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災い転じて?

3人の旅は順調に進んでいた。

「このペースでいけば、夜までに山を越えられそうだぞ」

「よかった。それなら、少し楽になりますね…」

「ああ。ただ…」

額の汗を拭いながら、Aは渋い顔で地図を見た。

「この先にダンジョンがあるんだ」

「!ダンジョン、ですか…」

「ああ。地下に繋がっているんだが…。ここを抜けたらすぐにターチの町に出るらしい」

「でもそれは…大丈夫でしょうか」

勇者は後ろを歩くメイのほうをチラと見た。

「そういう場所は、盗賊がねぐらにしていることが多いです。通りかかる人を襲って金品を巻き上げると…」

「だが迂回するとなると多分倍は時間がかかるぞ。岩場も続くし、モンスターだって出る」

「それでも、避けられる危険はできるだけ避けるべきです。それに、盗賊に襲われたら、僕…」

勇者は俯いた。

「僕、メイさんに、人を攻撃するところ、見せたくない、です…」

「…」

最後の方は、小さく、絞り出すような声だった。

勇者はモンスターに襲われた時も、獣を狩るときも、メイをできるだけ遠ざけて、要所が見えないように努めていた。

しかし、狭いダンジョンではそうもいかないだろう。

そう言われてしまっては、Aも頷くしかなかった。



迂回した道は思った以上に険しく、草木が茂り、獣道もない程に荒れ果てていた。

「ハッ、ハッ、ハァッ…」

「大丈夫か、メイ」

「は、はい…ハァ…」

道のりはまだ半分も来ていない。最後尾を歩くメイは既に息が上がっていた。

「休憩を取ろう。勇者、ちょっと草を刈って場所を作ってくれ」

「は、はい。ちょっと待ってくださいね」

勇者は少しよろけながら剣の鞘に手をかけた。

大人の腰ほどまである草を踏みしめ道を作りながら歩いていた彼らもまた疲れ切っていた。

「いえ…私、まだ、大丈夫です。行けます…」

ふらつく足取りで、メイが勇者のほうへともう一歩、踏み出した。

「あっ、メイさん!そっちは…!」

「?きゃっ…!」

メイが小さく叫び声をあげた。

「メイ!?」

「きゃああああ!」

彼女は崖を滑り落ちていく。足を踏み外したのだ。

「めっ…メイさん!!」

勇者がメイを止めようと彼女の服の裾を掴んだ。しかし不安定な足場と疲れにより、踏ん張りがきかなかった。

「うわあああああ!」

「勇者ー!!」

勇者の体も、崖の下へと落ちていった。


「いてて…」

「おい、無事か?」

木に括りつけたロープを伝ってAが下りてくる。そう高い崖でもなかったことが幸いし、勇者とメイは大事には至らなかった。

だが。

「ごめんなさい。足が…。落ちるとき、挫いちゃったみたいです…」

メイは右足首を手で抑えながら言った。

見ると少し腫れている。痛みからか、それは微かに震えていた。

「本当にごめんなさい…。私、ちゃんと見てなくて…」

「いえ…僕が悪いんです。メイさんの近くに居たのに…ちゃんと見てませんでした。やっぱり、Aさんの言うとおり、地下道を通っていれば…こんなことには…」

「そんなことないぞ」

Aは落ち込む勇者に近づくと、ばしんとその肩を叩いた。

「お前の言うことは正しかったよ。だから俺も従ったんだ。これが間違いだったんなら、そりゃお前だけじゃなくて、俺達のミスだ」

Aは地図を出すと、周りの景色と見比べて道を探した。

「えーと、ここを、こう来たから…おお!崖を下りたことでだいぶショートカットになったぞ。これならあと数キロで街に着けるはずだ!」

そしてAはメイに背中を向けて腰を落とした。

「ほれ、メイ。来い」

「?」

「おんぶだ。俺が背負ってやるよ」

「いえ、そんな…大丈夫です。自分で歩き、ます…」

「いいから」

片足で立ち上がろうとするメイを、Aは半ば強引に背負いあげた。

「よし、行くぞ。勇者もはやく来い。モンスターと戦えるの、お前しかいないんだから」

「…は、はいっ!」

Aがよびかけると、勇者はすぐに立ち上がり、急いで二人を追いかけた。



夕刻。日が傾きかけた頃、ようやくターチの町が見えてきた。

「おおー、あれがターチの町か。あと少しだな」

「Aさん。本当に、ごめんなさい」

メイは申し訳なさそうに謝った。

まだ足場の悪い道が続く。子供とはいえ人一人を背負って歩くのはしんどいはずだ。

が、Aは努めて明るく言った。

「いいんだよ。早く姉ちゃんに薬、飲ませてやらないとな」

「!あ……」

「妹がこんなに頑張って届けるんだ。どんな病気だって、きっとすぐに良くなるさ。な!」

「…、はい…」

Aの背中で、メイは、どこか心苦しそうな表情を浮かべていた。


3人は日が沈む前に、町に入ることができた。


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