夜
夜の衝動に襲われた。涼、自分の感じるままに行動し、制御不可、それを影から見ていた。女と男、そこには何があるのだろうか。そして襲われた少女の逝く末はいかに?
俺の中ではそれはとても普通のことで、何も変わらないはず。
でも、その日は違った。何が違うのか。それは、自分自身わからなかった。
辺りは暗くなっており、雲が空を覆い尽くしているのが見えた。
誰もいない道、
どれくらい時間がたったのだろう。
俺は肩で息をつきながら、自分のした事を思い出していた。
なぜそんなことをしてしまったのだろう。
そればかりを考えていた。
ふと、自分は夢の中にいるのではないかと錯覚する。
しかし、目の前には犯され、汚された姉が倒れていた。
「どうして・・・」
声が震えている、喉はからからと熱い。
「俺が・・・違う!」
言葉で否定しようとしても心までは偽ることは出来ない。
俺は力なくその場にひざまずいた。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
家の中に絶叫がこだました
暫くして静寂が戻った
しかし後に残ったのは償うことの出来ない大罪と、
後にひくことの出来なくなった自分だけが残った。
それが俺の初めての狩だ。
そして今日も・・・
時計を見ると夜の九時だった、狩には少し早いがまあいいだろう。
俺はとりあえず街を歩いてまわることにした。
ふと一人の女が目にとまる。
その女に俺は見覚えが有った。
確か同じクラスの羽芝佳織とか言う金持ちのお嬢様だ。
なぜこんな時間に一人で外を歩き回っているのかは知らないが、それは俺にとっては好都合だ。
俺はゆっくりと後をつける事にした。
彼女は何かを気にしているのかしきりにあたりを見回している。
しばらく歩き回った後彼女は公園へ来て立ち止まった。
俺は今すぐにでも襲いかかりたい衝動を抑えてもうしばらく様子を見ることにした。
すると彼女は公園のトイレへ向かって歩き出した、どうやら用を足したかっただけらしい。
彼女がトイレへ入ったのを見届けると俺もトイレの中へと入る。
この公園のトイレは非常に小さく女性用の便器は一つしかなかった。
俺はそのとき面白いことを思いついた。
彼女が入っている個室の前で立ち止まるとドアをノックする。
当然彼女は中に自分が入っていることを俺に言う。
しかし俺は執拗に何度も何度もノックをした。
そんな状況で用を足せるはずもなく彼女は個室から出ようとする。
俺はタイミングを見計らって身を隠した。
彼女が出たころにはそこには誰もいなく、彼女は不思議そうな顔をしていたが
早く用を足したいのか再び個室へと戻った。
それを数回繰り返すとさすがに彼女も怖くなったのか個室には入らず外へと出た。
そして、公園のくさむらに入ると周囲を確認し誰もいないことを確認すると、
スカートをあげショーツを下ろした。
彼女が用をはじめた。
俺はその機会を逃さず彼女へと近づいた、そしてかばんの中からインスタントカメラを取り出し
真正面から彼女を撮った。
はじめ彼女は何が起きたのか理解できないでいたが俺が撮った写真がカメラから出てくるのを見ると
羞恥と怯えの混ざった表情を浮かべた。
「俺と一緒に来い!」
それでも彼女は拒んだ。怯えきった彼女に写真をちらつかせる、
「早くしろ、冷えるだろ。」(さぁ早くするんだ。さぁさぁさぁ)
彼女は俺の物を掴んだ、とその瞬間
「ウガッ、ギャァァァアアァ。」
自分の下半身に激痛がはしる、何が起きたのか一瞬解らなかった。
「なめんじゃねーぞ、コラァ人が下手にでてりゃなめやがってちんかす野郎ぶっ殺すぞ。」
彼女は切れていた、近くにあった木棒を振り回している。
俺は俺自身の棍棒を振り回しそれに対抗した。
