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第一章 【三】

時は更にさかのぼり、中学二年生の春。







俺は、友人達と廊下でふざけ合っていた。


だんだんとエスカレートしていき、肉弾戦の様相を呈してくる。


ドン!


「きゃっ!」


エスカレートし過ぎた。


俺は、廊下を歩いていた女の子にぶつかってしまう。


しかも、上級生の女の子。


「すいません!大丈夫ですか?」


尻餅を付いていた女の子に謝りながら、慌てて手を差し出す。


「…!」


(やべぇ、めっちゃ怒ってる、この人…。)


差し出した俺の手を無視し、立ち上がったその女の子は、顔を赤くして俺を睨んだ…、ように見えた…。


「け、ケガしませんでしたか?ホントに、すいません!」


「廊下でふざけてたら危ないでしょ。みんなが通るんだから。小学生じゃあるまいし。」


(そんなに怒っているわけじゃないのか?)


淡々とした口調で、俺達を注意する、その彼女。


「はい…、すいませんでした…。」


友人も彼女に謝る。


「特に、背の高いキミ!」


「…!」


(えっ、俺?)


「ただでさえ大きいんだから、か弱い女の子ならケガするよ!私だったから良かったものの…。」


「はぁ…、気を付けます…。」


「分かればいいの!」


そう言って、ニッコリと微笑んだ彼女。


その笑顔に、ドキッとした。


(自分も『か弱い女の子』じゃん…。)


(確かこの人、生徒会長だったような…。)


(…っていうか、このドキドキって何?)


(あの笑顔…、反則だろ…。)


(やべぇ…、俺、ちょっとやべぇ…。)


これが、俺と瑞希さんのファーストコンタクト。


そして、中学時代の唯一の会話。


俺は、メガネを掛けた、おさげ髪の彼女に恋をした…。







それ以来、学校では、毎日のように彼女を探す。


見つけることが出来た時は、飛び上がる程、嬉しかった。


(俺、ちょっとヤバくないか…。ストーカーみたいじゃん…。)


(彼氏は…、いないみたいだけど…。好きな人、いるのかなぁ。)




そして、梅雨入り前のある日、ちょっとショックな光景を目にする。


バスケ部の先輩である高木さんと、瑞希さんが話をしている光景。


話しているだけなら、特に気にする必要はないのだが…。


俺が、ハートを打ち抜かれた笑顔で、話をしている光景だった…。


(もしかして、彼女は高木さんが好きなのか?)


(高木さんも、万更じゃないみたいだし…。)


自分の彼女でもないのに、わけの分からない嫉妬心がわいてきた。




「高木さんって…、生徒会長の神崎さんと、付き合ってたりするんですか?」


一応、確認してみる…。


確認してみるだけ…、のつもりだった。


「はぁー?そんなわけねぇだろ!同じクラスなだけだよ!」


「そうですか…。」


(良かった…。)


心底、ホッとした…。


これが、いけなかった。


「ほっほう、そういうことか…。お前、意外と渋い趣味してんな。」


俺の気持ちが、バレてしまった。


「だ、誰にも言わないで下さいよ…。」


「言うわけねぇだろ!でも、お前、アイツと面識あるのか?」


「俺は、多少…。向こうは、知らないと思いますが…。」


「もしかして…、『アレ』はお前か?」


「『アレ』って?」


「ちょっと前に、『背の高い二年生に吹っ飛ばされた!』って、アイツが言ってたんだよ。」


「…!」


(『吹っ飛ばされた』って…。確かに、その通りだけど…。)


「そこで、お互いに、恋が芽生えちゃったんだな。」



「『お互い』じゃないですよ!俺の一方通行です…。」


「まぁ、そう思うのは、お前の勝手だけどな。」


「高木さんって…、神崎さんとそういう話…、するんですか?」


「だから、お前が想像してるような仲じゃないって!他にも、アイツと仲がいい奴はいるし。」


「あの人…、モテるんですか?」


「イヤ、全然!真面目を絵に描いたような外見だしな。実際に話してみると、結構、天然で、面白い奴なんだけど。外見だけで惚れるのなんて、お前ぐらいだろ。」


(『外見だけ』というわけじゃないんだけど…。)







そして、彼女の卒業間近。


「お前、神崎に告らねぇの?もうすぐ、卒業しちゃうぞ。」


受験が終わり、一段落ついた高木さんが、部活に顔を出し、俺に問い掛けてきた。


「しませんよ…。」


(どうせ、上手くいくわけないし…。)


「向こうは、待ってるかも知れないぜ。」


「そんなわけないですよ!」


(でも…、言うだけ言ってみようかな…。)




「ところで、お前、高校は何処に行くの?」


「先輩と同じ、東高に行こうと思ってますけど。近いですから。」


東高なら、自転車で十分もかからない。


歩いてだって行ける。


「神崎は西高だぜ。」


「知ってますよ…。前に、先輩が俺に、言ったんじゃないですか!」


「神崎のケツは、追い掛けないのか?お前の成績なら、ちょっと頑張れば行けるだろ?」


「無理ですよ!それに、ちょっと遠いですから。」


西高だと、自転車で二十分はかかる。


「まぁ、俺としては、高校でも、お前とバスケが出来るのは、いいことだけどな。お前がいれば、結構、いい線まで行けるだろうし。」


(うーん、そう言ってくれるのは、嬉しいけど…。)


(高校では、部活より他のことに、力を入れたいんだよな…。)


(例えば、恋愛とか…。って、なんてキモいことを考えているんだ、俺は!女子じゃあるまいし!)







結局、卒業式の日も、『告白』を実行に移すことは出来ず、彼女は卒業してしまった。


卒業式の後、一瞬、彼女と目が合った…、気がした…。


彼女は、悲しげな顔をした…、気がした…。







こうして、彼女は中学を卒業し、俺は中学三年生になった。



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