城内戦闘2
遠退く意識を無理矢理引き留めながら、アルゼリータはマルイスの顔を見た。声も形も、弟のものだった。が、あの時殺したのも確かに弟のはずだ。
「全く、どんなトリックだ」
力無く笑う兄を見て、マルイスは少し表情を和らげた。
「ただの影武者。人違いですよ。お兄様は僕を殺せず仕舞いになりましたね」
してやったり、と笑う弟に、アルゼリータはフン、と鼻を鳴らした。
「そうかい。だが、後は王を殺しに行くだけだ。勝ちは貰って行くぞ」
火傷と凍傷でボロボロの両腕で上体を起こし、少し熱が戻ってきた足で立ち上がる。痺れがあったが歩けない訳ではない。ふらつきながら城の更に奥、恐らく王がいるであろう玉座へ向かった。
「止めなくていいの? 王子様」
「無論止めますが、スティエラ姉様からは殺さずにと言われました。僕が言える事では無いですが、姉様はお兄様を信じすぎているのです。まぁこの姿を見れば、姉様も目が覚めるでしょうし」
ロゼイルはふとガルツァーの方を見た。彼はすぐにでも斬りかかりに行きそうなくらい顔をしかめていたが、先程の王子の言葉を聞き、ぐっと堪えているような状態であった。
ガルツァーの形相を見なかった事にしたロゼイルは、まだ数メートルしか進めていないアルゼリータの背中を追いかけようとして。
「――――――――――――!?」
殺気。背中に感じる圧は並の戦士のものではない。
後ろを振り返ると、ガルツァーは既に剣を抜き放ち、身を盾にして王子を守っている。
殺気の正体――――――マナが立ち上がっていた。脇腹の出血はおさまっているが、動いていい怪我ではない。すぐに傷が開き血が流れた。それでもマナはお構い無しに歩いた。
標的はアルゼリータではなく。二人のロゼに向けられていた。
「アアああ嗚呼アア!!」
意味を成さない怒号。マナが振り回した剣は空を切り、付着していた血が飛び散った。
「何故だ……。何故貴様らは大人しく滅びない……。さっさといなくなっていたら、私たちは滅びなどしなかったのに!」
怨嗟を吐き出しながら暴れるマナは、王子を庇いながら対峙するガルツァーに剣を振り下ろした。全力を込めた一撃は、冷静さを欠いている分出鱈目で重かった。
「ガルツァー!」
剣を抜こうとしたマルイスを、ガルツァーは制した。
「王子、この戦いに手は出さぬよう。―――――――シラルガンの数多の因縁、ここで清算するぞライトイール!」
返事代わりに、死した戦士の剣を適当に拝借したロゼイルはマナへ斬りかかった。が、それをヒラリとかわされ、ガルツァーも隙をつかれ蹴飛ばされてしまった。
「全く貴様らは、消しては生まれ消しては生まれ、死体に湧く虫のような奴らだ。――――いいか、シラルガンは元々3種族だった。赤のロート、青のブラウ、緑のベルデだ。この3つの一族は正当なシラルガンとして『原色のシラルガン』と言われていた。ところが、時が経つにつれ様々な一族が生まれていった。これでは正当一族である『原色のシラルガン』の価値が失われてしまうと思ったロートは、新しくシラルガンを名乗る一族を滅ぼすよう伝えてきた。そしてそれを実行した。ロートに逆らえば、我々も危ないからな」
昔話をマナは更に続けた。
「しかし、1つだけ繁栄を許してしまった一族がいた。それがロゼだ。あり得ない異端のシラルガンがな。我々は即座に叩きに行ったが、失敗に終わった。それを知ったロートは怒り狂い、役立たずと罵った後、ブラウは破滅に追い込まれた。……その後にロートはブラウと結託しロゼを壊滅させた後、ベルデも壊滅させた」
青い瞳の、憎悪色が更に強まった。
「ああ、憎くてしょうがないよ。どうして私たちなんだ。私たちはただ言うことを聞いていただけ……。逆らったことなんてなかった……。偶然生まれただけの弱者のくせに、劣等種族が、生きる価値など無い貴様たちが――――――――!」
「それ以上ロゼを侮辱するなあぁぁぁぁ!」
肺に入っていた空気を全て使う勢いでロゼイルは叫んだ。
こんなに人を憎むことなんかないと思う程、顔がつりそうになるくらい、マナを睨んだ。ガルツァーやマルイスは、見たこともない表情をする弟に言葉を失っていた。
だが、マナは違う。楽しそうに、肩を震わせ笑っていた。
「負け犬が……。そうだ、ただ殺すのもツマラナイ。もっと絶望した顔が見たくなったなぁ」
口元を更にいびつに曲げると、マナは狙いを変えた。
先には、姉を狙い歩くアルゼリータの姿が。
歩くのに必死で、マナの強烈な殺気に気付いていない。
「アルスッ……!」
ロゼイルが叫ぶも間に合わず、マナはアルゼリータの無防備な背中に剣を突き入れた。
ザクッ――――――――――
布と皮膚を突き破る音が響いた。
そこから、血が噴き出した。みるみる床が鮮血で濡れていく。
「あ……」
一言だけの呻き。
しかし、声は青年のものではなかった。
ドサッという音を聞いて後ろを見た青年は、目を見張った。
倒れているのは女性。
アルゼリータはああ、と息を漏らすと、小さく呟いた。
「姉さん…………」
ただ事実を述べただけのような、感情が出ていない、力無い呟きだった。