「ち、やるじゃねぇかまさかここまでやるとはな」
俺は女から間合いを取ると呼吸を整えた。
「だがな、それじゃ俺は倒せねえ」
女は俺の言葉が聞こえていないのか見境なく突っ込んでくる。
この女は馬鹿だ、俺との力の差というものをまったく理解していない。
俺はゆっくりと腰を落とした。
5メートル、4メートル
女の姿が肉迫する。
3メートル、2メートル
俺は静かに微笑んだ、それは喜びによるものではない、ただの嘲笑だった。
1メートル、
・・・0
木でできた凶器が振り下ろされる。
俺はそれを見ることなく避わすと、水平に手刀を繰り出した。
零距離での攻撃。
時が静かに流れる。
そして僅か数瞬の後、女は地に伏した。
「まさかあのお嬢さんが切れるとは思わなかったな。」
ほうとため息をつく
すると緊張した体がほぐれていくような気がした。
「今日は疲れた、早く帰って寝るか」
そうつぶやくと俺は公園を後にした。
別の場所で事の一部始終を見ていたものがいた。
大柄な男と、小柄な女。はたから見れば彼らは親子に見えたかもしれない。
だがあいにくそこにはだれもいなかった。
正確には誰も生きてはいなかったのだが、
「あの小僧、なかなかやるわね」
女が言った。
「確かに、至近距離で繰り出される攻撃をかわしての手刀、並みの度胸では出来んな」
男がハンカチで汗を拭きながら言う。
今は秋なのだが、この男・・・
「ちょっと、近寄らないでくれる?汗男。
まったく上からの命令であの女を監視するためとはいえ、よりによってコイツとなんて最悪だわ」
女が悪態をつく、どうやらこの二人相性は良くないらしい。
「でも、収穫はあったわね。スカーレットを始末する手間が省けたし。
何よりあれほどの力を持った男に逢えたんだから」
女はうっとりとした表情を浮かべながら言った。
「それに、私のタイプだし」
「それが言いたかったのか?マリーベル」
「いちいち五月蝿いわね汗男、早く構成員をあの男の監視につけるのよ!」
汗男は不満そうな表情を浮かべていたが、地位が低いのかそれともただ気が弱いだけなのか、
何も言わず去っていった。
「これからはもっと楽しくなりそうね」
雲に隠れていた月が地上を照らす、とそこには無数の屍が積み上げられていた。
「本当に・・・」
次の瞬間には彼女の姿は消えていた。
「ジリリリリリリリ・・・ポチッ。」
もう朝か・・・・・!
「ゲッ。もう7時かよ。やっべ遅刻しちまう。」
荒々しい朝を迎えた、涼が学校に行く時間はちょうど通勤ラッシュの激しい時間帯
と重なる。
「相変わらず親父達の臭さが目にしみる。」
この臭さだけは一生なれることはないだろう。
「昨日さぁ。・・・があったんだよね、だからさ・・」
電車の中で五月蝿いな、最近の若者はなっちゃいねー。って俺も若者の癖に親父臭いか・・・
一人で考え込んでいるとなぜか凹んでくる。
「イテッ。気いつけろ!ボケッ」
電車が止まると共に足を踏まれた。痛かったとてつもなく痛かった。
「なんだぁ、こらぁ、足踏まれたくらいでグチグチとちっちぇえな、オラァ。」
ボコッドカッベコッボコボコボコベシベシ
「もっと大きくなりな!」
そういって満足そうに大柄の男は去っていった。
「・・・・・・・・・イテテテ。なんか泣けてきた。」
もう殴られるのはいやだ、もっと志は高くもとうとこの時心にちかった。
「時間がないな寄りたいところがあったんだけど今日は寄り道せずに行くか。」
俺は駅を出ると足早に学校へと向かった。
5分ほど駅から歩くと、俺の通う私立神明高校に着く。
正直、俺は頭が良くない。
この高校は県内でトップを誇るエリート校なのだ。
で、何故俺が入学できたかというと・・・・。
我が家に伝わる13の秘技の一つ、「秘技、サイコロ鉛筆転がし」
