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メイの話では、ターチの町は二三日も歩けば着くほどの距離にあるそうだ。

とはいえメイはまだ小さく、旅は慎重に進めることにした。

「メイさん。疲れましたか?」

勇者がメイに尋ねる。彼女の額には汗の玉ができ、息が切れ始めている。歩みも遅れだしたようだ。

「大丈夫、です…」

メイは二人に付いていこうと一生懸命足を動かしているが、それも弱々しい。

距離こそ短いものの、町までは山道が続く。まだ幼い彼女にはつらいものがあるだろう。

「Aさん、どこかで休憩しませんか。これではメイさんがヘタってしまいます」

Aは街で買った地図を見ながら考え込んだ。

「ふむ…そうだな。この先に泉があるはずだ。ちょうど昼時だし、そこで飯にしよう。もう少しだけ頑張れよ、メイ」

「はい…」

勇者とAは少しだけさっきよりも歩みのスピードを落とし、メイを励ましながら、道を進んだ。



「わあ!すごく綺麗!」

泉に着くと、メイはさっきまでの疲れはどこへやら、はしゃいで水辺へと走っていった。

「キラキラしてる…あ、お魚!」

メイが指差した先。澄んだ水の中にチラホラと魚影が見える。

「へえー…これ、食えそうだな。勇者、ちょっと待ってろ」

そう言うと、Aは手頃な枝を手折って、鞄から出した糸と針をその先に括りつけた。

「ほら、これで釣れる」

「おお!すごいAさん!」

Aの作った簡易釣り竿を見て勇者は声を上げた。

「あれ?でも餌はどうするんですか?」

「そんなもん、どこにでもあるさ」

Aは水際で足を濡しているメイに向かって叫んだ。

「おーい、メイ!その辺の石、ひっくり返してみてくれー」

「…わ!なんか幼虫みたいなのがいっぱいー!」

勇者の肩が、ビクッと震えた。

「…え?」

「ああ。それを餌にするといい。俺はあっちの方見てくるからあと宜しくな」

Aは泉の奥の林の方へと消えていった。

顔色の悪い勇者を残して。

「…ど、どうしよう…」

「ねえ、勇者さま」

途方に暮れたように呟く勇者に、メイが近づく。

その小さな手の中には、先ほど見つけたであろう虫が数匹、蠢いていた。

「ひいっ…」

思わず後退る。しかしメイはそんなことお構いなしで、ぐいぐいと勇者に寄っていく。

「ちょ、ちょぉぉぉ…」

「勇者さま。その針にこの虫を引っ掛けて水の中に入れたら、お魚が捕まえられるんですか?」

「ぅあ、ええ、です、ね…」

「わあすごい!私、釣りってしたことないんです!やってみてもいいですか?」

メイが目を輝かせて言う。

それを聞いた勇者の反応は早かった。

「!は、はいどうぞ!釣り竿です!」



数分後、Aは戻ってきた。

大きな葉っぱを数枚抱えている。

「おかえりなさい、Aさん。それ…何ですか?」

「ああ。これな、イロールの葉っぱだ。固くて丈夫だから、皿の代わりになるかなと思って」

「へえー。いい香りがしますね。これで包んで蒸し焼きにしたら、風味がついて美味しいかもしれません」

「じゃあそうしよう。で、肝心の魚はどこだ?」

「はーい!ほら、こんなに釣れましたよー!」

メイは満面の笑みで本日の釣果を差し出した。



「…」

「…」

「…おい、まだ付かんのか」

「なかなか、難しいですねえ…」

Aと勇者は、先程から薪に火を起こすのに苦戦していた。

「いやあ、火とは盲点でしたねー」

いくら食材があってもそれを加工する手立てが無ければ食事にはならない。そのことが二人の頭からすっかり抜けていたのだ。

「でも、さすがのAさんも火おこしはダメなんですね」

「だって家に行けば火種も炭もあるもんよ」

「はは、確かに。そういうのも買っておけばよかったですねえ…」

焚き火はさっきからもくもくと煙しか吐き出さない。

「お前、炎系の呪文とか覚えねーの」

「うーん、僕、勇者ですからねえ…魔法、どうかなあ」

「最近の勇者は初期にある程度身につけるらしいぞ」

「へえー。それはさぞ便利でしょうねえ」

「他人事かい」


その後、機転を利かせたメイが枯れ草を持ってくるまで、焚き火は二人を燻り続けた。


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