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ミリオンヒーローオンライン  作者: 京々


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8/8

勇者もどき・ツー


「ていうか、あいつ勇者じゃなかったんだな……」


 話がひと段落した後。


 アンディがポツリとそう呟いた。本当にショックだったのだろう。もう興味なんてなくしてしまえばいいものを、勇者くんの話ばかり混ぜっ返している。


「らしいね」

「でも聖剣と聖なる攻撃ができたのに……英雄譚も嘘なのかな……」

「それについては心当たりがあるよ」

「というと?」


 のろのろと顔を上げるアンディ。


 仕方ないな。名探偵キングダムちゃんがなんちゃって推理を披露してあげよう。少しでも気がまぎれるといいんだけど。


 僕はわざとらしく咳払いをして、人差し指を振ってみせた。


「どうもあの技、聞き覚えがあったんだ。あの、うんたらかんたらソード」

輝く神の剣シャイニングゴッドソードな」

「そうそれ。ちょっと考えてみたんだけど、確かゲーム連携小説の主人公の技だったと思う」

「ゲーム連携小説?」

「小説家って職業があるのは知ってる?」


 ゲーム連携小説とは、つまるところミリオンヒーローオンライン内で執筆された小説である。


 ミリオンヒーローオンラインにはとんでもない数の職業があった。当然クリエイター系の職業もある。ファンタジー世界のメジャーどころなら吟遊詩人とか、道化師とか。

 ただ、歌や芸なら戦闘システムにも組み込めるけれど、そうもいかない職業もある。


 そういう職業のひとつが小説家だ。


「あの、戦えないやつだよな? 小説家が冒険者やるなんて無理だよ」

「あー、そういう認識なんだ? 神代では違ってね。小説家も立派に戦えるんだよ。まあ色々と制約が多くて難しい職業でもあるんだが」

「「は?」」


 アンディとロロが素っ頓狂な声を上げた。


 ていうか、ロロも聞いていたんだね。

 逆に、マーチは興味がなさそうだ。ホント歪みないな、マーチ。


 小説家もなかなかマニアの多い職業だ。

 端的にその特徴を説明するなら、自分の考える最強にカッコいい技を実現して戦う。要するに、小説を書いて、その中に登場させたスキルやシチュエーションを限定的に実現することができるのだ。


 たとえば、小説内で「炎をまとう剣を使って戦う」というシーンを描写したとする。それを小説家の力を使うことで、「剣に炎をまとわせるスキル」としてゲーム内で実際に使うことができるのだ!


 当然、効果には様々な制限がある。そう自由なものでもない。

 けれどオリジナルスキルだ。オリジナルの名前で、オリジナルの見た目の技を放つことができるのだ。特に見た目はかなり細かく弄ることができたはず。


 そのカッコ良さたるや! 人形遣いとわりと同じ穴のムジナな職業だと思う。


 アンディがそれを聞いて首を傾げた。


「つまり、その小説家の職業の力でケビンは英雄譚の勇者の力が使えるってことか?」

「そうだね、僕はそう睨んでいる」


 やたらと英雄譚について語っていたというのも、自分で書いた小説の話だったのだろう。


 そこでアンディがハッと目を見開いた。


「……自分で書いた小説?」

「お、良いところに目をつけるね」


 そう、ここまでの話では一つ矛盾がある。


 小説家がスキルとして再現できるのは、自分が執筆した小説内に存在するもののみだ。他の人が書いたものを対象にすることはできない。


 しかし、その勇者くんが再現しているスキルは、『僕が神代の頃に読んだ記憶のある小説』であり、『先祖ののこした英雄譚』の中に登場するものだろう。


 僕はにっこりと意地悪く笑った。


「有名な小説だったんだよね〜。普通に面白いからゲーム内の連携小説でありながらリアルで書籍化までいったし、なによりその作者がランカーだったんだよ」

「ランカー?」

「職業が小説家でありながら超強かったの」

「な! え、ダムよりも……!?」

「そうだよ」


 ランカーというのは、ミリオンヒーローオンラインで定期的に開催されるイベントのトッププレイヤーランキングの、上位プレイヤーのことだ。

 イベントによって顔ぶれは変わるけれど、やはり強いプレイヤーは安定して上位に食い込んでくる。


 一応僕も前回のイベントでランキング入りしたはずだ。100位中98位だけど。

 仕方ないんだよ、戦闘職と比べたら人形遣いはどうしても戦力的に勝てないんだ。レイド戦みたいに数が重要なイベントならかなり上位に食い込めるけど、そうじゃないならこんなもん。むしろ快挙と言って良い。


 向かい合ってよーいどんって戦うPvPだと特に人形遣いは脆い。というよりも戦闘職が強すぎる。この世界はすごく強い一人がたくさんの雑魚兵隊を蹴散らせる世界なのだ。


 そんな中にあって、その小説家プレイヤーは戦闘職に負けない強さを誇った。|PvP《プレイヤー同士の直接対戦》で戦闘職プレイヤーを一撃死させたこともあるらしい。直近のランキングも39位となかなかだったと思う。


 アンディは「小説家、すごい……!」と目をキラキラさせている。強いものに目がないなんて、年頃の男の子だね。


「そうすると、ケビンの技は?」

「パクリだね」


 さらっと結論を言う。それしか考えられない。


 ……まあ、勇者くんが元プレイヤーとかだったらまるっと話が変わってくるけれど、チラッと会話を聞いた感じとか、ロロの話から察するにそうでもなさそうだし、多分僕の推理はあっていると思う。多分ね!