という技のお陰だったりする。まあ平たく言えば1〜6の数字を書いた。
鉛筆を転がして答えを書いただけなんだがな。
合格通知が来た時は家族みんなで喜んだっけな。当の本人、俺なんかは受かるなんて
思ってなかったもんだから、正直、合格通知が来た時なんか・・・自分の穴という穴から
液体や固有物質なんかが飛び出た。いやマジで。
一番喜んでくれた大好きな姉。そんな姉に俺は昔酷い事をしてしまった。
その後俺は自ら家を出、親戚の家へ身を寄せる事となった
それ以来家族とは会ってはいない、仕送りは受けているのだが
「姉さんどうしてるかな」
過去を思い出し、ふとそんなことを口にする。
と急に後ろから目隠しをされた、女性特有の甘い香りが鼻腔をつく。
「だーれだ?」
そんなもの聞かれなくても俺は解っていたのだが敢えて無視する。
「ちょっとー、シカトしないでよ」
俺は手を振り解くと歩き出した。
「ちょっとって言ってるでしょ!」
不意に強烈な殺気を感じて俺は振り向いたが、すでに遅かった。
目の前まで脚が伸びてきたかと思うと右側頭部を強打され俺は吹き飛ばされた。
目の前がスパークする。
「痛ってぇ」
頭を擦りながら体を起こす、とそこには憤然と仁王立ちした女の姿があった。
「どう?私を怒らせたらどうなるか思い知った?」
ったくこの女は・・・
「お前加減無さすぎんだよ、っていうかこんな時間にじゃれあってる暇なんかあるか?」
と言いながら俺は鞄を拾う。
「あんたが無視するから悪いんでしょ!」
「言い争いをしている暇はないぞ。早く行かないとあのジジイのチョークが飛んでくる」
俺は弾丸のようなチョークが飛んでくる様を思い浮かべ身震いした。
「うっ、そ、そうね。」
彼女は腕時計を見ながらうめく。
「とにかく急ぐぞ葵!門が閉まる」
この学校は8時40分HRとなっているが30分を過ぎると校門が閉じ、
校正委員と言う連中が現れる。そして30分に間に合わなかった奴がいると容赦のない罰が
課せられるのだ。
俺達は全力ダッシュで門へと駆け寄る、しかし無常にも門は閉まろうとしていた。
門のそばでは校正委員がニヤついている。
「あのサド連中が・・・」
俺は悪態をついた。
門が完全に閉まる、と危機一髪で俺は3メーターある門を飛び越した。
さすがにこれには校正委員の連中も驚いている、見たか俺のジャンプ力
と問題は葵だが・・・
俺が振り返ると丁度彼女が落下してくる所だった、こちらも間一髪で間に合ったようだ
「危なかったな」
「ええ、間に合ってよかった」
俺達は安堵すると教室へと向かった。
彼女の名前は明日乃瀬 葵。
この学校に来て初めての女友達だ。
いや・・・この学校じゃなく、俺にとって葵は初めて本当の友達と言える人なんだ。
親戚の家に身を預け、新しい学校に転入しても、暗い影のある俺を
誰も相手にしてくれなかった。小、中、そして高校でもだ。
イジメられてた訳じゃない。ただ、皆俺を無視した。まるで空気のように。
それをイジメと受け取るかは人の価値感次第で、俺にとっては別にどうでもいいことだった。
いや、そう思ってた。俺には友達なんていらない。気の休まる居場所なんていらない。
俺は孤独でいい。ずっとこのまま一人でいい。そう何年も思っていた。
だけど俺の考えは神明高校に入ってがらりと変わる。
葵の存在だ。暗く、目立たない存在である俺に、葵は笑顔で話し掛けて来た。
葵と一緒にいる時間はとても落ち着く。汚く、醜いこの世界でも、葵と一緒なら美しくすら思える。
こういう感情が世間一般では恋というのかもしれない。
「・・・恋か・・・。」
「・・・ん?」
俺の悪い癖だ。考え事をするとつい独り言が出てしまう。
しかもよりによって一番恥ずかしいセリフ。
「恋」
ああもう!忘れたい!記憶を消したい!
