第三章 【序】
……………………、また、電話に出ない。
(何やってるんだ、一体!)
(もしかして、何かあったのか?)
(一人だけの体じゃないのに!)
一瞬、嫌な予感が頭をよぎる。
「奥さん、電話に出ないの?」
例のOLさんが、また話し掛けてきた。
「そうなんですよ。何やってんですかね。」
「もしかして、浮気してたりして!」
「はぁー?そ、そんなはずは…。結婚して、まだ一ヶ月だし、妊娠中だし…。」
「ふふっ…、冗談だよ…。あれ?奥さん、妊娠何ヵ月?」
どうやら、気付かれたようだ。
「えーと…、六ヶ月…です…。」
動揺して、余計なことを言ってしまったばっかりに…。
「計算、合わないよね?」
「お察しの通りです…。」
(お恥ずかしい限りで…。)
(でも今は、そんなに珍しいことじゃないでしょ?)
「奥さんとは、何処で知り合ったの?」
気が付くと、彼女は友達と話すかのように、話し掛けてくる。
「会社の先輩だったというか、俺の教育係だったというか…。」
素直に答える必要はないのだが、彼女の質問に、正直に答えてしまう。
「奥さんの方が、年上なんだね。」
「三歳ほど、年上です。」
「相変わらず、年上にモテるんだね…。」
俺は、どういうわけか、年上にはモテる。
今まで、付き合った女性は、全て年上。
片手で数えて余るぐらいしか、付き合ったことはないが…。
「あれ?今、『相変わらず』って、言いませんでした?」
(どういうことだ?俺のこと、知ってるのか?)
「言ってないよ…。」
(俺の聞き間違いか?)