?

「そういえば、アランのところにも現れているみたいでね」

 な・ん・で・す・と・・・!

 そんなまさか。

 兄のルートは、夏休み後の収穫祭での出会いから始まるはずなのに。

 夏休みを使えなくて、攻略することにどれだけ苦労したことか。

 これがリアル万歳ということですか。

 ゲームの縛りに負けずに攻略。

 あかん。

 感心してる場合じゃないじゃん。

 余計リリウムに不利になったんじゃないの。

「リリウム、紅茶が冷めてしまっただろう。ブライアン」

 王太子がブライアンに視線を流すと、すかさずブライアンがティーポットから新しいカップに温かい紅茶を注いでくれる。

 そしてそこにエド君がミルクを投入。

 なんという連係プレイ。

 いやいや、苦しゅうない。

 さらに、細かく砕いたナッツを散らした焼き菓子が口元に運ばれる。

 あーん。

 もぐもぐ。

 かりかり。

「おいしい」

「ようございました、お嬢様」

 にっこり笑って良いタイミングで口元にカップをあてられ、紅茶を飲む。

 よきかな。

「夏休みに入る前ぐらいかな。リリウムの友人だと言って会いに行ったようだよ」

 あわわわわわ。

 なんで知らないところで私の名前が使われてるの。

「なんでも、リリウムに届け物を頼まれたとかでね」

 知らない知らない知らない。

 なにそれ。

 頼んでない。

 話したこともない。

 ぴるぴる通り越して血の気が引いてく。

 あ、でも、血の気が引いたせいで、指先が痺れたようになってぴるぴるしてる。

 こんなぴるぴるの仕方もあったんですね。

「お嬢様」

 血の気が引いて冷たくなった指先を、エド君が手にとって暖めてくれる。

「えでぃ」

 舌足らずに呼びかけると、手を握ったまま跪いて、近くなった翠の瞳がじっと注がれた。

「大丈夫ですよ、お嬢様」

 大丈夫。

 エディがそう言うのなら、きっと大丈夫。

 信じてるよ、エド君。

「そうね、エディ。エディが言うのなら、大丈夫よね」

「はい。お嬢様に降りかかる全ての災厄は、エドワードの駆逐対象でございます」

 甘く微笑むエド君。

 くちく?

 くちく?

 ・・・あら、まあ、そうなのね。

 なんだか耳慣れない言葉は、意味のある言葉として頭に到達しなかったけれど、まあ気にしない。

 エド君と視線を合わせて、にっこり。

「リリウムは、エドワードととても仲が良いようだね」

 うふふ、やだ、そう見えますー?