そんな赤面をする俺をよそに、葵はこう言った。
「ねえ、このまま私達を野放しにするのかな?」
「・・・・校正委員か?」
校正委員会は言わばこの学校のルール。絶対的な権力の下に運営される委員会だ。
その絶対的な権力っていうのは執行委員会。この学校の権力上のトップ。
その権力はこの学校の先生でも及ばない。先生は執行委員会には逆らえないのだ。
その執行委員会直々の配下である校正委員会。そしてその兵士、校正委員。
あのサド連中は俺達を野放しにする訳がない。なんてったって俺たちはルールを破ったからな。
俺たちがこのまま教室に逃げ込んだとしても彼らにとって問題はないだろう。
後で校正委員に捕まり、罰を受けるのがこの話のオチだろう。
俺はいいとして、葵には酷なはず。きっと耐えられないだろう。校正委員の罰は「格別」だ。
校正委員は女性に対して非道の限りを尽くす事で有名だ。それだけは避けたい。
葵を助けるには俺がうやむやにするしかない。それしか方法がないのだ。
門を飛び越えただけかもしれない。他の高校なら。しかしここは神明高校なのだ。
常識など通用しない。
「・・・・葵。」
「何?」
俺は立ち止まり葵にこう言った。
「・・・このまま走って教室に行け。きっと校正委員は俺たちを追ってくる。」
「俺が校正委員を向かい撃つ。その間に教室に入ってくれ。」
「・・・・でもそれじゃあ涼は?」
「気にするな。どうって事はない。」
葵が心配そうな顔で俺を見た。
それもそうだろう。今まで校正委員に勝てた者の話なんて聞いたこともない。
校正委員は学校から選抜された優秀な武闘派の連中で構成されているからだ。
「夜の俺」ならともかく、「昼の俺」なら正直勝つのは厳しい。
極度貧血なのか解らないがなぜか昼は体力が無いのだ。
自分でもわからない・・・・・
時間稼ぎすらできないかもしれない。だが・・・このまま逃げても被害は葵にまで及ぶ。
俺がなんとか葵だけでも校正委員の目から逃がさなくてはならない。
しかし、そんな俺の考えとは裏腹に、葵はこの場から動こうとしない。
「・・・どうした?早く行け。」
「・・・でも。」
俺は葵の肩を優しく押す。
「頼む・・。行ってくれ。」
俺の熱意が伝わったのか、葵は一度だけ俺の方に振り向くと、そのまま教室へと走って行った。
「さて・・・と。」
階段を誰かが駆け上る音がする。奴らが来たのだ。
数は・・・三ってとこか。二人ならともかく、俺にとっては三は絶望的な数字。
同時に襲ってきたらまず勝てないだろう。なんとかタイマンに持ち込むしかない。
一対三より、一対一を三回繰り返すほうが楽だろう。
この状況を作るには、地形を考えなくてはならない。今俺がいる、階段のバルコニーよりも
廊下の方が望ましいだろう。俺は少し移動し、奴らの到着を待った。
時計はとうにHRの時間に入っていた。
「・・・・・遅かったな。」
校正委員の数は予想通り三人だった。
二人の巨人と一人の女性だった。
その女性が俺に近づき、俺に話し掛けて来た。
「逃げずに私達を待つのは賢明な判断ね。」
その女はキョロキョロと俺の周りを見渡すと続けてこう言った。
「・・・女は?」
「もしかして女を逃がすためにアンタはここに?」
女は何やら手で口を抑えている。笑いを堪えれないっていう感じだろうか。
「・・・そうだ。」
