側近とのつながり・了
人生の分岐点は4年前に遡る。
あの日、殺されそうになったときに突然アルゼリータの両腕に宿っている2匹の精霊がケンカをし、アルゼリータの生命力さえも使って争い始めた。
強すぎる精霊の力は呪いとなる──
強力な精霊を2匹も所有するアルゼリータは失う生命力も倍であり、急激に命の危機に陥った。
最初は何が起きているのか理解出来なかった。目の前で相手の両腕が徐々に変色し、痙攣をおこしているのをどうにか理解し、その時初めて『ヤバい』と感じた。
でも、どうすれば収まるかなんて知らないから、とにかく両腕を押さえつけた。あまりにつらそうな苦悶した表情に泣きそうになりながら。
気づいたら、言葉が飛び出ていた。
「つらいならっ……ぉうから! ちょっとくらい、オレにも分けてみろッ!」
なぜこの言葉が出てきたのかは自分でも分からない。ただ、このまま目の前で人が死んでいくのは、どうしても許せなかった。
すると、閉じられていた瞳が薄く開かれ、掠れた声が言葉を紡ぐ。
「いいのか? 精霊に受け入れられなかったら、そのまま死ぬんだぞ……」
一部を引き受けるといっても、その精霊から拒絶されたら死は免れない。
「それでも、お前を見殺しにはしたくない」
「……わかった」
途端に、右腕が炎に包まれた。
傷つけようとしない、まるで試すように、肌を滑っていく炎の動きに目を奪われていると、横たわっていたアルゼリータが、ゆっくり上体を起こす。顔色は今にも死にそうなくらい悪く、大粒の汗が額から頬を伝っていくつも流れた。
「バカなやつだ。殺そうとしたやつ助けて、力の一部も持っていくとは……」
ああ、良かった。
心から思った最初の感想だった。
いつの間にか腕の炎は消え、醜く爛れた火傷だけが残された。さっきと違い痛みが凄まじい。
「どうってことないって! 何より、オレとお前は生きてい────────!」
痛みを紛らわせるために明るく振る舞うが、耐えきれず絶叫する。
「精霊が移植された証拠だ。時間はかかるが痛みは和らぐ。……分かってると思うが炎の精霊だ。気まぐれなヤツだからいつ機嫌を損ねて暴れるか分からん。それに元々の宿主でないから、お前の身体が保たないかもしれん。」
言い終わると、再び眠りの体勢に入る。
「ちょっと! もうちょい説明してよ!」
「平気そうに見えても、結構本気で死にかけたんだ。少しくらい寝かせろ」
そう言って、アルゼリータは目を閉じた。
顔色は一向に良くならないが、安らかな寝息が、彼の確かな存在を感じさせる。
「オレもちょっと寝る。起きたら起こして」
仰向けに寝転がり、大の字に身体を広げ眠りについた。