 王太子の言葉についつい口許が綻ぶ。

 けれど。

「おやおや、これは、叔父上とアランが面白くないわけだ」

 続いた言葉に凍りついた。

 え。

「ははは。効果てきめんなことだな」

 楽しそうだな、王太子。

 人の不幸を笑うなんて、おまえはやっぱり腐れ外道にちがいない。

 呪ってやるぞ。

「リリウム、もうすぐ誕生日だね」

 そういえば。

 リリウムの誕生日は、来週に迫っているんです。

「なにか欲しいものはある?」

 にこにこと王太子は聞いてくる。

 なんと、この王太子、毎年誕生日プレゼントを贈ってくれるんです。

 王様とは別に。

 しかも、直々に毎年屋敷に持ってきてくれるんです。

 人様の好意を踏みにじる言動は控えたいけれど、リリウムは毎年思う。

 なんの罰ゲームかと。

 贈り物はありがたいです。

 ツボを突き刺してはいないけれど、かすっています。

 けして外してはいません。

 でもね。

 ありがたいけれど、嬉しいよりも怖いこの気持ち。

 青ざめて贈り物を受け取る従妹を、毎年どう思って見てるんだろう。

 聞けるものなら一度聞いてみたいよ。

 頭カチ割って見てやりたいよ。

 けっ。

 王太子は、王様の贈り物を持ってくるときに、自分が何もないわけにいかないから用意しているに過ぎないんだよね。

 そんでもって、ゲームのリリウムは、王様のお使いであり、王太子でもあるギルバート殿下に対して、王太子の婚約者として、礼儀正しく受け取る。

 父親からは、顔を見ることもなしに届けられる儀礼的な贈り物だけ。

 贈り物を届けに来た王太子は、律儀にその開封作業に立ち会ってくれるのだけれど。

 だけれど。

 一年で一番リリウムの表情が凍り付く時期だと、王太子はヒロインに語っていた。

 自分は贈り物を届ける役目がいやでいやで仕方ないのだと。

 まあ、そうだろう。

 王太子ルートを進める中で、なんだかその光景が想像できて、私もそう思っていたよ。

 ゲームの中のリリウムは陰鬱でいつも切羽詰まってて、同年代にはまず重すぎるよね。

 関わりたくないよね。

 だからといって王太子を肯定する要素もないけどね。

 私の欲しいもの?

 平穏無事な一生ですけど何か?

 くれるんですかね。

 とは言わない。

「お気持ちだけで・・・」

 そろりと、控えめに告げる。

 心の底からの言葉である。

 言葉の裏を読んでほしいなんていう思惑は一切ない。

 心の底から囂々と湧き出る言葉である。

 ほんとうに。

 そのままの意味なんで。

「そう」

「・・・はい」

「最近、リリウムの好みそうな絵師を見つけたのでね、連作の絵画はどうかな」

 いやいやいや。

 お気持ちだけでって言ってるでしょう。

 あなたもそうって言ったでしょう。

 なんで話を続けてるの。

 泣きそうになる私を尻目に、王太子はにこやかに話を続ける。

「アルフォンスという名で、やわらかい絵を描く。幻想的なテーマを描かせても上手いようだから、リリウムの好きな妖精を美しく描くだろう」

「・・・ようせい」

「そう。妖精だよ」

 ついつい心惹かれてしまった私に気をよくしたのか、笑顔の輝きは増し、王太子はブライアンに目配せをしてみせた。

 ブライアンが、どこから出したというのか、すかさず王太子に小さな額絵を差し出す。

 A5サイズほどの、小さな額絵だ。

 欧米人的に体格の完成されつつある王太子が手にすると、きっと実際以上に小さく見えるのだろう。

「ほら、リリウム。ごらん」

 隣というには角度も距離も少し遠いところから、額絵が見やすいように掲げられる。

 私には渡したくないのかな?

 まあ、油絵っぽいので、額付きになるととてもじゃないけれど持てないから、持っててくれると助かるんだけどね。

 そうして覗きこんだそこには。

「わぁ」

 これまで好んで集めていた、儚げな妖精とはまた趣の違う妖精が描かれていた。

 今までの妖精が朝露の化身としたら、ここに描かれているのは月の光の具現のような・・・。

 美しくて幻想的だけれど、しっかり存在しているのが分かる。

「きれい」

 絵柄もかわいらしくて、そしてやはり美しい。

 触れてみたくて、そっと手を伸ばして、王太子の所有だったことを思い出して手を引っ込める。

 やらかしちゃった。

「もうし、し、わけ、ありません、でした」

 すみません。

 今のは完全に私が悪かったです。

 この世界、ガラスなるものはあるはずなのに、額に収まった絵画はガラス板で保護されていないのです。

 ガラスが貴重なものという世界観があるかららしいんだけど、その割には公爵家にはガラス製品がけっこう多くあったし、帰省の時に立ち寄った町でも見かけたりして、今一つどういう貴重設定なのか分からない。

 他の人は自然に受け止めているから、たぶん前世の記憶が素直に受け止める障害になっているんだろう。

 まあ、ガラスの云々は置いておいて。

 勝手に触ろうとしたのは申し訳ありません。

「お嬢様、どうぞ」

「え?」

 心の中でごめんなさいを百回唱えていたら、エド君から呼びかけられて、気が付けばいつのまにか跪いたエド君が件の額絵を持って、私の前に差し出している。

「え?」

 え?

「殿下から、お嬢様が触れやすいようにと、お預かりいたしました」

「え」

 触れやすいように?

 触っていいってこと?