 それに、その小説家のランカーは神経質でこだわりが強くて、あまり人と交流しないタイプだったはず。数少ない交流エピソードだって、小説にこだわりすぎて、『技名がダサい』というコメントに対してレスバした挙句に|PvP《プレイヤー同士の直接対戦》までいったらしいというエピソードくらいしかなかった。なお、戦闘職プレイヤーを一撃死させたというのがこれだ。

 多分あの勇者くんとは根本的に性格が違う。


「まあアーカイブにアクセスすれば真偽がはっきりする話さ」

「アーカイブ?」


 その名の通り、クリエイター系の職業のプレイヤーの作品がアーカイブされている媒体だ。小説以外にもイラスト、曲、魔法陣なんてものも収録される。

 ギルドなんかの公共施設に行けばアクセスできるし、閲覧用のアイテムでアクセスすることもできる。クリエイター系の職業のプレイヤーならデフォルトでアクセスできるはずだし。


 僕はインベントリから大きな本の形のアイテムを取り出した。


「アクセス、サーチ、『輝く神の剣シャイニングゴッドソード』……ほら出た」


 アイテムの検索機能を使いながら適当に本を開くと、白かったページには文字が浮かび上がる。


 検索結果は二件。片方は僕も知る有名小説だ。もう片方が勇者くんの小説だろう。作者名もケビンだし。


 サッと目を通した感じだと、まあ露骨に似ている。あらすじとか、導入とか。


「今は中身まで精査する時間はないけれど、ちゃんと確かめてパクリだということが判明すれば、できることがあるよ」

「何ができるんだ?」


 パクリ小説は、妥当な理由の通報数が重なった上で審査が通れば削除されるはずだ。

 ベースとなる作品がなくなれば、当然作ったスキルも一緒に消える。


 要するに、勇者くんの技を使えないようにできる可能性があるのだ。


「そんなことまでできるのか」

「うまくいけばね? たった一人の通報じゃダメだったはずだから、何人か集めてそれぞれから通報したいけど」


 僕はアイテムからアクセスして通報ができるからいいとして、問題は人数を集められるかどうかかな。

 ゲームの時と同じように、現地の人たちがギルドからアーカイブにアクセスできるのかという疑問もある。プレイヤー限定だったらどうしよう。


 まあやってみるしかないんだけど。


 話を聞いていたロロが口を開く。


「確かに、勇者ケビンのあの技はかなり問題視されていたんだ。あれを振り回されて抵抗されると多少厄介だ。無力化できるならそうしたい」

「決まりだね」


 これからやることをまとめると、以下の通りだ。


 一つ目、地上に戻ってギルドに報告する。勇者くんについて報告してギルドに対処してもらうと同時に、アンディの荷物や資格を取り戻す。


 二つ目、アーカイブにアクセスして該当のパクリ小説を複数人で通報する。該当小説が削除されるところまでできると良い。


 三つ目、ロロとマーチにこのコリネウスの迷宮を案内してあげる。ついでにアンディとダリアのレベリングもやっちゃおう。


 こんなところかな。


「そうと決まったら地上に戻るぞ!」


 アンディがそう力強く言って、立ち上がった。




 ◆◆◆




 というわけで、僕たちはざくざくと歩いてコリネウスの迷宮を登っていった。といっても僕は変わらずアンディに抱えてもらっての移動だけどね。


 道中に特筆することはない。僕のバロンがいるだけで過剰戦力なのに、ロロとマーチがいたらモンスターは敵じゃない。


 というか、ロロが率先して前に出てくれた上に、マーチの尻を叩いて働かせてくれたので、僕たちはほぼ何もせずに連れて行ってもらえた。ありがたいことだ。


「ここが冒険者ギルドの支部だ」


 連れて行ってもらった冒険者ギルド支部は、ほぼ僕の知るゲーム内での建物と変わらないように見えた。


 大きな建物だ。ゲームではどのエリアにも必ず同じ建物がある。


 時間はちょうど午後の日が高いあたり。ゲームではどの時間でも人がいたけれど、今は記憶ほど人がいない。プレイヤーがいなくなってしまったからなのか、たまたまそういう時間帯なのか。