俺がそう言うと女は我慢しきれなくなったのか、口を手で抑えるのをやめ、馬鹿みたいに
笑い始めた。
「キャハハハハッハハッハハッハハハッハハハハ!!」
薄気味悪い笑い声が廊下に響く。
「五月蝿い。その笑い声を止めろ。反吐が、反吐が出そうになる。」
俺がそう女を挑発すると、女は俺をキッと睨んだ。
その程度の眼光で俺は怯まない。いや、今俺はそれどころではないのだ。
どうすれば奴らに勝てるのか・・。俺は無い頭を無理やり回転させる。
この巨人二人とこの女。校正委員としてはかなり「できる」ほうだ。間違いない。
やはり何とか一対一にしなければ勝機は見えないだろう。
最初に行動を起こしたのは校正委員のほうだった。
「クックック。アンタみたいな雑魚に私が出る必要はないわ。アンタなんかここにいる
赤鬼と青鬼で十分なんだから!」
女がそう言うと、女の前に赤鬼と青鬼と呼ばれる二人の大男がぬっと出てきた。
近くで見ると、思ったよりデカい。いや・・デカすぎる。
「行け!赤鬼、青鬼!」
女がそう言うと、赤鬼と青鬼と呼ばれた大男が俺めがけて突進してくる。
「ガギッ・・・・!」
大男二人の足が止まる。
あまりに大きすぎる二人の男はお互いにぶつかり合い、その狭すぎる廊下に行く手を阻まれて
しまったのだ。ラッキーだった。こんなバレバレの罠にまさか校正委員が引っかかるなんて。
最初は狭い廊下を利用しての一対一だったが、この場合、一対一どころかもっと有利に戦える。
そう、奴ら二人は動けないのだ。
俺以上の馬鹿がいたのか・・・。
俺は一気に間合いを詰める。昼の俺でも急所の一撃ならば大男二人を倒せるはず。
俺は自分の出せる力をすべて拳に集め、針を刺すように大男二人のアゴを撃ち砕いた。
圧倒的だった。動けない相手に俺は力の限りを尽くした。
赤鬼と青鬼と呼ばれた大男二人は俺の一撃で地面に力なく沈んだ。
残るは・・女のみ・・・!
「チッ・・・あの馬鹿供!まったく使えないわね、男という種族は。」
女はそう言いながら赤鬼と青鬼と呼ばれた男達を踏みつけ、こちらに向かって来た。
体は華奢だが間違いなく「デキる」
俺は恐怖のあまり頭がどうにかなりそうだった。
さっきまで何も感じなかったのに、女が俺に対し、闘志を向けたとき、
俺のDNAは悲鳴をあげた。逃げろ、今すぐ逃げろと。DNAは逃げろと俺に言う。
だが、それは叶わなかった。恐怖のあまり体が動かないのだ。
「・・・死ぬのか・・・。俺はここで・・・・。」
女がどんどん近づいてくる。
喉が異常に渇く。全身の水分が抜かれた感じがする。
これが恐怖。死にもっとも近い恐怖か。
はぁ・・はぁ・・・。
息が荒くなる。
「俺は・・・死ぬのか・・?」
「そう、アンタはここで死ぬの。」
俺の人生ここまでか・・・・なんで学校くらいで死ななければ行けないんだ。間違ってる、
絶対間違ってる。
極限状態というのはなぜか脳の働きが活発化し思考速度が上がってくる。
(いや、ここで死ぬわけには行かないここで逃げれば死ぬ、
あいつも待ってる何かあいつを倒す方法は無いか、考えろもっともっとだ、考えれば何か浮かぶはずだ)
奴の弱点が・・・・初めてあった奴から弱点を見つけろってか無理だろ。この方法は却下だ。
何か何か無いか。考えろ考えろ。)
「じゃあね、ふふふ。」
鋭い拳が顔面に向けて飛ばされる。終わったか・・・・
パシッ
・・・・・・・?生きてる、なぜ?