 王太子を見る。

 相変わらずにっこり笑っている。

 うーん。

 乙女ゲームで嫌々リリウムを構っていた王太子との差異が見つけられないかと思ったけれど、分かんない。

 ウィンドウ画面と実物じゃあ、やっぱり違うからね。

 分からないよ。

 でも。

「ありあとうございます。ギウ兄様」

 所々噛んだけれど、そこは問題じゃない。

 きりっ。

 折角触っていいよと言ってくれたので、触らければ逆に不敬にあたるに違いない。

 粛々と触らせてもらおうじゃないか。

 いそいそと手を伸ばし、触れやすいようにとエド君が掲げてくれている絵に触れると、ざらついた感触が指に伝わる。

 色を乗せた分だけ立体になっている。

 宝物の手作り絵本にも感動するけれど、いくらでも感動できる。

「きれい」

 うっとり。

「きれいね、エディ」

「はい、お嬢様」

 ずうっと見ていても飽きない。

 前世も絵を見るのは好きだったけれど、美術館でのんびりするような時間はとれなかった。

 リリウムになってのんびりした生活を送らせてもらっているおかげで、ついでに公爵家の財という力をもって、今世は好みに偏った絵をたくさん見ることができている。

 しかも、見るだけでなく触れることができるなんて。

 その幸せの裏には、ちゃんと破滅ルートへの恐怖がセットになっているんですけどね。

 今世に生まれたことによる幸せと恐怖の振れ幅が大きすぎて・・・。

「お嬢様、どうかなさいましたか」

「ううん。なんでもないの。あんまりきれいだから、うっとりしてしまっただけ」

 にっこり。

「さようでございますか」

 さようでございますとも。

 にっこりとは違う、うっそりとエド君は笑っていた。

 ちょっと怖い。

「リリウム、その絵を気に入ったかな?」

「はい。とても、美しいです」

 王太子からの問いかけに、その存在を思い出す。

 ついでにここが王太子の私室だったということも思い出した。

 うっかりエド君と二人きりの世界に入ってしまっていた。

「では、その絵はリリウムに贈ろう」

「まあ、そんな・・・」 

 くれるんですか。

 くれるんですね。

 ご満悦の表情を見せる王太子の言葉に、よろよろと傾きかける。

 が。

 私は誰だ。

 リリウムだ。

 こいつは誰だ。

 王太子だ。

 あかんやろ。

 自分から泥沼にいそいそ足を突っ込みに行ってどうすんの。

「殿下、畏れ多うございます」

 そっと顔を伏せる。

 額を持つエド君の手と額だけが視界に入る。

 もったいない。

 ああ、もったいない。

 でもでもでも。

 この絵、ほんとは他にも欲しがる子がいるんじゃないの?

 たとえば、ヒロインちゃんとか、ロクサーヌちゃんとか、ヒロインちゃんとか。

 そんでもってリリウムがこの絵をもらうと、後々何かの罪になってるんじゃないの?

 そんでもって卒業ぱーちーでリリウム断罪・・・!!

 重箱の隅はつつかせない!

 はい、復唱。

 重箱の隅はつつかせない!

 李下に冠を正さず!

 はい、復唱。

 李下に冠を正さず!

 よし!!

「どうぞ、お嬢様」

 やりきった感満載で、心の中で額の汗を拭っていたら、エド君がカップを掲げていた。

 あれ。

 絵はどうしたの。

「絵は殿下にお返しいたしました」

 カップとソーサー以外の何も持っていないエド君の手をまじまじと見ていたら、ほんのり苦笑のにじむ声が聞こえたので、エド君を仰ぎ見る。

「お疲れのご様子でございますね。そろそろ失礼させていただきましょうか」

 帰っていいの?

 視界の隅に、壁掛けの鏡が青ざめたリリウムを映しているのが見えた。

 ほんとだ。

 たしかにこの顔色なら、王太子だって止めないよね。

 あ、ヒロインの話題が出て顔色を悪くしたんじゃないってことは、ご承知おきくださいね。

後ろめたいことなんて何もないからね。

 私が意識を飛ばしてる間に絵を王太子に返して、そして帰還の道筋を作ってくれるなんて、エド君てばほんとに優秀ね。

 王太子をちら。

 にこやかに微笑んでいるけれど、なんだかキラキラしい先ほどまでの輝きが失われているような気がする。

 もしかして、王太子もそろそろリリウムの相手に疲れていたんじゃなかろうか。

 と、いうことは、ここでサラッと退室すれば、王太子のリリウムに対する苦手意識の増幅を少しは抑止するかも?

