金の王とピンクの側近
大陸の端から生まれた反王政集団『国民連盟』
この名前をリーダー、アルゼリータは気に入っていた。 この集まりに大層な名前を付けてくれた王家に敬意を表したい──。
という冗談はさておき、アルゼリータはため息をついた。どう考えても停滞が過ぎていた。思い描いていた計画では現王と会談するか、すでに決着がついているかのどちらかであるというのに、とんだ新入りのお陰で行き詰まっていた。
頭を抱えているとその問題の新入りが近づいてきた。
「あれ? アルス頭痛かい? 薬あるよ。ほらほら」
「コノヤロウ誰のせいだと思っている! あとその髪なんとかしろ! 緊張感がなくなる、なんかこう……目障り!」
「何それなんか理不尽! それに側近は近くにいるもんだろ?」
新入り──側近ロゼイルは高く結い上げたピンク色の長髪をわざと見せるように手で払い、なびかせた。
「そういうのは女がやるからいいのであって、お前がやっても気持ち悪いだけだ。あとアルスってなんだ。勝手に名前を略すな」
「アルゼリータは長いだろ。いかにも貴族出身ですみたいな名前でさ。だからオレは平民側として親しみと敬意を込めてだな──」
「ああうるさい、わかったわかった。側近なら手伝え、まずは書類のハンコ押しだ。オレの名前の隣に押していけ」
分厚い紙束と印鑑を渡すと、指で押印の位置を示す。紙には日時と場所が書かれている。何かのお知らせのようだ。
「謝肉祭だよ。そういやお前は初めてか。普段戦いで癒やしも楽しみもない奴らへのちょっとした褒美だ。酒もこの日は解禁してる。……たまに父王にも出してるけど一向に来てくれないな」
「そりゃ、あっちからしてみれば皮肉にしか思えないって。あんたがやると素なのかワザとなのか分かりにくいよ。それが余計怖い」
「オレとしては友好のつもりなんだが。上手く伝えるのは難しいな」
敵対している集団のリーダーに誘われても困るだろうなーと思いながら、押印作業を続けるロゼイル。押印はリーダーからの正式な知らせであることの証。民を動かすにも、情報錯誤を防止するにも効果的であった。情報錯誤の例として、以前アルゼリータを名乗り、あることないこと流している阿呆がいたのだが。
「まさかその阿呆がお前だったとは。世界は狭いな。狭すぎる」
「何言ってるんですか。世界は元々1つですよ」
会話しながら作業を進め、最後の紙に判を押すとロゼイルは盛大に背伸びをした。縮こまっていた身体を伸ばし、アルゼリータに紙束を渡す。
「ん、ご苦労だったな。もういいぞ、あとは届けるだけだ」
受け取ると、ふっと息を吹きかけ窓から一斉にばらまいた。
すると、紙自体が意志を持ったかのようにヒラヒラ舞いながら一件一件に滑り込まれていく。
「おお、これが噂の魔法操作!」
「正確には精霊との契約の賜物だ」
ロゼイルは精霊が魅せる術に目を奪われていると、1枚だけやけに遠くに飛んでいく紙が目についた。
「なあアルス、あれってまさか……」
風に乗りながら確実に目的地へと飛んでいく紙。
恐る恐る聞いてみると、いつの間に椅子に座ったアルゼリータが頬杖をつきながらしれっと答えた。
「お前が考えてる通りだ」