第四章 【二】
新学期を迎えると、また月一回のデートに戻る。
俺は、以前にも増して、部活中心の日々。
学校には、勉強ではなく、部活をしに行く感じ。
『バスケットは中学で卒業』と思ってたことが、嘘のように…。
瑞希さんは、土日にファミレスでバイトを始める。
俺達が、入り浸っていたことがある場所だった。
二人の間に、すれ違いが起こっても、おかしくはなかったが…。
九月は、お互いの休みを上手く合わせることが出来、映画を見に行った。
この日は、睡魔に負けることは無かったが、天気はやはり雨だった。
『雨男』『雨女』のやり取りは…した…記憶がない。
十月は、ちょっと危なかった。
予定していたデートの日、急に部活の練習試合が入ってしまう。
幸い、練習試合は午前中で終わり、その足で瑞希さんのところへ向かった。
この日は、彼女の家ではなく、外で待ち合わせをしていた。
そして、十一月。
恐れていたことが、起こってしまった。
デートの約束をしていた日の前夜、瑞希さんから電話が掛かって来る。
『マサ君、ごめん!明日、バイトが入っちゃった…。』
『えっ!どうして…。』
楽しみにしていただけに、ショックがでかい。
『急に、シフト変わってくれって言われて、断り切れなかったの。』
『…月一回の約束は…、どうするんですか?』
『別の日じゃ…ダメ?』
『今月は、部活が休みなのは、明日だけなんですけど…。』
『そっか…。じゃあ、平日で空いてる日は?』
『全部、部活ですよ!』
思わず、声を荒げてしまった。
『そんなに怒んないでよ!ごめんって言ってるでしょ!』
『怒ってないですよ!それで、約束はどうするんですか?』
『どうしよう…か?』
『それは、俺が聞いてるんです!このままじゃ、今月は、会わないってことになりますよ!』
『だから、怒んないでって言ってるじゃん!そんなに言うなら、マサ君、部活サボってよ!一回ぐらい、いいでしょ?』
『そんなわけには、いかないですよ!俺は、一応、レギュラーなんだし。』
『マサ君は、私よりバスケの方が大事だもんね!』
『そんなこと、誰も言ってないでしょ!』
『もういい!』
そこで、電話は切れた。
お互い感情的になってしまい、思いも寄らぬ大喧嘩に発展してしまった。
一方的に電話を切られたあと、俺はすぐに後悔するが…。
(今回、俺は悪くない!)
すぐにでも謝りたかったが、先に謝ったら負けな気がしていた。
翌日の午後、彼女のバイト先に行ってみようと思い、家を出たが…。
直前で引き返し、家に戻った。
その間、何度も携帯電話を取り出し、メールで謝ろうと思ったが、実行に移すことは出来なかった。
その日の夜、携帯電話が鳴る。
発信者は、『神崎瑞希』だった。
一瞬、電話に出ることを躊躇したが…。
『もしもし、マサ君?良かった、出てくれて。』
瑞希さんの、ホッとしたような声だった。
怒ってはいないようだった。
『何か用ですか?』
本当は嬉しいはずなのに、わざと冷たい返事をしてしまう。
『何よ、その言い方!…じゃなくて…。今、マサ君の家の前に来てるの…。ちょっと、出て来れない?…っていうか、出て来て!』
『分かりました。すぐ行きます!』
そして俺は、電話を切るや否や、部屋を飛び出した。
階段を駆け降りながら、何処にいるのか聞かなかったことに気付くが…。
瑞希さんは、あのにわか雨の日、俺達が再会した場所にいた。
「マサ君、慌て過ぎ!そんなに焦らなくても良かったのに。」
電話を切ってから、ものの数秒で現れた俺に、瑞希さんは驚いていた。
「…で、何か用ですか?」
電話に出た時のように、冷たい返事を返すが…。
今更、そんな態度を取っても遅いのだが…。
「ふふっ、可愛らしい反応!」
そう言って、彼女は笑顔を見せた。
「今回、俺は悪くない…ですからね!」
「うん、今回は私が悪い。ホントにごめんなさい。昨日の電話の態度も、ごめんなさい。」
「いや、俺の方こそ、すいませんでした…。」
素直に謝られてしまい、思わず、俺も謝ってしまった。
「何で、マサ君も謝るの?『今回、俺は悪くない!』、じゃないの?」
「何となく…。」
取り敢えず、別れの危機は脱したかに思えた。
『月一回は必ず会う』という約束は、この月も守ることが出来た。
この日、俺は、彼女が乗っていた自転車を片手で押しながら、彼女を家まで送る。
そして、もう片方の手は、彼女の手を握る。
この時、俺はドキドキしていた。
繋がれた手から、彼女のぬくもりが伝わって来ていたから…。
「今日、バイト先の店長に、『シフトの変更のことで、彼氏と喧嘩した』って言ったらね、代わりに来月は、二十四日と二十五日、両方とも休みになったの。マサ君、部活ある?」
歩きながら、瑞希さんが聞いてきた。
「二十三日から遠征に行かなくちゃいけなくて、帰って来るのは、二十四日の夜になるんですけど…。でも、その代わり、二十五日は休みですから!」
「じゃあ、来月は二十五日だね!」
「また、プレゼント交換しますか?あんまりお金ないですけど。」
「今年は、プレゼントはいらないよ。その日、久し振りに、私の家においで!私、ケーキ作るから、私の家で一緒に食べよ!」
「でも…。」
「もし、したくなっても平気だよ!その日は、うちに誰もいないから!」
「だから、何をしたくなるって言うんですか!」
「私の口から言わせる気?」
「…。」
(また始まったよ…。)
(でも、こういうところが瑞希さんらしいけど。)
『雨降って地固まる』
初めてと言ってもいいぐらいの大喧嘩は、結果的に、すれ違い始めていた俺達を、元の道に戻してくれた…気がした。
俺達は、以前のように戻れた…気がした。
彼女と手を繋いだのも、キスをしたのも、この日が最後だった。
俺に向ける笑顔を見たのも…、最後だった…。