 おお、これぞ正しくWINWIN。

「ギル兄様、今日はお招きいただき、ありがとうございました」

「リリウム・・・」

「お菓子も紅茶も美味しゅうございました」

 毒も入ってなかったしね。

 質の良い遅効性だったら、まあまだ分かんないんだけど、今のところは無問題。

「見せていただいた絵も、とても美しくて、感動しました」

 王太子のお手付きの画家の抱え込みはさすがにできないし、私のお抱え絵師はもういるから、単発の絵の依頼ができないかエド君に探ってもらうことにした。

 よろしくね、エド君。

「このように、ギル兄様にお心遣いいただき、ありがたく思います。ギル兄様はお忙しい方ですので、どうぞリリウムのことはお気遣いなく・・・」

 なにやら王太子がじっと見つめてくる。

 凝視か?

 とりあえず怖いので、さりげなく視線を俯ける。

「そんなふうに寂しいことを言ってくれるな。父上からもよくよくにと頼まれている。エドワードを連れてきてもいいから、また一緒に茶を楽しもう」

 いやいや、何を仰るうさぎさん。

 なによ、連れてきてもいいから、って。

 エド君は私の従者なのだから、連れてきて当たり前でしょう。

 そうだ、それより、父上から頼まれてるって。

 嫌なら止めなよ。

 嫌なのに止められないからって、リリウムに責任転嫁するのは

 止めてよね。

 って言いたいけど、言えない。

 王太子には父上だけど、国王だしね。

 リリウムにも伯父だけど、国王だしね。

 家族だけど、身内だけど、国王様だもんね。

 言いにくいよ、そりゃ。

 だが知らんわ。

「お気持ちだけで、リリウムは幸せでございます」

 折に触れ、この言葉を口にする。

 私は要らないって言ったよ、という主張だ。

 サブリミナル的な効果を求めて、何度でも伝えたい。

「リリウム、また招待状を送るよ」

 にっこり王太子が微笑む。

 にっこり私も微笑む。

 要らんと言っとるがな。

「御前、失礼いたします」

 座したまま礼をする。

 そしてそのままの流れで、エド君に腕を差し出す。

 もう無理。

 HPは欠片も残ってません。

 歩けません。

「リリウム・・・」

 咽に何かが詰まったような声だった。

 王太子を仰ぎ見ると、なにか、元通りのキラキラを通り越して煌めいている。

 こわい。

「リリウム、私が」

 立ち上がりかける王太子。

 え?

 まだ何か?

 帰ると言ってるんですが。

「殿下、失礼いたします」

 知らず眉をしかめそうになったところで、いやにきっぱりとエド君が言い切った。

 おまけに声が冷え冷えしてるよ。

 眼差しも心なしか恐ろしい。

 伸ばした手が自然と遠慮がちに後退する。

 私の最後の砦が最近なんだか方向性を見失っている気がするんだけれど、気のせいだろうか。

「さぁ、お嬢様。帰りましょうか」

 うん。

 気のせいだったみたい。

 エド君は今日も安定のエド君です。

 エド君に差し出す手。

 ただただ差し出すだけの手。

「エディ?」

 私は抱き上げてほしいのよ?

 ちらっとエド君を睨むと、じんわりと微笑まれた。

 あれ。

 背筋がちょっとぞくぞくしてる。

 風邪かな?

 まさかね。

 エド君が管理してくれるおかげで、物理的に体調を崩すことはほとんどない。

「エディ?」

 もう一度呼びかける。

 もしかしてエド君も疲れてるのかな。

 だったら欠片も残ってない力を振り絞って頑張るけど。

 いやいや決意を新たにしていると、王太子が何故かエド君に「構わないよ」と言った。

 え。

 ん?

 うん?

 考えている間にエド君がさっと私を抱き上げて、私の体ごと礼をする。

 深々と。

 そこでようやくあっと気づいた。

 王太子の前で、不敬もいいところの態度を繰り広げたことに。

 頭が真っ白になる。

 完全にフリーズしていた。

 あんなに気をつけてたのに。

 終わったと思った瞬間、一気に気が抜けてしまった。

 どうしよう。

 完全な不敬罪。

 よりによってオウンゴール。

 な ん て こ と。




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