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ツバサ・アンタッチャブル  作者: 鏡十一
[1]火焔の行方
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4.『二択の有利』

 突然、トレーラーが炎上した。それも三台あった全てが、だ。

 いや、それだけではない。倉庫の出入り口や窓から煙が上がっている。

 現場検証している調査スタッフは中にいるし、捕まえた魔法使いグループも確かトレーラーに収容している。

 何が起こったのか把握し始めた残った隊員達が救助活動に動き出す。山の中、水道設備なんてものはないが、幸い放水車がまだ生きている。

 俺はボロ布の少女の胸倉を掴む。


「お前、何をした!?」

「私じゃないわ。あんた達が捕えた魔法使いがやったんじゃないの。それよりも、離して」


 俺は言われた通りにする。

 ……くそっ、こんなことしてる場合じゃないってのに。

 少女は荒れた呼吸を整わせてから、俺をじっと見た。


「あんたが助けに行ったら、きっと失われずに済む命があると思う」

「わかってる」

「あんたが行かないのは、私を捕まえてなくちゃいけないから」


 その通り。翼人を拘束するには、縄や銃火器なんて無意味だ。俺が救助に向かったら、この少女をみすみす逃がしてしまうことになる。なら、こいつと一緒に行動するか? それこそ危険だ。いつ隙を突かれるかわかったもんじゃない。

 でも助けにいかないとまずい。思ったより火の回りが早い。倉庫の方は窓から火を噴き始めた。このまま山火事なんてことにも成り得る。


「私を逃がせば、あんたは助けにいけるわ」

「馬鹿なことを言え。お前にしてみれば俺や仲間を始末する絶好のチャンスじゃねえか。そんなのに騙されてたまるか」

「この状況、私は今あんた達と争ってる敵じゃない。このまま睨み合いを続けて、人を死なせるなんて馬鹿としか思えないわ。私はあんた達を助けることはできないけれど、私のせいで誰かが死ぬところなんて見たくない」

「……お前のことをどう信じろってんだ」

「SKYは――あんた達の組織は人々を助けるって言うんでしょ。だったら助けに行くべきよ。もっと多くの人を……私なんかに構ってないでさ」


 チッ、何なんだ。俺に決断迫りやがって!

 しかしわからないのが、少女には明らかな動揺があるということ。炎が上がってから様子が少しおかしい。それにその表情には影があった。彼女の中にある熱くそして鋭い冷たさのある感情が、瞳の奥から覗いている。

 演技だったら大したモンだ。

 ……くそ。


「――えっ」


 俺は水の束縛を解く。


「さっさと行け。だが、余計なことをしたら容赦はしない」

「……ありがとう」

「何の礼だ」

「たぶん信じてもらえないと思ったから」

「いいからさっさと行け。お前らも後を追うなよ。抵抗を受けたってことにしとけ」


 うん、と彼女は頷いて、木々の間に消えて行った。

 たっぷり十秒、一同見送り。それから、周りを固めていた隊員の一人が、俺を見て問う。


「検問を張りますか?」

「検問ってのは大体山から出てくる場所がわかる時にやるんだ。翼人ならそれこそ絶対無茶って場所から抜けてくる。俺ならそうする」

「確かに」

「それよりも、あの子に着せたコートに発信機が縫い付けてあるはずだ。後から追えばいい」


 まさか何の手も打たず逃がすわけがないだろう。

 発信機付きのコートを着せたのも万が一のためだ。一見不利な二択でも備えあれば有利に働かせることができるのだ。


「ははは……。んで、信号はちゃんと捉えられているか?」

「もちろん。森の中でも信号をキャッチすることができま……あ、いや」


 ラップトップを見ていた隊員が真面目な顔になって、俺を見た。


「――たった今ロストしました」

「なっ……!? それじゃあ、あいつを追う手掛かりがさっぱり無くなったってことか!?」

「そう、なります……」


 ……。

 く……。


「くそぁ!! 俺に二択を迫って、まんまと逃げやがった――!!」

「どうしますか?」


 イライラは募るが、構っていられない。


「もういい、捨て置け! 基地に救援要請は済ませたか!? これから救助活動に入る!」


  □


 炎の魔人の討伐、及びその召喚のために連続放火を行っていた魔法使いグループの逮捕作戦は、二次的な放火により隊員の半数近くの負傷者を出すことになった。

 今、俺は03地区の基地に戻り、デブリーフィングをしている。と言っても二木と話しているだけだ。二木は怪我もなく無事だったようである。


「ご苦労だった、曲直瀬」

「お互いにな」

「今回召喚された炎の魔人は一時間で街を一つ更地にできるレベルのものだった。その犯行を未然に防げたのだ。我々の作戦は成功だったと言っていい」

「前口上はいい」


 事件を止めることができた。それは良いことだが、今重要なのはそれじゃない。

 二木は表情を変えず、言葉を作り直す。


「重傷者も数人出た。それでも隊員の誰一人も死に至らなかったのは、お前の働きによるところが大きい」

「そうか」

「だが、今回の目標については全員死亡が確認された」


 作戦目標、つまりは俺達が捕えようとしていた魔法使いグループ五人のことだ。

 言われずともわかってる。俺が動き始めた時には、あの連中と思われる黒い影が炎に包まれて動かなくなっていた。


「火元の一つは連中を収容していたトレーラー。爆発の衝撃で即死だったと考えられる」


 魔法使い五人が死んだ。それはただの偶然ではないはずだろう。


「しかし、ある程度の事情聴取は済んでいたし、そのデータも残っている。結論だけ話すと、連中は静岡県で起きた放火事件六件の関与を認めた。六件だけ、ね。この辺りは事前の予想通りだった」

「ということは」

「つまり、これで本来のヤマである『炎の翼人連続放火事件』とは別件だとわかったわけだ」


 俺達が本来追っているのは炎の魔人なんてチンケなもんじゃない。もちろん魔法使いやAMMでもない。

 俺達が追っているのは"あの事件"。

 炎の翼人だ。

 名前をケオスと言う。

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