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無華の花嫁〜蔵に囚われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される〜  作者: 木風
第三章:白梅

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第十話 療養を経て①

挿絵(By みてみん)

「失礼いたします、朝霞すみれ様」

「お、お医者様……?」

「ええ、そうでございます。今日は、あなたのお身体がどこまで回復しているか、少し見せていただいてもよろしいですか」


白髪混じりの髷をきちんと結い上げた医師と、ベッドに座ったまま面と向かう。

柔らかな声音に、私は小さく頷いて、問われるままに答える。


手首に指先が添えられ、時間をかけて脈を計られる。

胸に当てられた聴診器は冷たく、金属のひやりとした感触に、肩が竦む。

瞼を軽く押し上げられ、瞳の動きを確かめられ、舌を出して色も見られる。

どれも、あの蔵で一度だって受けたことのない、なんてことのない当たり前の診察なはずなのに、触れられるたび、身体が勝手に硬くなる。


「少し深く、息を吸ってみてください」

「……は、はい」

「ええ、そのまま。——はい、結構」


お医者様は一つ一つの所作のたびに、必ず短い、優しい言葉を添えられる。

触れられるたびに、反射的に強張ってしまう私への、細やかな配慮かもしれない。


——だいぶ体調も良くなってきたと思っていたのに、またお医者様を呼ばれてしまうなんて。

これ以上のご迷惑をかけるのが、怖い。

慰み者にするにしても、壊れてしまっては困る。

そんな悲しい打算があってのことだと考えてしまう自分が、嫌だ。


「夜はよく眠れていますか」

「……はい」

「ここに来てから、誰かに叱られたり、痛いことをされたりは」

「……いいえ。皆さん、とても、優しくしてくださいます」


殴られることも、蹴られることもない。

物を投げつけられることもない。

私をそこにいないものとして扱う人もいない。

こんな世界が、あの蔵の外にあったなんて、知らなかった。


——でも、だからといって、私が大事にされているわけでは、ない。


きっと今だけに違いない。

五条様が気が済むまで遊ばれたら、私はどこかに捨てられる。

そう思っていないと、怖くて、ここに居られない。


お医者様はちらりとこちらを見たあと、ゆっくりと診察を終えた。

寝巻きの襟もとを整えながら、終わったことにほっとするように小さく息を吐く。


「さて……診立てを申し上げましょう」


ちょうどそのタイミングで、五条様が部屋に戻ってくる。

お医者様は膝の上で指を組み、静かに口を開いた。


「まず、お身体の方ですが。当初に比べれば、顔色もずいぶん良うなられました。

脈も弱くはありますが乱れてはおりませんし、内臓に明らかな異常は見受けられません。

栄養失調からの回復は順調でしょう」

「……そうか」


自分の手を改めて見つめた。

骨ばかりで、皮膚が張り付いていた、あの頃の手。

それを思い返すと、確かに今は、わずかに丸みが戻って来ている気がする。

順調という言葉が、これ以上の負担をかけずに済むのだと告げてくれて、胸の奥が少しだけ軽くなる。


「すみれを、外に出しても構わないか」


外——?

五条様から唐突に出た言葉に、驚き、見上げてしまう。


やっぱり……。

病が癒え、用が済んだら売られるのだろう。

それとも見世物みたいに、どこかへ連れ回されるのかもしれない。


『無華』の女など、珍しい玩具のようなものだ。

珍妙なものを好む人は、どこにでもいる。

あの蔵の中と、この先行く外と、どちらがましなのか——私には、わからない。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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