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番外編【一】 大男と大女

番外編は、最終話の時点から少しさかのぼり、正宏の妻、美咲の目線の話です。

四話あります。


ドン!


「きゃ!」


「イテー!」


その日、急いでいた私は、会社の中で、一人の男にぶつかる。


会議に使う資料が足りなくて焦っており、周りをよく見ていなかった私が悪いのだが…。


飛び散った資料を、一緒に集めてくれていたその男に向かって、暴言に近い言葉を放つ。


「ボーッと吊っ立ってたら、危ないでしょ!」


「すいませんでした…。場所が分からなくて…。」


190センチ近くある大男が、床に這いつくばって、散らばった紙を集めている姿は、ちょっと可愛かった。


「キミ、見たことない顔だけど、新人?」


「はい、そうです。新人研修の場所が分からなくて…。」


「それだったら、突き当たりを右に入った所だと思うよ。」


「ありがとうございます。…じゃなくて、本当にすいませんでした。」


「…!」


一足先に立ち上がったその男は、まだ床に膝を付いていた私に向かって、手を差し出す。


その姿に、急に胸が高鳴る。


(えっ、何?このドキドキって…。)


私は、胸の内を悟られないように、平静を装いつつ、その手を取る。


「本当にすいませんでした。」


最後にその男は、少し微笑みながら、もう一度、頭を下げ、背を向けて行ってしまった。


私は、しばらくの間、呆然としてその背中を見ていた。


(私が見上げる程の男なんて…。)


(ちょっと、格好良かったかも…。)


(名前…、聞けば良かった…。)


(ヤバイ、私、ちょっとヤバイかも…。)




社会人四年目に突入した、四月の初頭。


私は彼と出会った。


友人に言っても、誰も信じてくれないし、馬鹿にされるだけだが…。


私はこの時、『この人と結婚するかも』と思った。







私は、はっきり言って、モテない女だ。


顔は悪くないと、自分では思っているが、身長が180センチ近くある大女だ。


モテないのは、身長の所為だけではないが…。


子供の頃から背が高く、身長を生かす為に、バスケットを始める。


高校の時には、全国大会に出たこともある。


私は女であるが、ノリは体育会系で、男友達も多い。


しかし、恋愛関係に発展することは、全くなかった。


『お前は男友達みたいだ』


私の男友達共は、示し合わせたように、同じことを言う。


私は、一応、女だし、彼氏が欲しいに決まっているのだが…。


そんな自分を変えようとして、高校の時は短かった髪を、大学生になったら伸ばしてみる。


しかし、周りで、私を女として見てくれる男は、一人もいなかった。


唯一、あの背の高い男を除いて…。







あの日から、ひと月ほどたった四月の終わり頃。


仕事中、上司に呼ばれる。


「今年、うちの部署に、新人が配属されることになった。お前は四年目になったし、面倒を見てやってくれ。」


(チッ、メンドくさ…。)


新人の教育係を、押し付けられる。




私は、友達が全くいないわけではないが、女性同士の付き合いが得意ではない。


私が、ちょっと厳しいことを言っただけで、大抵の女性は近寄って来なくなる。


この時、二十代半ばにして、既に『お局』扱いだった。


私の女友達は、私に言い返してくるような、私に似た性格の娘達しかいない。


その新人は、私の女友達ような性格とは限らないし、面倒くさいこと、この上なかった。


私が、教育係に指名されたのだから、その新人は女性だと、信じて疑わなかった…。







そして、新人配属の日の朝、上司に呼ばれ、嫌々、席を立つ。


「彼女がお前の教育を担当するから、分からないことは、彼女に聞くように。」


その新人を紹介された私は、驚いていた。


なんと、背の高い男だったから…。


「お、大野美咲です…。宜しく…。」


「初めまして、水野正宏です。宜しくお願いします。」


深々とお辞儀をする彼。


そして、彼が顔を上げ…。


「…。」


(ん?)


「…。」


(どっかで、見たことがあるような…。)


そして…。


「「あっ、あの時の!」」


二人が同時に発した言葉は、見事にハモッた。








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