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瓢箪から駒

「武器よし、防具よし…道具も、これだけ揃えておけば、大丈夫かな」

いよいよ、次は魔王の本拠地へ乗り込む。揃えられるだけ買い揃え、決戦の準備は整った。


はずだったが…


「何と!船がもらえないですって!?」

「…ああ」

魔王の城は孤島にあり、船で海を越えなくてはいけないのである。

「他の勇者はよお、途中の町で盗人と戦って、そこで船の権利書を手にいれるんだとよ」

「あれ?そんなイベント、ありましたっけ?」

「その頃、俺達ルート外の町を回ってたからな」

「あー…」

メイと出会ったあの時から、しばらく冒険ルートを外れて行動していたことを思い出した。

「まずいなあ。結構戻らなきゃならん」

「どうしましょう…」

ここにきて、旅が行き詰まってしまった。

「…盗むか」

「ダメです」

「チッ」

「勇者どうこうじゃなく、人としてダメですよ」

「じゃあどうすんだよ」

「うーん……」

結論は出ず。かといって、来た道を戻るのもできれば避けたい。

結局、二人は当てはないけれど、とりあえず港に行ってみることにした。



ずらりと並ぶ、大小様々な船。

「たくさんありますねえ」

「どれか一隻くらい貸してくれねーかな。…あ、おーいそこの人ー!」

Aは船の手入れ中のオーナーらしき男を呼び止めた。

「なあ、俺達旅してるんだけどさ。その船、ちょっくら乗せてってもらえねーかな?」

「ああ。旅のお方でしたか。で、どこまで?」

「魔王の城まで!」

「まっ…!?無理無理無理!お断り!」

オーナーは慌てた様子で走り去ってしまった。

「Aさんたら…。そりゃ、そうなりますよ」

「…うるせーな。お前の代わりに声かけてやったんじゃねーか」

「はあ…。あ、そうだ。泳いで行くのはどうです?」

「死ぬぞ」


ああでもない、こうでもない、と言い合っていた二人に、人影が近付く。

「あのー」

「「!」」

「お二人はもしかして、旅の者かね?」

裕福そうな男。どでかい指輪にどでかい時計。でっぷりした体に毛皮を羽織り、全体的に金の匂いでジャラジャラしている。

「えーと、そちら、勇者さん?」

「…!は、はい。僕は勇者ですが…」

「ふーん。君、呪われてない?」

「えっ」

勇者は動揺した。

Aは笑いを堪えている。

「い、いえ…呪われては、いませんが」

「あれ、そう?いやあ、幸薄そうな顔してるもんでさあ」

あっはっは、と男は豪胆に笑った。

「いやね、私、珍しい武器とか防具を集めるのが趣味なんだけどもね」

「はあ…」

「ひとつだけ、どーっしても、探しても探しても見つからないのがあるんだよ」

「……」

「呪いの兜、っていうんだけど。君たち知らない?」

「「!?」」

Aと勇者は顔を見合わせた。

「もう長いこと探してるんだけど、手がかりすら掴めなくてねえ…」

「そ、それって…」

もしかして、と勇者は、ふくろから、あの厳つい兜を取り出した。

「これ、ですか…?」

「ま、ま…」

「?」

「まさしく、これじゃあああああ!!」

男は膝からどっと崩れ落ちた。

「やっと見つけた!やっと!まさか生きているうちにこの目で見られるとは!ああああ!」

おいおいと、テンションのままにむせび泣いている。

「お、おっさん…大丈夫かよ」

「いくらで…」

「あ?」

「いくらで売ってくれる!?」

「!え、と…」

勇者とAは考えた。

呪いの兜の、値段とは…。

この際、思い切り高値をふっかけてやってもいいのだが…。

この呪いの兜、二人にとっては不要品どころか、できれば見たくもないものだったのだ。

そんなものに値段をつけたりしたら、なんだか後々罪悪感に苛まれそうで躊躇われた。

しかもこの兜。道中、何度も捨てようと試みたのだが、どうやっても気付けばAの枕元に鎮座しているという、厄介具合であった。

この、成金男が引き取って管理してくれるのであれば、無料でも、むしろこちらが金を払ってでもお願いしたい代物だった。

「こ、困りましたね…」

「うーむ…」

そうだ!と突然Aは閃いた。

「な、おっさん!これさ、物々交換にしないか?」

「物々交換?」

「おっさん、この港にいるってことは、船の一隻や二隻、もってんだろ?俺達、船さがしてんだ!」

勇者はなるほど!という顔をした。

「そうなんです!僕ら、船がないせいで旅が行き詰まっていまして…どんなものでもいいんです!捨てるようなものでも。ほんの少しの距離、海を渡れたら…」

「そんなものでいいのかね?」

男は拍子抜けしている。

「船なら何隻か持っとるぞ。君らがいいというのなら、ぜひ、交換しようじゃないか」

「よっしゃ!」

「やったーー!」

Aと勇者は腕を組んで喜んだ。

「船は明朝、この港に用意させよう。その時、交換と。それでいいかな?」

「もちろん!」

「ありがとうございます!」

交渉は無事、成立した。

「よかったですねAさん!Aさんの兜が役に立って!」

「はっはっは。いやあ、おっさんの勘も大したもんだよなあ。呪われてそうな人間見つけるのがうまいっつーの?なあ、勇者」

「え?いやいや。あれ、あなたの兜でしょう?いつだってあの兜はAさんだけを見つめていましたよ」

「いやいやいや。この兜、最初に目えつけたのはお前だろ?やっぱなんつーの?引きが強いね勇者さまは」

「言いますねえ」

「お前もな」




そして、翌朝。

「…こ、これは…」

港にて、二人は言葉を失った。

「どうだい?かっこいいだろう?」

男が用意してくれた、船とは。

「す、すごい、ですね…」

「ああ…なんつーか…とにかく、すごいな…」

キンキンぴかぴか、黄金色の豪華クルーザーであった。

「金剛丸っていうんだ。あとの細かいことは船長に聞いてね。じゃあ、これと兜と交換ということで、いいかね?」

「は、はい…」

「あと心ばかりのお礼として、船に色々積んでおいたから。好きなだけ使ってね」

男は兜を受けとると、意気揚々と帰っていった。



ザザザザザ……


ーお、おい!なんだよ、あれ!

ー金色の、船…?


金剛丸は、およそ25ノットの速さで、波をかき分け進んでいく。

太陽の光を反射させ、キンキンに輝くその姿は、圧倒的な存在感を放っていた。




その頃、二人は

「うおっ、これすげえ高い酒じゃん!」

「おつまみや軽食まで…冷蔵庫がパンパンですよ!」

豪華な船の旅を、楽しんでいた。

「…!うめー!この酒、よくわかんねーけどうめえー!」

「ぬわー!Aさん!こっちにはなんとジャグジーが!」

「何!」

「はわわ!ベッドが!ベッドがふかふかです!」

「すっげえ!金持ちやべえ!」


他の勇者たちが必死で船をこいでいる中、彼らは優雅なクルージングを心行くまで楽しんだのだった。

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