側近とのつながり・序
柔らかな布団にくるまれたロゼイルは、陽光に顔を照らされて目が覚めた。
それでもまだまだ夢心地。こんな気持ちのいい気分で寝られるなんて側近という立場のお陰だと、再び眠ろうと掛け布団を頭まで被る。
ああ、幸せだー。布団がふかふかふかふかふ……
「起きろ」
「ぎゃう!」
ああ、なんてこった。一体何が楽しくて野郎のモーニングボイスで起きなければならないのか。
腹に渾身の拳を受け、呻きながら上体を起こすと、主が仁王立ちで見下ろしていた。
「おはようございます。朝日が目に痛いですね」
「おはようじゃねぇ。主より遅起きの臣下がどこにいる。……ああ、目の前にいる」
「今日は何もないだろ? 休みくらいゆっくり寝てても……ああー! わかった起きます起きます!」
アルゼリータが持つ布団が、徐々に凍りついていく様子を見て跳ね起きるロゼイル。
「起きたら着替え。早くしないと氷像にする」
声のトーンがマジでございます……
そそくさと着替えを始めるロゼイル。
ゆったりとした独特な白い衣服に、ボサボサな髪を櫛で梳かし、結い上げる。冷水で顔を洗い寝ぼけまなこを覚醒させると──
「あっーという間にいつものオレかんせー!」
テンションの高い側近の誕生に、ローテンションを貫く一軍の主は、無言でロゼイルの右腕を掴んだ。
すると、ロゼイルはふっと表情を曇らせ、アルゼリータの腕をやんわり振り払う。
普段は長めの袖で隠していて見えないが、ロゼイルの右腕、肘から手のひらの範囲に火傷の痕が残っていた。
痛みは少し残っていたが、気にしなければどうって事ない程度である。
「うん、オレは腕にお前の呪いの一部を受け取った。オレとお前は一蓮托生、運命共同体だ」
「ホントかよ。だったらそれは、いつか自分が死ぬ運命だ」
「それを遅らせるための呪いの移植だろ。オレたちは一蓮托生、運命共同体だ」
「なんで同じ事2回言った?」
「それだけ大事ってこと!」
言い終わると同時に、アルゼリータの長い袖を勢いよく両腕とも捲り上げた。
腕を完全に隠すような長めの袖から、外気に晒された右腕には火傷の、左腕には凍傷によって爛れていた。
突然なことに狼狽するアルゼリータをよそに、ロゼイルは言葉を続ける。
「オレがお前の死を食い止めて、呪いに負けたオレをお前が殺す。そう約束しただろ」
2人は鮮烈にあの日の出来事を思い出していた。 燃えるような右腕の熱さ。
凍えるような左腕の冷たさ。
急速に失われていく己の存在。
奈落に落ちかけた命を引き上げた温かい手。
その手が呪いに染まろうとも、生涯共にいると誓い合った唯一無二の存在。
はっと我に返り、ロゼイルに捲られたままの袖を直す。
「いずれにせよオレたちは近いうちに死ぬんだな」
アルゼリータは呟く。悲観ではなく、虚無感。
それは自分の生命とは何なのだろうという問いにも聞こえた。
「とりあえず、今は生きることを頑張ろう」
とにかく生き抜くこと、今はそれしか言うことが出来なかった。