 アンディたちは気にせず中へと入り、受付に向かった。


「こんにちは、リンデさん」

「アンドレアさん! 新しいお人形さんですか?」


 受付のまだ新人っぽい女の子が、アンディに抱えられた僕を見て目を輝かせる。


「すごく可愛い!」


 ほっぺを赤くして、純粋に可愛いものを見て「もっと見たい」と思ってくれていそうな、素直な表情だった。


 思わず面食らった。意外と、こういう反応は珍しい。


 ゲーム内だと最早見慣れられていたし、アンディやロロはビジネス的な関係だからこんな反応はもらわなかった。もちろんロロは可愛いって言ってくれたけれど。


 だから僕は、思わず照れてしまう。


「ぼ、僕が可愛いのなんてそんなの当然だけど……」


 なんて言ったってお菓子のようにふわふわな美幼女である。キャラメイクは本当に頑張った。性癖という性癖を詰め込んだ。

 到底玉座なんか相応しくないような、お菓子の国で可愛がられているだけの無垢な女の子のような見た目になるよう試行錯誤を重ねた。


 最初のキャラメイクではふわっと可愛い幼女がいいと思って時間をかけたが、その後、ゲーム内でアバターを弄れるアイテムが追加されてからが本当の沼だった!

 雪のような銀髪に白ワンピも儚げ可愛い! 黒髪黒目も王道で外せない! 赤毛も可愛いし緑髪も良すぎる! などと七変化した結果のド王道・ビスクドール金髪幼女ですよ。


 なお、これは僕に限らない。ミリオンヒーローオンラインでは種族だけですら約300種類も存在する。王道のヒューマン系、エルフドワーフ系、獣人系、ちょっと変わり種の吸血鬼系、ガチ異形系、なんでもござれ。


 僕なんてアバターの見た目だけなら業は浅い方ですよ。ケモナー界や異形界は日夜熱い議論が繰り広げられ、それが冷めることはなかった。


 というわけで、僕が可愛いのは当然のことだ! 可愛いと感じないやつはおそらく僕と決定的に趣味が違う。平和的に距離を取ろう。


 だが、当然のこととはいえ、面と向かって可愛いと言われると悪い気はしない。


 僕ははにかんでお礼を言った。


「あ、ありがとう……」

「ま、待ってほしい!」


 受付嬢ちゃんはまず僕が喋ったことにビックリしていた様子だったが、それを声に出す前に声を上げたのがアンディだ。


 大きな声に、その場にいたみんながアンディに注目した。


「なにかなアンディ」

「今まで言っていなかったけれど、ダムのことを一番可愛いと思っているのは俺だと思う!! 世界一可愛い!!」


 ん? なんか話の流れ変わった?


「俺は可愛い女の子の人形が好きだ!!」

「言ってたね」


 まぎれもなく、コリネウスの迷宮内で言われたね。「そんな自分はキモいのか」と青い相談までされたからね。それが?


 アンディはなおも夢中で語る。


「ダムの見た目は好みのドンピシャなんだ、世界一可愛い!」

「ダリアは?」

「ダリアも可愛い! 実家の人形職人に依頼して細かい注文書に文句を言われながらも完璧に仕上げてもらった特注の人形だ! 完璧に俺好み! 世界一可愛い!」

「お、矛盾したね?」

「ダリアだけじゃない、バイモもペンタスも完璧に俺好みだ! これ以上の可愛さは他にない! 世界一可愛い!!」

「矛盾したまま進むね」

「でも、でもだな、ダリアたちは戦うことを想定して作ってもらったんだ……! そのためには機能を積むための体の大きさが一定以上必要だったし、当然鎧もつけなくちゃいけない。いや鎧姿も可愛いとも! 妥協なしで鎧までデザインしたんだ、勇ましく戦う姿のなんて可愛いこと!」

「君、いい趣味だねえ」


 ミリオンヒーローオンラインの変態代表と呼び声高い人形遣いなだけあるよ。時代が変わっても人形遣いは立派に変態。同じ穴のムジナだね!


「でも実は……! 勇ましく戦う人形も可愛いんだけど……俺は可愛いお人形には部屋まで完璧に可愛く整えて、その中でふわふわのドレスを着て澄まし顔をしていてほしい!!」

「そっか」

「そんなにナイスバディじゃない方がいいんだ、この華奢でなだらかな、いとけない手足がふわふわに囲まれているのがいいんだ! 愛でられること専門みたいな、当然お世話されないといけないような、ペン一本も持てない非力さ! 好みすぎる……!」


 アンディ、君はド変態だよ。僕と趣味が合う。


 周囲の人たちはドン引きだよ。


「その点ダムのこの全ての力仕事は他人に任せると言わんばかりの非力さ! 小さな手足! 実用性無視の可愛いだけのふわっふわの長い髪! 頼むドレスを着てくれ! ふわふわの花とレースに囲まれたお姫様のベッドで眠って見せてくれないか! 我が家にお迎えさせてくれ……!」


 さすがに家にお迎えされるのは困るなぁ。


 僕が可愛いのはその通りだけれどね!


「帰っていいかな」

「ちょっとついていけない」

「あ、あわわ……」


 なお、ロロとマーチは当然ドン引きしていたし、受付嬢ちゃんは圧倒されていた。



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