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【書籍化】無華の花嫁〜蔵に囚われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される〜  作者: 木風
第六章:藤

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第二十一話 報いの時①

園遊会の後、倒れてしまったせいか、私が想像していたように五条様に慰み者として求められることはなく。

できる限り食事の席には同席してくださるのに、私が出されたものを食べ終えると「戻る」とだけ告げて部屋を出て行かれる。

以前はあった、確かめるように頬や髪に触れられる仕草も、もうない。

雪の庭を手を引かれて歩いた穏やかな時間が、遠い幻のようだった。


——呆れられたのだ。

この五ヶ月、私はご迷惑をおかけすることしかできなかった。満足にお相手をすることすらできないまま。

なら、いつ放り出されてもいいように、心の準備だけはしておくべきだ。


朝霞の家には蔵の中にすら居場所はないだろう。

どこか地方で住み込みで働ける場所が見つかれば……。

けれど『無華』を雇う者など、あるのだろうか。


これ以上、五条様にご迷惑をおかけしないように……

せめて、引き際だけは見誤らないように。

見苦しい真似をしないようにしなくては。どうか、静かに。

せめて暖かいうちに、自分から出て行くと伝えよう。

五条様が屋敷でお休みの日——今日こそ。


「よく食べられたな。そろそろ部屋に戻る」


昼食後。案の定、五条様は一切の余韻なく、すぐにお部屋に戻ろうとされる。

ここにいる用事もないのだから当然かもしれない。

やはり私と距離を置こうとされているのだと、確信する。


「五条様、少しだけお時間を頂いてもよいでしょうか」

「どうした?」


震える手を膝の上で固く握りしめたまま、目を閉じて息を整える。

五条様は立ち上がるのを止め、静かに私を見つめるその瞳の奥には、何の感情も見えない。


眼を瞑り、ゆっくりと長く息を吐く。

大丈夫。お伝えできる。

五条様はお優しいから、きっと私を突き放すような言葉を言えないのだ……

だからこそ、きちんと自分の口から、お伝えしなければ。


「五条様のおかげで体調も良くなりました。

つきましては、そろそろお屋敷から出て行こうかと思います」

「出て行く?」


五条様の声が、氷のように冷たくなった気がした。


「今までお借りしたお金は……少しずつになりますが、一生かけてもお返しします」


初めて、五条様に自分の本心と希望を伝えることができた。

これで、きっと五条様は安堵してくださる。


「だめだ。屋敷を出て行くことは許さない」

「……え?」


拒まれる理由が分からず、言葉が途切れた。

その時、扉がノックされる。


「殿下。朝霞伯爵と名乗る者が、ご令嬢を連れ戻しにお見えになっています」


父——。

考えるより先に、玄関へ走っていた。

罵倒されるのも恐ろしい。

けれど何より、やっとこの屋敷を出ていくと伝えられたのに。

これ以上、五条様にご迷惑をおかけするのが怖い。


こんなに必死に走ったのは初めてのことで、玄関まで走るだけで、肺が張り裂けそうに息が切れる。


そこには父と継母と百合がいた。

あぁ、もうダメだ。

やはり私は、五条様のお隣にいてはいけない存在なのだと、絶望が胸を満たす。


「良かった!会えて!さぁ、家に帰ろう!お前が戻れば五条家との関係も円満になり、すべて丸く収まる!」

「百合の縁談も進むわ」

「望むなら、蔵ではなく部屋も用意しよう。だから戻るんだ」


私に……部屋が?

甘い言葉の裏に、いつもの闇が透けて見える。


背後から追いついた五条様の声が聞こえ、振り向く。


「すみれ、戻るんだ」

「五条殿下!これ以上、娘がご迷惑をおかけすることはできません!」

「そうですわ。もっと器量のよい百合もおりますし!」


父と継母の言葉は、痛いほど正しい。

何の『華』も持たない私では、五条様の助けになるどころか、邪魔でしかない。


五条様は一歩も引かず、私の瞳を射抜く。


「すみれ!わかっているのか!?お前が朝霞家に戻るということがどういうことか!今、この瞬間ですら、お前の名を一度も呼ばない者のもとに戻るということだ!」


——家に戻れば、また蔵に入れられるだろう。

二度と誰にも名前を呼ばれることがなくても。

私は、五条様にご迷惑をおかけすることが、何よりも恐ろしい。

このお優しい方の未来を曇らせることが怖い。


「望め!すみれ!!お前が、ここに、俺の側にいたいと!!」


望む……?

手を伸ばしたい。もう一度、温もりに触れたい。

けれど、いつか五条様には私より相応しい、美しい『華』を持つ方が現れる。

その時、望んだぶんだけ壊れる日がくるのが怖い。

この日々があまりにも幸せで、私が明るい場所を望むなんて、許されない気さえした。

なら、最初から望まない方がいい——そう思ってしまう。


きつく目を瞑り、五条様と目を合わせないまま、ゆっくりと背を向けた。

後ろ髪を千切られる、とはきっとこのことだ。


涙が止まらない。

幼い頃、泣くたびに殴られて、いつしか泣くことを忘れていたのに。

この方を想うだけで、二度と会えないと思うだけで、涙が止まらない。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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