最終章
こんな天気の日に、長い間、立っていると、膝が疼いてくる。
もう完治はしているし、日常生活に支障はない。
運動だって、問題なく出来る。
無意識に膝を触っていると、
「膝、どうかしたの?」
例のOLさんが、また話し掛けてきた。
「高二の時、大怪我しちゃって。完治はしてるんですけど、こんな天気の日は疼いてくるんです。」
「そうだったの…。知らなかった…。」
「…?」
(知らなくて当たり前だろ?)
(何か変だな、この人…。)
(見た目と違って、天然なのか?)
「奥さん、遅いね。家は遠いの?」
「いえ、近いんですけど…。出掛ける時は、いつも時間が掛かる人なんです。昔から…。」
「恐妻家のキミは、文句を言えないんだね!でも、一回ぐらい、ガツンと言ってやれば?」
「それが出来たら、苦労はしませんよ!文句を言おうものなら、何倍にもなって返って来るんですから!」
「ふふっ、仲いいんだね…。ちょっと羨ましい…。」
「…。」
(また、余計なこと、言っちゃったかも…。)
淋しそうに笑う彼女を見て、申し訳なく思った。
「さっきは…、ごめんね。重たい話をして…。」
「そんなこと、気にしないでいいですよ。俺が、余計なことを聞いたのが、いけなかったんですから。それに、人に話せば、楽になることもありますから。」
「相変わらず、優しいんだね…。」
「…!」
(また、『相変わらず』って言った!)
(今度は、確かに言ったぞ!)
(やっぱり、俺のこと、知ってるのか?)
(名前を聞いてみたいけど…。)
(結婚してるのに、ナンパみたいなことするわけにはいかないし…。)
「ちょっと小降りになって来たみたい。」
彼女がそう言った時、妻が運転する車が、駅のロータリーに入って来るのが見えた。
「俺は、お迎えが来たみたいです。」
「今日は、話し相手になってくれてありがとね。いい暇潰しになったよ!キミに話せて、スッキリした。『結婚っていいかも』って、ちょっと思った…。」
「お役に立てて、幸いでございます。」
「ふふっ!」
(あっ、ウケた。)
この時、彼女は、一番の笑顔を見せた。
「それじゃあ、お先に!」
「お疲れー!」
彼女は、小さく手を振った。
プップー!
妻が、車のクラクションを鳴らす。
そして、車に向かって、走り出そうとした時…。
『さよなら、マサ君』
「えっ!」
『マサ君』と言われた気がして、彼女の方を振り返る。
彼女は、また空を見上げていた。
(気のせいか…。)
「遅いですよ、美咲さん!」
車に乗り込み、妻に文句を言う。
「ごめん、ごめん!支度に手間取っちゃって!」
妻は、謝ってはいるが、きっと、反省はしていない。
(車で迎えに来るだけなのに、どんな支度が必要なんですか!)
という言葉は、言えるわけがなく…。
俺は溜息をつきながら、何気なく窓の外を見る。
そして、雨宿りをしていた場所で視線が止まる。
(あれ?あの人、傘、持ってるじゃん!)
ちょうど、あのOLさんが、傘をさして歩き出すところだった。
雨でよく見えなかったが、何故か、泣いているように見えた。
「ねぇ、美咲さん。」
「何?」
「俺達が出会った日って、どんな天気でしたっけ?」
(俺は、何故、こんなことを聞いたのだろう?)
「はぁ?…多分、晴れだったと思うけど?」
「それじゃあ、付き合い始めた日は?」
「その日も、晴れだったような…。」
「結婚式の日は?」
「雲ひとつない快晴…だったけど…。急に、どうしたの?何か変だよ、マー君。」
(やっぱり俺は、『雨男』じゃないじゃん!)
