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番外編【二】 女性恐怖症の男

「俺が、持ちますよ!」


「平気だって!」


会議で使う大量の資料を、どっちが持つかで議論する。


「大野さんは女性なんだし、こういうことは、男である俺がやらないと。」


「そ、そう?じゃあ、お言葉に甘えて…。」


彼に、女として扱ってもらい、ムズ痒い気分になる。


(実際にされると、気持ち悪いな…。)




彼は他の男と違い、私を一人の女性として見てくれていた。


そんな彼に、どんどん惹かれていき、『好きだ』という気持ちが抑えきれなくなっていく。


彼の方はというと…。


私が、何気なく周りを見渡すと、彼と目が合うことが徐々に増えていく。


そんな時、決まって彼は、顔を少し赤くして、すぐに目を伏せる。


(彼も、私が好きなのか?)


そう思う場面が多々あった。


しかし、彼は一筋縄ではいかなかった…。







その年のクリスマスイブ、一世一代の決心を持って、彼を食事に誘ってみる


彼は、二つ返事でOKする。


(もしかして、もしかするかも…。)


(だって今日は、クリスマスイブだよ!)


独身同士で、お互い恋人もいない同士の男女が、クリスマスイブにデートらしきものをする。


適齢期の私に、『期待するな』という方が無理な話だ。




抑えきれないドキドキを、彼に悟られないようにするのに一生懸命だった。


私は、内容のない話や仕事の愚痴を、エンドレスで話し続ける。


聞き上手な彼は、相づちを打ったり、ツッコミを入れたりしながら、嫌な顔ひとつせず聞いてくれる。


しかし、私が期待した言葉は、中々、彼から出て来ない。


私は酔いも手伝い、核心に近いことを聞く。


「水野は、彼女を作らないの?」


「作らないってわけじゃないですけど…。」


妙にソワソワし始め、私をチラチラ見る。


(よし!間違いない!)


彼の態度を見て、確信めいたものを感じる。


が、しかし…。


「水野は、結構モテる…でしょ?」


「うーん…、どうなんでしょう…。」


私の誘導に、彼は乗って来ない。


「…。」


(私が、『彼女』になってあげようか?)


私も、その言葉が言えない。


「俺…、女性恐怖症みたいなんです…。」


「えっ?」


(何よ、それ…。)


「ちょっとしたトラウマがあって…。」


「私のことも…怖いの?」


「…?大野さんは、怖くない…ですけど?」


(やっぱり、お前もそうなのかよ!)


「ちょっと、ショックだな…。私も一応、女なんだけど…。」


「あっ、違うんです!そういう意味じゃなくて、女の人自体が怖いんじゃなくて、女の人を好きになるのが怖いんです。」


「そうなの…。」


(私にとっては、どっちでも同じようなもんだよ…。)


「恋人は欲しいんですけど、どうしても踏み出せなくて…。」







その日、やけ酒気味に飲んでしまった私は、帰る足取りもおぼつかなかった。


そんな私を、家まで担ぐように運んでくれた彼。


辛うじて、意識だけはあった私は、彼にお礼をしようと思い…。


「ちょっと上がってく?お茶ぐらいだすよ。」


一人暮らしのアパートに、彼を招き入れようとする。


「そんな、とんでもない!一人暮らしの女性の家に上がるなんて!そういうことは、正式に付き合ってから、改めて…。」


『正式に付き合ってから、改めて…。』


朦朧とする意識の中、その言葉だけは聞き逃さなかった。


『一晩中、男女二人だけでも何も起こらなかった』という武勇伝?を持つ私。


彼を家に入れることについて、深く考えていなかったのだが…。


彼は、私を女として見てくれていた。


(彼も、私のことが好きなはず。)


(彼の中では、私は『女』なんだ…。)


失恋に近い状態だったが、私は何だか嬉しかった。







それから私は、彼を頻繁に食事に誘う。


彼は、一度も断らない上に、喜んで付いてくる。


私が奢るわけでもない上に、割り勘どころか、彼の方が、いつも多めに支払いをするにも関わらず…。




彼と出会ってから一年が経ち、私が彼の教育担当を離れる頃、初めて、彼の方から食事に誘ってきた。


いつになく真剣な顔で…。


(だから、私を期待させないでよ…。)


彼の女性恐怖症が治るのを、長い目で見ようと思ってはいたが、彼の態度に、またしても期待してしまう。




「一年間ありがとうございました。大野さんには、色々、助けていただいて。」


「…それだけ?」


「えっ…、どういう意味…ですか?」


「ううん…。何でもない…。」


私の期待は、またしても裏切られた…。




「今日も、送って行きましょうか?」


「今日は平気…。タクシーで帰るから…。」


「…何か…怒ってます?」


「怒ってないよ…。」


別れ際、少し不機嫌だった私を見て、彼は怪訝そうな顔を見せた。


そして私は、精一杯の笑顔で彼に別れを告げ、背を向けたが…。


意を決して、振り返る。


「ん?」


その私の行動を、彼は不思議そうに見つめる。


「あの…、えーと…、何て言ったらいいか…。」


「…?」


「私…、水野のことが好き!」


「えっと…、俺も…ですけど…。」


私は、気が付くと彼に抱き付いていた…。


人の往来の、ど真ん中で…。








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