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【書籍化】無華の花嫁〜蔵に囚われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される〜  作者: 木風
第三章:白梅

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第十三話 振袖の使い道②

「すみれ嬢、よく笑うようになって可愛くなりましたよね」

「あ゛?」

「すいません、嘘です」


榊原の唐突で不用意な言葉に、資料を持つ手に力が入る。

ふざけているのか、探っているのか。——どちらにしても、余計だ。


だが、否定しきれない事実もある。

近頃のすみれは、以前よりよく微笑むようになった。

散歩に連れ出せば、息を飲むように庭の花を見つめ、わずかに頬を緩める。

最初は空を見上げることすら怯えていたのに、今は風の匂いを確かめるように、鼻先を上げることもある。


相変わらず食は細く、湯冷ましの杯一つでも疲れる日がある。

それでも、連れ帰った時の青白さは影を潜め、肌に血色が戻り、髪も艶を取り戻してきた。


そして——すみれの『異能』耐性を確認する、という建前は、もう言いわけに近い。

触れたくなる。確かめたくなる。

こちらの『黒薔薇』が、彼女の中で何一つ棘を立てないことを。

最初は週に一度に抑えるつもりだった。

だが今では、気づけば一日でも空けられない。

衝動が理性を削っていく感覚がある。


それにしても、触れるたびに一瞬身をすくめる仕草はどうにかならないものか。

すみれに悪意がないことはわかっている。

長年の虐待が作った反射だ。

殴られると思って目を閉じる。叱責が来る前に謝る。逃げるために呼吸を浅くする。

そのたび、胸の奥に鈍い怒りが沈殿する。

——朝霞家の連中は、どれほど人を壊せば気が済む。


同時に、恐怖に打ち勝って少しずつ慣れていく過程を、もっと見たいと思う自分がいる。

怯えが薄れ、指先の震えが止まり、こちらを見上げる時間が少しだけ伸びる。

その変化が嬉しい。だが、その嬉しさに自分が煽られているのも否定できない。

危うい。感情が先行すれば、彼女を守るどころか追い詰める。


……園遊会は、さすがに時期尚早だっただろうか。

告げた時の、戸惑うような怯えた表情を思い出すと、胸が微かに痛む。

だが、仕方があるまい。あの場に連れて行けば、各家との煩わしい腹の探り合いも、曖昧な縁談の駆け引きも、強引に終わらせられる。


誰が何と言おうと、『黒薔薇』の『王華』を受け入れられるのは、おそらくすみれだけだ。

その事実が揺らがない限り、俺の決定に異を唱える者など、立たせない。


すみれの『無華』が持つ特異性は、この国の『華』による序列そのものを覆し得る。

だからこそ、世間に知られる前に——彼女が俺のものだと周知させねばならない。

こんな回りくどい手順から始めなければ、こちらが本気で動くことすら許されないのが、この国の腐った秩序だ。


ただ、心配なのは朝霞家の出方だ。


元旦の謁見以降、朝霞家は『我が家の百合が婚約者候補筆頭』と触れ回っている。

ある意味、間違いではない。俺が表面上、園遊会で再会の機会を与えたのだから。

だが、その図々しさには苛立ちが募る。

すみれの『黒薔薇』への耐性を知られれば厄介極まりない。

娘の『所有権』を盾に、言い値を吹っかけ、条件を突きつけ、挙げ句にはすみれ本人に圧をかけるだろう。言い出すことは、だいたい予想がつく。


それでも——俺が本当に恐れているのは、交渉そのものではない。

そのせいで、すみれが余計な心労を背負い、また『ごめんなさい』を増やしてしまうことだ。

彼女が自分を罰しようとする癖だけは、どうしても許せない。


「明日は予定通り、すみれ嬢をお連れするんですか?」

「あぁ。仕立てさせた訪問着が届いた。それを着せて連れて行く」

「運転は——」

「俺がする。お前は屋敷で留守番だ」


何か言いたげな榊原を、視線だけで黙らせる。

明日の予定を、もう一度頭の中でなぞった。

——彼女が怯えずに外の空気を吸えるように。

少しでも、外の世界を楽しんでもらえるとよいのだが。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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― 新着の感想 ―
寝る時間を削って今日全部見ようかと本気で迷いました。 おそらく明日にはきっと全部読んでしまうでしょう。 とにかくみててすごくほっこりして二人の行く末を見たいと思いました。
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