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第二章 【二】

中学三年の秋。







十月の『放課後デート』は、やっぱり雨だった。


『雨男』『雨女』のくだりは、この日も、二人の間でなされた憶えがある…。


俺の家のマンションの入口で、取り留めの無い会話をするだけのデート。


俺は、それだけで充分、楽しかったが、彼女はどうだったか…。







そして、十一月のデート。


天気は曇り。


その日、ちょっとした騒動が巻き起こる。




帰りのHRが終わり、急いで帰る支度をしていると、妙に廊下が騒がしい。


一足先に、HRが終わったクラスの生徒が騒いでいた。


「高校生が、校門の所にいるらしいぜ!」


(ん?)


「男?女?」


「女子高生!しかも、ちょっと可愛いらしい!」


「うっそ、マジー!」


色目き立つ、中学生男子。


(まさか…。イヤイヤ、そんなはずは…。)


「こっそり、見に行こうぜ!」


嫌な予感がした。


俺は慌てて教室を飛び出し、いつものトイレに駆け込む。


瑞希さんからのメールに、返信をしている場所。


ほとんど、人が来ないこの場所。


携帯を取り出し、電話を掛ける。




『もしもし、マサ君?学校、終わったの?』


『瑞希さん、今、何処にいます?』


『今ねー、マサ君の中学の校門前!』


やっぱり!


『何でそこにいるんですか!』


『マサ君に、早く会いたかったから来ちゃった!手を振ったら、マサ君に見えるかな?』


『だー!振らなくていいですから、今すぐ、そこから移動して下さい!』


『何処に?』


『学校の裏に、公園が有りますよね?そこの、屋根がついているベンチの所で、待ってて下さい。そこなら、人通りが少ないですから。』


『そこで、私を押し倒すの?もー、エッチなんだから!』


『だから、そんなこと、しませんよ!いいから、早く移動して下さい!』


『はーい!早く来てね!』


(何を考えているんだよ、この人は…。)




「あっ、来た、来た!マサくーん!」


無邪気な笑顔で、手を振る彼女。


(この天然女め!)


「学校、終わるの早かったんですか?」


「ううん。マサ君に早く会いたかったから、早退して来た。」


「そんなことしちゃ、ダメじゃないですか!」


「だって…。」


「…。」


(気持ちは分かるけど…。)


この頃の俺達は、一ヶ月という期間が、ちょうど良かったのかも知れない。


微妙に間が空くことにより、『会いたい』という気持ちが、より強くなるから…。




「マサ君、バスケットで推薦の話とか、来てないの?バスケ上手いのに。」


「市外の私立から、一つありましたけど、断りました。寮に入らないといけないから。」


「もしかして、私に会えなくなるから?もー、照れちゃうなぁ!」


「ハイハイ、その通り、その通り。」


「また可愛くない反応だ!でも、上手いのに、勿体なくない?」


「もう、バスケはいいんです。これからは、趣味程度で充分です。」


(瑞希さんと、会う時間も減るし…。)




「成績…、落ちたりしてない?」


「それは、大丈夫です。むしろ、上がってますから。塾で、『この成績なら、西高に行けるぞ』って、言われました。」


「ホントにー!そしたら、一緒の高校に行けるね!」


「うーん…。でも、俺は東高でいいですよ。近いし、知ってる奴等も、いっぱい行きますから。」


「何でよ…。私、マサ君と一緒に、学校に行きたいのに…。」


「別に、学校が違っても、大丈夫ですよ。現に、今だってそうだし、受験が終われば、会う時間も増えると思うし。」


「そうだけど…。」


(何を心配してるんだろう?)


(俺は瑞希さんが好きだし、瑞希さんも俺が好きだから、大した問題じゃないだろ?)


彼女が何故、悲しそうな顔をしたのか、俺には分からなかった。




この日も、並んで歩きながら、瑞希さんの家まで帰る。


この時の彼女は、少し元気がなかった…、ように見えた…。


彼女は、自転車を押しながら歩く。


またしても、手は繋げない。


付き合い始めて三ヶ月が経つが、未だに手も繋げない俺達。


行き場を無くした俺の手は、ズボンのポケットに突っ込まれたままだった。


(何で上手く行かないんだろう?)


(手を繋ぐことなんて、簡単なはずなのに…。)




「来月のクリスマス…、空いてる?」


恐る恐る、彼女が聞いてくる。


「二十四日と、二十五日は塾です…。残念ながら…。」


「そうなんだ…。…塾…、サボってよ…。」


「えっ、ちょっと…、それは…。」


(出来ない相談なんだけど…。)


「冗談だよ!二十四日の夜か、その前後の日は?」


「二十四日の夜は、空いてますよ。二十六日なら、一日中、空いてますけど。」


「じゃあ、来月は二十六日にしよう!久し振りに、一日デートして、カップルらしく、プレゼント交換しようよ!」


「いいですよ。瑞希さんは、何が欲しいですか?」


「教えてあげない。マサ君、自分で考えなよ!私が喜びそうなものを、私のことを考えながら!」


「ちょっとぐらい、ヒントをくれても…。」


(女の子が喜びそうなものなんて、分からないし…。)


「ダメだよ!恋人のことを考えながら、プレゼントを選ぶことが重要なんだから!」


「じゃあ、俺も教えませんからね!」


「大丈夫だよ。私は、大体、決まってるし!」


「何…ですか?」


「だから、内緒!」


このやりとりで、瑞希さんは少し元気になったようで、俺はホッとした。







次の日。


「ねぇ、ねぇ、聞いた?昨日の女子高生、去年、うちの生徒会長だった神崎先輩だったんだって!」


瑞希さんは、中学生女子の噂の的だった。


「うっそー!神崎先輩って、もっと地味な人じゃなかった?昨日の女子高生、凄く可愛かったよ。」


「うちの中学に、『彼氏』がいるらしいよ!その『彼氏』のおかげで、可愛くなったんじゃない?」


「私も『彼氏』が出来れば、可愛くなれるのかなぁ!高校生になれば、『彼氏』出来るのかなぁ!」


「それより、神崎先輩の『彼氏』って誰だろう?」


「多分、バスケ部の誰かだよ!去年、そんな噂があったじゃん!」


「でも、その噂は、『彼氏』じゃないって話だったでしょ?」


(そんな噂があったのか…。全然、知らなかった…。)


(もしかして俺は、『フラグ』ってやつに、ことごとく、気付かなかったのか?)







自分の、『恋愛偏差値』の低さを自覚した、中学三年生の秋。


でも、普通の中学生って、こんなもんでしょ?



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