王子の身内事情---零---
『無様に苦しんで死ぬようであればオレが殺す』
4年前に、2人が交わした約束だった。
精霊の喧嘩によって絶体絶命のピンチに陥ったアルゼリータを、ロゼイルが精霊の一部を自身に移植させ、緩和させた。
しかし、精霊にも感情、好き嫌いがある。
拒絶されればそのまま死亡。移植成功でも、元々の宿主でないから、いつ駄々をこね出すか分からない。
ロゼイルの行動は賭けだった。
それでも、全く後悔の類はしていない。
「何故って、こーんなふかふかベッドで寝れるんだからなー。側近様々だよ」
「だからいつまでも寝るなぁ!」
「いいじゃん。よく考えたらオレナンバー2だよナンバー2! マジやべぇ……あ、屁こいちゃったごめんね」
突然、部屋が赤く染めあがった。
「ぎゃあああああああ!! 燃える焼ける焦げるぅううう!!」
怒りによって炎を発現させたアルゼリータは、容赦なくロゼイルの自室を焼き焦がしていく。
「ごめんなさいごめんなさいもうしません!」
必死に謝るロゼイルを睨み付けると、右腕の炎を鎮火させる。壁が少し焦げ、燃えやすかった物が半分灰となったぐらいの被害であった。
火災現場となった部屋で呆然としていると、ドアをノックする音が響いた。
失礼します、とドアを開けた兵士は部屋の惨状に一瞬ぎょっとしたが、すぐ言葉を続けた。
「アルゼリータ様、王の使いと名乗る者がお見えです」
「……通せ」
兵士の後ろから現れたのはフードを目深に被り、マントで全身を覆った男だった。男はその場で膝を折り、頭を垂れた。
「はじめましてアルゼリータ殿下。ハングリット王より言伝を預かって参りました。私、マルスと申します」
マルスと名乗る青年を訝しげに見下ろしながら、ロゼイルに伝える。
「ロゼイル、人払いだ」
「え、オレも?」
「お前はこの場にいろ」
というわけで、兵士のみを退場させる。
誰もいないことをロゼイルに確認させると、再びマルスに目を向けた。
「……王からの伝言は嘘だな。従者を付けず偽名も使って……。一体何しに来た、マルイス」
すると、突然立ち上がり、フードを外す。
輝く銀髪と、蒼い瞳が晒される。
「お久しぶりです! ハヴィラルお兄様!」
青年は言う、非常に可憐な笑顔で。