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第二章 【四】

年が開け、高校受験が目前に迫って来る。







一月二日、瑞希さんと初詣に出掛ける。


彼女は、晴れ着姿ではなかったが、俺のクリスマスプレゼントは付けていた。


俺の願いは、勿論、合格祈願。


彼女の願いは…、聞いても教えてくれなかった。




二月のデートは、十四日。


その日は塾が有り、放課後、数分しか一緒にいられなかった。


「手作りチョコだから、感謝するように。」


いつもの調子で、そう言い残した彼女。


帰り際、頬っぺたに、チュッとされた。


出来れば、口が良かったのだが…。




中学三年の三学期は、本当に慌ただしく過ぎて行き、俺は、無事、東高に合格した。







卒業式を終え、春休みを迎えた初日。


その日は、小春日和のいい天気だった。


俺は、瑞希さんの家に呼ばれた。


『高校合格のお祝いをしてあげる』と、言っていたが…。




「あれ?家の人は、誰もいないんですか?」


一応、手土産を持って行ったが、彼女の家には、彼女しかいない。


ちょっと、ホッとしたが…。


「両親は共働きだから、夜まで誰も帰って来ないよ。」


事もなげに言う彼女。


付き合い始めて半年が過ぎていたが、始めて知ったことだった。


「そ、そうなん…ですか…。俺の家と一緒…ですね…。」


(オイオイ…、いいのかよ…。二人きりってことだろ?)




この日、彼女が作ったお昼ご飯を、一緒に食べた。


めちゃくちゃ嬉しかったし、美味しかった。


料理を用意する彼女の姿に、改めて、惚れ直した。


「こんなにお祝いしてもらって、良かったのかな?俺も、何かお返ししないといけないですね。」


「これも、お祝いの一部だけど、これだけじゃないよ。」


淡々とした口調の彼女。


「…?」


(彼女も緊張してるのか?)


(そりゃ、異性と二人きりで家にいれば、緊張もするよな。)


彼女は緊張していると、感情を表に出さないように、あえて淡々とした口調で話す。


必ずってわけじゃないけど、緊張の度合いが高い時ほど、その傾向が強い。


『あの時』も…、『あの時』も…、そうだった。


(俺も、段々、彼女のことが分かってきたぞ。)


(それより、他のお祝いって何だろう?)


(プレゼントでもくれるのか?)




「食事の片付けしちゃうから、先に私の部屋に行ってて。」


「えっ…、いいの?」


「別に大丈夫だよ。でも、あんまり部屋の中、漁らないでよ。」


「う、うん…。」


(ちょっと、おかしい…。いつものように、下ネタが混じってこない…。)


(いつもなら、『タンスの中の下着を漁らないでよ』ぐらい、言ってきそうなものなんだが…。)


(怒ってるわけじゃ、無さそうだけど…。)




瑞希さんに案内され、初めて女の子の部屋に入る。


中は、ごく普通の女の子の部屋だった。


ベットの横には、ぬいぐるみ。


本棚には、少女漫画と恋愛小説らしきもの。


机の横には、女性向けのファッション雑誌が積まれていた。


俺は、慣れない場所で、やることもなく、手持ちぶさたで、ボーッと部屋を眺めていた。




「お待たせ。」


しばらくすると、彼女が部屋に入って来る。


やっぱり、どこか様子が変だった。




「それで、手料理以外のお祝いって何ですか?」


「えーと…、それは…、その…、何て言うか…。…、…たし。」


「えっ、何?」


こんなに、歯切れが悪い彼女は初めてだ。


「だから…、…私…。」


「ん?」


「だから…、合格祝いに、私をあげるの!」


「言っている意味が…。」


「マサ君が私にしたいことを、してもいいって言ってるの!」


「…!キス…してもいいってことですか?」


「それだけでいいの?」


「あ、え、は、はいーっ?!!!!」


何が言いたいのか、ようやく分かった。


彼女が、何故、緊張してるのかも…。


(それにしても、ズレているにも程がある!)


「私…、マサ君を喜ばすにはどうしたらいいか、色々考えたんだけど…。これが一番、喜ぶんじゃないかと…。ちゃんと、覚悟は決めたつもりだったけど…、いざとなったら緊張するね…。」


「そ、そんな…、無理しなくても…。」


正直、俺はビビってしまった。


「無理はしてない!マサ君は、私のこと、好きなんでしょ?」


「それは、勿論…。」


「男の子は、好きな娘には、そういうこと…、したいんでしょ?」


「確かに、そうですけど…。」


(何回か、想像したこともあるけど…。)


「じゃあ、大丈夫。」


(だから、何が『大丈夫』なんだよ!)


「でも…、こういうことは、よく考えた方が…。」


「もーっ、私がいいって言ってるんだから、いいの!ごちゃごちゃ言ってると、決心が鈍るでしょ!」


そう言い放つと、彼女は俺に抱きついてきた。


そして、唇を重ねて来る。


クリスマスの時よりも、長くて深いキスだった。


俺は思考が停止し、理性が飛んでしまった…。







持てる知識を総動員した初めてのセックスは、上手く出来たかどうか…。


正直な話、よく覚えていない。


覚えていることと言えば、女の子の体は、想像以上に柔らかく、想像以上に温かかいということだけだった。




「すっっごい、痛かったけど、今は、すっっっごく、幸せだよ、私!」


「すいませんでした…。」


「何を謝ってるの?」


「何となく…。」


何故か、彼女に謝ってしまった。







その後、春休みの間、二人でいっぱい遊んだ。


行き損ねたままだった、遊園地にも行った。


映画を見たり、街をぶらついたりもした。


彼女を、俺の家に招き入れたりもした。


俺の部屋でイチャついていると、理性が飛んでしまい、彼女を押し倒そうともした。


この時は、彼女におもいっきりひっぱたかれ、我に返った…。


「『あの時』は、特別だったの!だから、当分の間は、そういうことはしない!」


「すいません…。」


やっても、やらなくても、結局、謝る羽目になった…。


(『当分の間』って、どれくらいだろう?)


盛りのついたオスは、救いようがない…。







こうして、俺は中学を卒業し、高校生になった。


彼女との付き合いは、順風満帆に見えていた。



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