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第四章 【一】

俺達は、二度目の夏を迎えた。







インターハイの県予選も始まり、東高バスケ部は、順調に勝ち上がる。


俺は、一応、レギュラーとして試合に出る。


試合の日、瑞希さんは、応援に来てくれていた。


俺は、彼女の前でなら頑張れる気がしていた。


しかし、残念ながらと言うか、やはりと言うか、私立高校の壁に弾き返されてしまう。


公立高校で、少人数の俺達の高校では、当然の結果と言えるかも知れない。


試合後、三年生達は涙を見せた。


一緒に試合に出ていた俺も、その姿を見て、涙が溢れそうになる。


(俺が、もう少し頑張れれば…。)


しかし、まだ一年生の俺は、泣いちゃいけない気がして、必死に涙を堪えていた。




「惜しかったね…。」


試合後、応援に来ていた瑞希さんに、慰められるが…。


「『惜しかった』じゃ、ダメなんですよ…。三年生は最後の大会だったんだから…。」


俺は、彼女の前で、少しだけ泣いた。







そして、迎えた夏休み。


バスケ部は、高木さんが新キャプテンになり、新チームが既に始動していた。


俺は、主力の一員として、相変わらず、部活三昧の毎日。


高木さんと俺は、全体練習が終わった後、毎日、居残り練習をするのが日課になっていた。




「やっぱり、お前、スゲーな。俺は、バスケじゃお前に勝てる気がしねぇ!」


悔しそうな高木さんの言葉。


この頃の俺は、体力も付き、技術も向上してきたことを実感していた。


「俺なんか、まだまだですよ。先輩達のフォローがないと、全然ダメです。」


(ここで安心したら、中学時代の二の舞だしな。)




「ところで、お前、マネージャーの滝本に、何か言われた?」


「何も言われてないですけど。何でですか?」


「それならいいんだ…。しかし、神崎の奴、変わったよな。『女は化ける』とは、このことだな。」


微妙に、話を逸らされた気がしたが…。


高木さんは、瑞希さんに再会した時、唖然としていたことを思い出した。


「『俺の彼女』ですからね…。」


「お前は、何を心配してんだよ!お前から取ろうなんて、これっぽっちも、思ってねぇよ!俺も、『彼女』いるし。」


高木さんの『彼女』は、同じ高校の二年生。


結構、可愛い人だが、非常におとなしい。


その彼女も、県大会の時、応援に来ていた。


瑞希さんと並んで応援している姿を見掛けた。


瑞希さん曰く、『話し掛けないと、話してくれない女の子』らしい。


そういうタイプは、俺には無理だ。


瑞希さんみたいなタイプじゃないと…。


(高木さんは、どうやって口説き落としたんだ?)







夏休みは、例え部活があったとしても、授業がある日々に比べれば、少し余裕がある。


デートをする時間は、たっぷりあった。


瑞希さんと付き合い始めて、ちょうど一年が経った日には、市民プールへ行った。


そしてこの時、一年前と、何かが変わっていることに、俺は初めて気付いた。




「今日も楽しかったね!」


「そうですね…。」


プールから帰る時、いつものようにはしゃいでいた瑞希さんに、微妙な返事を返してしまう。


俺は、ちょっとした違和感を感じていた。


(去年は、めちゃめちゃ楽しかったけど…、今年はそうでもなかったような…。)


彼女の水着姿を見ても、一年前ほどの感動もなく…。


(何でだろう?水着の中まで、見たことがあるからか?)


辛うじて、前年と違う水着であることは気付いたが…。




「今日も、家に行ってもいいですか?」


プールの帰り、瑞希さんに聞く。


あまりに露骨な問い掛けだったが…。


「いいけど…。今日は家に、うちの親、いるよ…。」


彼女の反応も、いつもと違う。


この日は結局、彼女の家の手前で、キスをして別れた。


(彼女の親に、挨拶するべきじゃなかったのか?)


気付いた時は、もう遅かった。







残りの夏休みの日々は、出来るだけ、瑞希さんに会う。


しかし、それはデートと呼べる代物ではない。


部活が午前中で終わった日に、彼女の家に直行する。


そして、彼女とセックスをする。


何処かへ出掛けるわけでもなく、欲望の赴くまま、彼女の体を求めた。


彼女が、拒まないのをいいことに…。




夏休みも終わりに近付いたある日。


やることをやった?あと…。


「ねぇ…、マサ君…。」


「何ですか?」


「私…、子供が出来た…って言ったら…、どうする?」


「えっ…、出来た…んですか?」


血の気が引き、頭が真っ白になる。


「例えばの話だよ…。」


「出来て…ないんですか?」


「当たり前じゃない!ちゃんと、避妊だけはしてたし…。例えば…、そうなったら、マサ君はどうするかと思って…。」


「『どうする?』って言われても…。俺達…、まだ高校生だし…。」


この時は、そう答えるしかないと思った。


「そうだよね、当たり前だよね。ごめんね、変なこと言って!忘れて!」


「…。」


(何だよ!俺を試すみたいなことを言って!)


俺は、ホッとすると同時に、苛立ちもあった。


冷静に考えれば、これは非常に分かりやすい、彼女のサインだった。


今なら、普通に気付く。


しかし、高校生ではそう簡単にはいかない。


ましてや、動揺や苛立ちがあったこの時では…。




「私、バイトしよっかなぁ。」


「バイトですか?…いいと思いますけど…。」


表面上は、賛成して見せたが…。


「その顔は、マサ君、心配なんでしょ?」


「少し…。」


「デートする時間は、ちゃんと作るから大丈夫だよ!」


俺が心配しているのは、そこじゃない。


(瑞希さんみたいに可愛い娘なら、絶対、男が寄って来るだろ…。)


(ちょっと無防備だからなぁ、この人…。)


この時、『心配だ』と、ちゃんと伝えるべきだった。


しかし、変なプライドが邪魔をして、口に出すことが出来なかった。







彼女の家に上がったのは、この日が最後だった。



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