5-expectation-期待-
あの日から三島先輩は文学部と同じ校舎にある第三食堂に頻繁に顔を出す様になった。
文学部の生徒達はどうやら食堂を使わず、食事が許されている教室や喫茶室などでパンを齧っている生徒が多いらしい。
その為ここは第一食堂より空いている。
ピーク時はそれなりに混むこともあるがゆっくりランチをするには問題の生じない程度だ。
「ここ、空いてていいよな。」
「ですね。」
私は今日も先輩と一緒にランチタイムをしている。
ここ一週間の内今日で3回目…少し多すぎる気がする。
でも先輩がここに来るようになったのは只空いているから、ただそれだけ。
何も変な期待なんて持っちゃいけない、いけない…。
そう自分に言い聞かせ、食堂に備え付けてある自販機で買ったカップ式の食後のコーヒーを飲む。
苦い味と香りが浮かれた私の頭に刺激を与え、目を覚まさせる。
先輩は同じ自販機に売っているコーラを飲んでおり、時々氷を噛み砕く音が聞こえた。
「…文学部で何の勉強してんの?」
「え?えっと…心理学です。」
「へー難しそうだな…。」
「そんな事ないですよ。楽しいです。」
そんな他愛も無い会話。
本当に何の面白みも無い会話だ。
ここ何日か先輩とお昼をする中で、楽しそうに話せたことが一度でもあっただろうか。
いいや、無い。
どうしても先輩の前だと緊張で頭が回らなくなってしまう。
何か話せる事はないだろうか、何か、何か…
「あ…と、私…友達作るの苦手で」
「うん?」
何でこんな話してるんだろう私。
私にこんな話されても先輩はきっと興味なんか無いだろう。
しかし話し出した口は止まらず、余計な事ばかりをべらべら話始める。
「私色々考えてるつもりなんですけど、どうも人とズレがあるみたいで…」
「ん?」
「話してる相手の気持ちが解らないというか…それで結構白い目で見られることもあって」
「へぇ」
そう、今まさにこの瞬間がそうだ。
先輩はこちらを見てちゃんと聞いてくれているようだけど、本当は迷惑だと思っているかもしれない。
それが解らない。
そしてそれが怖い。
「人が何を考えてるのか解ったら…それもなくなるから…」
そうすれば先輩の気持ちも……。
「人が何を考えてるか、なんて気になるモンか?」
カップに入った氷を全て噛み砕き終わったのか、先輩はカップをテーブルに置く。
窓の景色を見ながら先輩は首を傾げた。
そんなの、当然知りたいに決まってる。
そうすれば誰かに嫌われる事も無いのだから。
「……俺は考えてる事バレるのは困るな。」
「え。先輩のバレたら困る事って何ですか?!」
「それ聞く?」
人には誰にも知られたくない事の一つや二つ当然あるだろう。
そしてそれは先輩も私も。
それなのに相手の事は解りたいと思う。
人間は何て我儘な生き物なんだろう。
「何もかも全部解ったら、つまらねーと思うけどな。」
そう言って、私に笑い掛けてくれる先輩。
私は思わず顔を反らした。
―――――私は先輩のその笑顔の意味を知りたい。
どうして私にそんな笑顔を向けてくれるのか。
少しは期待してもいいのか、違うのか。
「…私はやっぱり知りたいです。」
先輩が不思議そうな顔をするのが解った。
その表情だけはハッキリと読み取れた。