「少々手荒すぎはしませんか?矢倉稚瀬さん♪」
だれだ、恐る恐る目を開けてみるそこに立っていたのは
「じじじ、神宮寺さんどうしてここに?」
神宮寺さんはこの学校でも5本の指に入るとされているくらい強い人だ。
「葵さんの頼みではこないわけには行くまい。」
後ろの方から葵が覗き込んでいる。
どうやらあの後先輩に助けを求めに言ったらしい、助かった。
「センパイあと、お願いしますよ。」
さわやか笑顔で神宮寺に手を振っている。先輩は葵の笑顔には叶わないらしい
笑顔のためならなんでもしそうだ。
「おぅ、まかせときなさい葵ちゃん。葵ちゃんも約束守ってねぇ。」
あとは先輩に任せれば何とかなるだろう、数分前はどうなるかと思ったけど何とかなったか
「だいじょうぶ?」
心配そうに顔を覗き込んでいる。それなりに心配してくれてそうだ。
「あぁ、なんとかな【マジで死ぬかと思ったけど】そろそろ教室に行こう教室に入れば安心だ。」
校正部の絶対的ルールの一つで教室に入ったものは手を出してはいけないというルールがある。
涼達は、走ってその場を後にした。
「ふざけた事をしてくれたわね。神宮司君、何故邪魔をするの?あなたも校正委員でしょ?」
ほとんどの人はしらないけど神宮司は校正員なのです。
「葵ちゃんの頼みを聞かないわけには行かないからね。まぁ今回は見逃してよ。涼には俺も
用がある。始末は俺がするよ。」
「仕方ないわね、今回だけよ。行くわよ青!赤!」
校正員の中にも秩序がある。弱いものは強いものに逆らえない、これはどこの世界でも一緒だ。
俺は教室に入ると自分の席についた、葵も俺の隣の席につく。
何の因縁があってか知らないが、俺と葵は席が隣同士ということになっているのだ。
「さっきは助かった」
「それはこっちのセリフよ、さっきは私を庇って戦ってくれたんでしょ?ありがと」
なんだか面と向かって礼を言われると恥ずかしい
俺は視線をそらすと鞄から荷物を出しそれを机の中に押し込んだ
と1時間目のチャイムが鳴り先生が教室に入ってきた
「それでは今から出席の確認をする」
先生が順番に名前を呼ぶ
「萩山、萩山はまた遅刻か・・・」
そう言い終わった瞬間、唐突に教室のドアが開かれた
「ギリギリセーフって所ですかね?先生?」
そこには汗一つかいて無い生徒の姿があった
「いいや、遅刻だ萩山!今日で何度目だ!少しは時間に間に合おうという気持ちは・・・」
「はいはい、説教なら後で聞きますし、反省文ならいくらでも書きますから
朝から怒鳴らないで下さい。頭に響く」
男は全く悪びれた様子も無く自分の席についた
この男の名前は萩山祐介。このクラスの遅刻常習犯だ
「あいつまた遅刻か、よく懲りないな」
どこからともなくそんな言葉が聞こえる
先生は落ち着くと出席の確認を続けた。
眠い。めちゃくちゃ退屈。
俺みたいなアホが私立時成校に入れたのはいいが、ここの学校の授業は非常につまらん。
まあ、授業がつまらないのはどこの学校も同じか。
それでもここの学校の授業は本当に面白くも何とも無い。
あたりまえのように毎時間、ハゲ頭のおっさんが立ち代り数学や国語や科学、物理などの
教科を教えていく。ここは進学校だから恐ろしいほどのスピードでだ。
頭の悪い俺のことだから、ついていける訳がない。
だからいつもテストは赤点ギリギリ。なんとかサイコロ鉛筆のお陰で進級できているが、
今年は危ないかもしれない。
まあ、そんときはそんときだ。今はこの睡魔に身を任せよう。
「葵、昼になったら起こしてくれ。」
「はいはい、アンタはいつも授業中は寝るもんね。」
どっと疲れが出た。先の戦いでの疲れだ。
底知れぬ恐怖と助かった時の安堵感が俺の体を今支配している。
興奮しているとはいえ、如何せん疲れすぎた。
「昼の俺」はもろい。普通の人間のように。
眠い。本当に眠い。俺は起床時間を葵に任せ、目を瞑り、机に顔を押し付け眠った。
泥のように・・・・。
それから何時間たったのだろうか。
俺の背中を誰かが叩いている。
トントン、トントン。
心地よい。
トントン・・・トン・・・。
何だろう。
トントン・・ドン!ゴン!ドガ!!
