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【書籍化】無華の花嫁〜蔵に囚われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される〜  作者: 木風
第四章:若葉

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第十六話 お買い物を終えて①

こんな白を、私は知らない。

蔵で見る白は、埃をかぶってくすんでいた。

けれどこれは、白いのに、光っている。


「食べるといい」

「こ、これを……私が、ですか……?」


驚きから、訊き返してしまった。

こんなに整った皿を崩すのが怖い。

一人で食べるなど考えたこともない。

家では、取り分ける以前に、私の前に皿が置かれない。

崩していいと、誰にも教わってこなかった。


「足りないか?」

「た、足りないどころか……!」


慌てて首を振る。頬が熱い。

足りないなんて言葉、使ったこともないのに。


改めて、まじまじと目の前に置かれたものを見てしまう。

な、なにこれ……?

白いクリームに、ふわふわの白い生地。

その上に赤い苺がちょこんと乗っている。

食べ物なのに、飾り物みたいだ。

これが、しょーと……けーき。


「崩していい。形より、感想を聞かせろ」

「……かん、そう……」


さっきの飲み物も、この食べ物も……いったいいくらするんだろう。

そんな悲しい計算が頭の隅で勝手に始まるけれど、値段なんて想像もできない。

もったいないと、怖いが同じ形で喉に詰まるのが、嫌になる。


恐る恐るフォークを入れると、ふわりと沈み、クリームが柔らかく形を変えた。


――壊してしまった。


罪悪感が胸に走って、でも。

フォークの先に乗った白と赤が、宝石みたいに揺れて、逃げ場を塞ぐ。


覚悟を決めて口に運ぶ。


「……っ」


甘い。

けれど、ただ甘いだけじゃない。

ふわりと消える食感と、冷たいクリーム。

苺の酸味が、紅茶の香りと一緒に鼻へ抜けていく。


胸の奥が、ふっと軽くなる。


「どうだ」

「……美味しいです」


自分でも驚くほど、素直な声が出た。

もっと気の利いた言葉を探していたはずなのに、出てきたのはそれだけ。

そう思うのに、言葉を探しているうちに頬が熱くなってくる。


でも、五条様は笑わない。

冷たくもない。

ただ、確かめるように見つめて――小さく頷いた。


こんな宝石箱のような食べ物があるなんて。


「……美味しい」


どんなに考えても、やっぱりこんな簡単な言葉しか出てこない。

つぶやいた言葉は、誰に聞かせるつもりもなかったのに、目を開けると、五条様がこちらを見ていた。


笑ってはいない。けれど、冷たくもない。真剣に、確かめるみたいに。


「次に来たとき、また頼もう」

「……え?」

「嫌か?」


『次』。

胸が、どくん、と大きく鳴った。そこだけ時間が遅くなる。

本当にそんな日がくるんだろうか。

そんな日を、私なんかが望んでいいのだろうか……。


眼を見開き、首を振る。

振り方が必死で、きっと子供みたいだった。


「……嫌では、ないです」


声が震えた。言い切っただけで、胸の奥が痛いほど熱くなる。

五条様は、ふっと息を吐いてカップを持ち上げる。

その仕草が、許された合図みたいで、またフォークを握り直し、ケーキを掬う。


もう一口、紅茶を飲む。

さっきより香りが分かる。

渋さの奥に、ほのかな甘さがあることも。


「……レモンも、入れてみてもいいですか」

「好きにしろ」


好きに。

その言葉が、怖いほど優しい。


輪切りのレモンをそっと浮かべる。

香りがぱっと変わり、琥珀色が少しだけ明るくなる。


甘いケーキと、香る紅茶。

それだけなのに――ここはもう蔵じゃない、と泡のように胸の中で弾けた。


なのに同時に、遠くないいつか手放す日が来る影も、テーブルの端に落ちる気がして。

溶けていくクリームの白を見つめながら思った。


溶けてしまう前に。

もう少しだけ――この甘さと香りを、覚えていたい。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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