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【書籍化】無華の花嫁〜蔵に囚われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される〜  作者: 木風
終章:春の名残

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第二十四話 あなたと春を②

話は少しずつ、五条様がいかに私を気にかけ、想い、そして私のために水面下で動いてくださったのか、という内容に変わっていく。


「本当は……最初は、気が進まなかったんです。お嬢様の今の状況も、分かりませんでしたし」


彼女は正直に言ってから、すぐに眉を下げた。


「でも、何度も足を運んでくださって。お嬢様のご様子を心配そうにお話になられた時……殿下、とてもお優しい表情をされていたんです」


私なんかのために、五条様がそんな手間も、貴重なお時間も。

聞けば聞くほど、申しわけなさと、胸の奥がじんわり熱くなる気持ちが、一緒に湧き上がってくる。

今さら、どんな言葉を返せばいいのか。

考えれば考えるほど、感謝の言葉は喉に張り付いて、出てこなくなってしまう。


「今日も、殿下の方から『是非、会ってほしい』と、お声がけしてくださったんですよ」

「……そう、なんですね。とても驚いてしまって。上手く言葉が出なくて……ごめんなさい」

「謝らないでください、お嬢様」


彼女は小さく笑い、湯呑みの湯気越しに、まっすぐ私を見た。


「そのお言葉だけで、十分です。……こうして、またお嬢様の声が聞けたんですから」


本当に嬉しいのに。

この気持ちを、どう伝えたらいいのか。

一緒に庭先に座り込み、文字を習ったあの時は、もっと普通に話せていた気もするのに。


コンコンコン


「失礼する」


控えめなノックのあと、五条様が扉を押して入ってこられた。

その足取りはいつも通り静かなのに、部屋の空気がふっと整うのがわかる。


五条様の視線が、テーブルの上——

手つかずの茶と菓子へ落ちた瞬間、やわらかな眉がわずかに寄った。


「……また、何も手をつけていないのか」


責めるより先に、手が動く。

新しい急須を取ると、湯呑みに淹れ直して、私の手もとへ置いてくださった。

湯気と一緒に立つ緑茶の香りが、胸の奥のざわめきを静かに撫でていく。


また……五条様にお茶を淹れさせてしまった。

申しわけないのに、湯呑みを包む指先には、確かなぬくもりが残って、どうしても拒めない。


「熱い。両手で持て」

「……はい」


言われるまま両手で包むと、ようやく息が落ち着いた気がした。


「この菓子も、食べておけ」

「!あ、あの……ひ、一人で食べ、食べられますので……」


慌てて身を引こうとしたのに、五条様は取り合わない。

二人きりの時と同じ、遠慮のない手つきで、菓子を私の口もとへ運ぶ。


「……ほら」

「……っ」


小さく口を開けるしかなくて、甘い香りが舌にふわりと広がった。

噛むたび、胸の緊張が少しずつほどけていく。

けれど、視線の先には、まだ部屋にいる懐かしい人の視線があって、頬がかっと熱くなる。


「そろそろお暇しますね。五条殿下、本日は貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました」


もう、そんな時間……。

言葉がうまく出ないせいで、私の方は、何も返せていない。

聞きたいことも、伝えたいことも、ありがとうも、喉の奥で渋滞したまま。


「また時間ができたら会いに来てやってくれ。すみれが喜ぶ」

「私からも、ぜひ。ご迷惑でなければ」

「……いいんですか!?」


顔を上げると、彼女の目尻が優しくほどけた。

十年以上、夢の中でしか会えなかった人に——また会える日が、現実になる。


玄関で車を見送り、門の外へ尾灯が消えるまで見届ける。

隣に立つ五条様を見上げると、横顔はいつも通り凛としているのに、どこか私の呼吸の浅さまで数えているみたいだった。


私ばかりが、与えてもらってばかりだ。

何か一つでも、五条様のために返せるものがあればいいのに。


五条様に触れられるのは、私だけ。

それだけの理由で、いつまでもお傍にいていいはずがない。

——いつか、何もできない『無華』の私に、呆れられて、手を離される日が来るかもしれない。


その想像だけで、胸の奥がひやりと冷える。

けれど同時に、さっき口もとに運ばれた菓子の甘さが、まだ舌の上に残っていて——

それが、余計に怖かった。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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