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無華の花嫁〜蔵に囚われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される〜  作者: 木風
第一章:山茶花

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第二話 蔵に閉じ込められた娘③

その日も、日課のような用事をすべて済ませ、冷たい蔵へ戻った。

扉を閉めた瞬間、私は足を止める。殺風景なはずの空間に、決定的な違和感があった。


締め切った蔵特有の埃とカビの匂いに混じって、ほんのり白粉のように甘い香り。

さらに、その奥に——何か焦げたような、喉の奥がざらつく匂い。

甘さと焦げが絡み合い、嫌な予感が背中をなぞった。


次の瞬間。


ごぉっ!!


地鳴りのような低い爆発音。わずかな地面の揺れ。

私は反射的に外へ飛び出した。心臓が、肋骨を叩く。


母屋の方から、一本の細い禍々しい煙が、力強く空へ伸びている。

そして、もう一度。先ほどより重い音が響いた。


ごぉぉっ!!


恐る恐る煙の発生源へ向かい、物陰からそっと覗く。

そこにいたのは、誇らしげに胸を張る百合だった。

頬は上気し、瞳がきらきらと光っている。


燃え広がる朱色の炎が、百合の横顔を鮮やかに赤く染める。

視線を下に落とすと、そこには原型を留めないほどに焼け爛れた布の山が、火の粉を散らしていた。

ほどけた糸が、炎に舐められて縮れていく。

柄も色も、黒い影に飲み込まれていく。


それが、継母に奪われず、奇跡的に私の手もとに残せた——亡き母の、唯一の形見。

大切にしていた着物だと気付くのに、時間はかからなかった。

母の匂いはもう残っていない。それでも、あれは母だった。

私が『母』と呼べる、最後の形だった。


呆然と燃え盛る火と煙を見つめる私に気づき、百合が歓喜に満ちた、悪意のある笑みを浮かべる。


「あら、お姉さま。見まして?これがわたくしの『華の加護』の力なの。

ちょうどよく、燃やすのに最適な布があったから……試させてもらったのよ」


言葉の端に、わざとらしい上品さが絡む。

それが余計に残酷で、胸の奥がきしんだ。

声が出ない。息だけが白く漏れる。


私が十五歳、百合が十三歳。

これが、妹——朝霞百合の『赤薔薇』の『異能』が発現した瞬間だった。


『赤薔薇』の『異能』の中でも、稀有で強力な能力とされる発火。

母屋からは、それを心底喜ぶ父と継母の高らかな笑い声が響き渡った。

祝福の声。拍手。褒め言葉。

——私には一度も向けられなかったもの。


ちらちらと粉雪が舞い始めた寒空の下、私はもう涙を流すことすらできなかった。

鮮やかなはずの母の着物が、母の遺骨と同じように、灰になっていく。

ひらり、ひらり。黒い灰が舞うたび、私の中の何かが静かに削れていった。


そうして心だけを押し殺され、形だけ大人になった私は、今もこの家の隅の蔵で、存在しないものとして息を潜めて生きている。


——ぽた、ぽた。


裏庭の井戸。水桶から滴る水の音が、私を冷たい現在へ引き戻す。

あれから何年が過ぎても、冬の匂いを嗅ぐと胸がざわつき、息苦しくなる。

雪の気配を含んだ風が肌に触れるたび、あの日の絶望まで、鮮明に蘇ってくる。


今日も私は、裏庭の井戸の前で膝を抱えてしゃがみ込んでいた。

妹・百合の華やかな着物と長襦袢と、継母の立派な帯を抱えて。

——燃やされたのは母の形見だけなのに、私は今も、炎の残り香の中で洗い続けている。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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