第二話 蔵に閉じ込められた娘②
そして私が成長するにつれ、その分の雑務が当然のように私へ押し付けられ始めた。
屋敷の掃除、洗濯、炊事の下働き。壊れた箒の穂先、擦り切れた雑巾、冷たい水。
働いても働いても、私は『役に立つ』ためではなく『罰を避ける』ために動いていた。
日が昇るより遥か早く起き、誰にも見つからないように屋敷中を隅々まで掃く。
廊下の軋み一つが怖くて、足裏の感覚だけで板目を探り、息も殺す。
そうしないと、継母と顔を合わせた瞬間に、激しく、そして長い叱責が飛んでくるから。
叱責の間、私は動くことも、口を挟むことも許されない。
ただ頭を垂れて立ち尽くし、言葉の刃が通り過ぎるのを待つ。
そのせいで掃除が遅れれば、今度は容赦なく物が飛んで来て、私の身体を打った。
湯呑み、帯締め、簪——何でもいいのだ。私を痛ませられれば。
昼間は蔵の中で、息を殺すように過ごす。
あの人が残してくれた手習いの本は、もう何度も読み返しすぎて頁が抜けかけている。
それでも捨てられない。
文字を忘れないように、私はただ、ひたすらに眺めていた。
『いろは』より先に覚えたのは、『ごめんなさい』と『黙れ』だったけれど——
それでも、文字を追う時間だけは私のものだった。
日が沈む頃、私は自分が入れない、継母と百合のための熱い風呂を沸かす。
薪が爆ぜる音、湯気の匂い、温まっていく湯の揺れ。
それらはすべて、私のためではない。
私以外の全員が湯に入り終え、屋敷の明かりがほとんど消える頃になって、やっと私は小さく丸まり、薄い布団に包まって眠りにつく。
冷えた身体を抱え込むようにして。
眠っている間だけが、叱責の声から逃げられる。
この絶望的な暮らしの中で、何より私の心を抉ったのは、二歳下の妹——百合の存在だった。
私には一生通わせてもらえない学校に、百合が通い始めたあたりから。
百合は、継母が私に向ける刺すような言葉を、無邪気に、笑いながら真似するようになった。
「お姉さまは、この家にいらない人間なのよね」
「ねえ、なんで生きてるの?」
「だって、価値のない『無華』なのに」
「本当に気味の悪い眼」
それは新しい玩具を手に入れた子供の遊びみたいに、百合にとって飽きることのない楽しみになっていった。
最初はただの真似だった言葉が、いつしか私を傷つけるための刃に変わる。
——私が痛がれば痛がるほど、百合は面白がる。そういう顔を覚えてしまったのだ。
もし私が、その心ない言葉に耐えかねて涙をこぼそうものなら、百合は手を叩いて笑い、継母は「百合を悪者にする気か!」と容赦なく打擲を飛ばした。
泣いても殴られ、泣かなくても殴られる。
ならば、泣かないほうがましだ。
そうやって私は、感情の使い方を捨てていった。
感情を殺し、黙って耐える。
それが、この地獄の家で生きるための唯一の術だと悟るのに、時間はかからなかった。
気がつけば、この仄暗い蔵が、息苦しい屋敷の中で私にとって唯一『落ち着ける』空間になっていた。
皮肉だ。閉じ込められるための場所が、私を守る場所になるなんて。
もう何年も、私はこの四畳半で、誰にも見つからないように生きてきたのだから——当然なのかもしれない。
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