異世界と繋がる門が近所に出来ました。私は村の雑貨屋です。
私の名前は、クリス・アッシュ。ドロン村で宿屋兼雑貨屋を営んでいます。名前のとおり、私はこの村の出身ではなくアッシュ村出身です。
もともとは、別の街で商人見習いの後、行商人になり、去年念願の店をドロン村にて持つことが出来ました。宿屋兼務と言いましたが、実質寝室と厩を貸すだけですね。酒も出さなきゃ、朝食も出しません。
それでも、普段は野宿もやむなしの行商人から好評ですし、行商人からの仕入れもしやすいですから一石二鳥です。そして、宿屋に来る客はせいぜい、月に2、3人。普段はノンビリと雑貨屋経営です。
そんな折、村の北側に異世界に通じる門が出来て、向こうから人がやってきた。薬師のドーラさんが応対して、善良な人々だとわかったが、ドーラさん曰く「薬師の技術は遅れている」そうです。
失った腕を再生させる薬を作れる、あなたの母君と比べるのは酷だと思うんですが…
でも、フワさん聞いたところによると、向こうの世界では傷を即効で回復させる薬はないそうなので、良い輸出品にはなりそうなんですよね。あ、このフワさん、軍に所属する薬師みたいな存在だそうです。
で、私も商人の端くれ、異世界との商いに胸膨らむところですが、ふと疑問に思うことが一つ。
『向こうにこちらの貨幣無いよな』
まあ、貨幣が無くても商いのやり様はありまして、「物々交換できそうな物、ありますか?」と向こうのの方々に問いかけまして、色々持ってきてもらいましたが…
向こうも向こうで常識外れのようです。出てきた品を一つ一つ見ていきましょう。
まずは塩、それも高純度の塩。こんなの隣の開拓村でも採れませんよ。ドーラさん曰く「このまま薬の原料になる」そうです。これも、十分に物々交換対象なんですがね。
次に砂糖、それも真っ白。雑味が無くて上品な甘さ、この『1kg』の小分け袋の量で、金貨の半分、銀貨50枚と交換できそうですね。領都並みの大きな街限定でしょうけど。庶民には手が出なさそうです。
そして極めつけ、と言っていいと思います。銀色に輝く手のひら大の樽。中身はお酒らしいのですが、そんなのはどうでもいいです。酒、ビールと言うらしいですが、似たようなものならこの村でも作ってますし問題はそこでは有りません。
「なんで、ミスリル銀で酒樽作ってるんですか?マナ吸って光ってますよこれ。」
「え?ミスリル?このアルミが?」
あー、そういえば、向こうには魔法が無いとか言ってましたね。だから、ミスリル銀、向こうではアルミというのでしょうか、それに高い価値を見出していなかったのでしょう。せめてもの救いは、向こうの方々もミスリル銀の発光に驚いてることでしょうか。
「わが国では、最小価値の貨幣として、使われてますね。」
といって、取り出された、ミスリル銀製の貨幣、そのすべてが発光しています。私は軽くめまいを覚えました。
銅貨より、価値の低いミスリル銀貨。冗談にしか聞こえません。いまなら、あの時失神したフワさんの気持ちが、少しわかるような気がしました。
追記:結局、交易品目はこちら側からポーションと金貨や銀貨を、
向こう側からはミスリル銀箔と、デザインを特注したミスリル貨幣を交換することになった。