〜完〜
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ご意見、ご感想がありましたら、お寄せ下さい。
この話を作るに当たって、イメージしたのは、『不純な純愛』です。
その為、性表現が多く含まれていることを、ご容赦下さい。
(第一章について)
第一章は、正宏と瑞希の出会いから、付き合い始めるところを書いてます。
出会いの場面で、お互いに、都合良く一目惚れします。
かなりベタな展開で、失笑してしまった方もいたかも知れません。
この話を作る上で、出会いのシーンは、出来るだけベタな展開にしようと思っていたので、失笑を買うのは覚悟の上です…。
(第二章について)
第二章は、恋人になってから、初体験までを書いています。
かなり端折る形になってしまいました。
本当は、恋人同士のイベントを通して、二人がラブラブになっていくようにしたかったのですが…。
一話に膨らませるようなネタがなく、クリスマス以外は、数行程度、触れるだけになりました。
(第三章について)
第三章は、少しずつすれ違う二人を書きましたが、ここが一番、難しかったです。
上手く伝わったでしょうか?
正宏と瑞希以外の登場人物を上手く動かすことが出来ず、中途半端な中だるみの章になってしまいました。
もう少し、上手く描ければ良かったのですが…。
(第四章について)
第四章は、二人の別れまでを書きました。【五】はオマケみたいなものです。無くても良かったのではないか?とも思います。
二人が破局した原因については、「たったそれだけのことで?」と、思ってくれれば幸いです。
それが狙いです。
以下、ネタバレ注意!!
(最終章について)
大人になった正宏と話しているOLは、大人になった神崎瑞希です。
各章の【序】では、隠すように書いたつもりでしたが、読み返してみると、バレバレですね…。
瑞希は、話している相手が正宏だと気付いていますが、正宏は、相手が瑞希であるとは、最後まで気付いていません。
二人がお互いのことに気付き、再び結ばれるというラストも考えましたが…、この形にした方が、面白いと思ったので…。
そういうラストじゃありません!という意味の伏線として、正宏は、既婚で妻は妊娠中という設定にしました。
正宏は、トラウマを抱えたままの瑞希を忘れて、自分ばかり幸せになったわけでは、決してありません。
その辺のことは、番外編で書きたいと思います。
以上、作者の呟きでした。
(人物紹介と補足)
『水野正宏』
本編の主人公。
身長186センチで結構イケメン。
それなりにモテると思われるが、好きな女の子に対して一途な為、それ以外の女性からの好意の視線には気付かない。
ごく普通の思春期の男子をイメージしていましたが、話が進むに連れ、酷い男になってしまいました…。
『神崎瑞希』
話し好きで明るい女の子。
ちょっと天然。
身長160センチ。
中学時代は、真面目な優等生の外見だったが、高校生になると、イメージチェンジをする。
下ネタも平気なオープンな性格だが、正宏に本音を隠して付き合いを続けていた。
正宏のことは、『マサ君』と呼ぶ。
『高木(名前は不詳)』
正宏のバスケ部の先輩。
身長180センチ弱。
中学時代は、正宏と瑞希のキューピッドになれず、高校時代は、正宏と瑞希の仲を掻き回す存在にもなれず、中途半端な人物になってしまいました…。
『滝本由香』
東高校バスケ部マネージャー。
身長160センチ弱。
正宏の先輩で、正宏にとって二人目の恋人。
いつもニコニコしていて可愛らし娘。
正宏に瑞希がいる間は、おとなしくしていたが、二人が別れた後は積極的になり、念願叶って正宏と付き合い始める。
正宏と別れる時、彼にトラウマを残す。
正宏のことは、最初から最後まで『水野くん』と呼ぶ。
『水野美咲(旧姓 大野美咲)』
正宏の妻。
正宏より三歳上の、姉さん女房。
身長176センチで、女性にしてはかなり背が高い。
最終話の時点で、結婚一ヶ月、妊娠六ヶ月。
正宏のことは、『マー君』と呼ぶ。
彼女を主人公にした番外編を書きます。
詳しくは、そちらを御覧下さい。