「イテエエエエエエエ!!グアァァ!」
「起きろバカモノーーーーー!!」
葵が鬼のような形相で俺を睨んでいた。
そうか・・起こすのを頼んでいたっけな。
「すまん、そういえば葵に起こすのを頼んでいたな。」
「はぁ・・・・アンタっていう人は・・。」
葵の顔からは怒気がなくなっていた。
俺の寝ぼけた間抜けな一言で葵の怒る気力はなくなったのだろう。
葵がゴソゴソと鞄から何かを取り出す。
「アンタいっつもパンでしょ。」
葵の片手には弁当箱が二つ。俺の分だろうか。
いや、葵が弁当を二つ食べるとも考えられる。
見かけによらず大食いなのかも。
そんなことを考えてニヤニヤしていると、葵が俺に弁当箱を一つ投げた。
「・・・くれんの?」
「ありがたく思いなさいよ。なんてったって私のお手製なんだから。」
「・・・お手製か。やっぱいい。返す。」
「どういう意味よそれーーー!」
冗談のつもりだったのだが、本気で怒らせてしまった。
「はは、冗談だよ。ありがとう。」
俺が素直に礼を言うと、葵は満足したようだ。顔に笑顔が戻っている。
「ここで食べる?それとも屋上?」
ううむ、ここで食べるのは気が引ける。葵は学校でも人気があるのだ。
運動神経抜群、容姿端麗、おまけに頭もいいとくれば人気が無いわけが無い。
そんな葵と二人で、しかも葵お手製の弁当を食べるのは、このクラスの男子を敵に回すようなもの。
俺は屋上を指定した。
この学校の屋上は広い。
昼になるとバレーボールを持った女性徒が遊んだりしている。
それを見ながら昼食をするのもいいが、今は葵といるのだ。
あまり女の子を見てると横から拳が飛んで来るかもしれない。
付き合っている訳ではないのだけれど、何故かそうなるんだよな。
「どう?私の手作りは。」
「ん・・・ああ。」
俺が気のない返事をすると、葵はむっとした。やべ、また怒らしちまった。
「いや、ごめん。めちゃくちゃおいしいよ。久しぶりにまともな食事にありつけたよ。」
「ふふ・・そか。」
ううむ、女心っていうのは難しい。
何を言えば怒るのか、何を言えば喜ぶのか、男の俺には理解できそうにもない。
葵は特別にそう。
気難しい女だ。
それから俺は無言で箸を進めた。
女の子の手作り弁当を、それも二人っきりで食べるという状況を再認識し、恥ずかしく
なってしまったのだ。まさに夢にまで見た学園ライフ。
幸せだった。
そんなとき、後ろの方から男の声がした。
「やあ・・葵ちゃん。」
振り返ると、そこには校正委員の神宮寺の姿があった。
幼馴染と共に学校に通ってる涼、そこには安心と言う文字は存在しない。日々危険はまし、安息の地を求め屋上へ。
しかし、そこで待っていたのは……