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ミリオンヒーローオンライン  作者: 京々


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6/8

迷宮脱出・スリー


「人形だって喋るよ」

「へっ?」


 素っ頓狂な声を上げたのはアンディだった。


 僕は構わずに説明を続ける。


「人形は喋るさ。絆を強くしてレベルアップして、そして特別なアイテムを使えば、人形は自律人形になることがある。すなわち、自分で動いて喋るのさ」


 ゲームでは、あらかじめプレイヤーが戦闘方針を入力しておけばそれに合わせて動くNPCになる感じだった。そして、プレイヤーが話しかければ今まで無反応だったのが簡単とはいえ喋るようになる。


 賛否両論はあったけどね。なにせオリジナルの人形に勝手にキャラが付与されるのだ。

 でも、強さには関係ないギミックだったし、そもそも成功確率が低い。そして数少ない成功例の報告を見ると、案外AIがいい仕事をしていて著しいキャラ乖離はなさそう。


 結果、自律人形を連れている人形遣いは人形遣いの中でもヤバい廃人だという評判だけが残された。間違ってはいない。


 アンディが僕の話に興奮気味に身を乗り出してきた。


「そ、それってダリアもできるか!?」

「おそらく、できるよ。絆は申し分ないだろう。あとはレベルアップと特別なアイテムがあれば、人格を持って喋り出すんじゃないかな」

「ホントに!?」

「ーー!!」


 アンディが興奮で頬を赤くする。

 ダリアもそれに合わせてぴょんぴょんと跳ねて全身で楽しそうにしていた。


 分かっていたけど、アンディはダリアを自律人形にしたいらしい。

 アンディはぐいぐいと顔を近づけてきた。


「で、特別なアイテムっていうのは?」

「……機械の心臓っていう、特定のモンスターを倒してドロップするアイテムだよ。めちゃめちゃ確率は低い。しかも使ったら必ず人格が宿るわけでもないしね」


 まあ僕は人形を使った人海戦術で集めまくったので実は41個持っている。むしろ人海戦術で集めまくって41個しか手に入らなかったんだ。どれだけ貴重か察してくれ。


 ちなみに、これはミリオンヒーローオンラインにしてはイージー設定という意見も散見された。

 このゲームではこういう素材って、複数要求されるのが標準なのだ。とある特殊スキルの解放に、赤色羽根99個と青色羽根99個と黄色羽根99個必要、といった具合に。

 いくら貴重とはいえ単一のアイテムひとつで強化できるのはお手軽だという廃人ユーザーの意見もあった。まあゲームに身も時間も捧げた人々の意見だ。基本頭がおかしいと思ってくれていい。


 アンディはさらにキラキラとした目を近づけてきた。


「それを手に入れれば、ダリアが喋るんだな!?」

「高確率で人格が宿るだろうね。すでにかなり絆が強い。今は君の感情に同調して動いてるっぽいけど、それってかなり凄いからね」


 ……うん、与えればほぼ100%成功する気がする。僕のやつあげちゃおうかな?


 いや、まだダリアは36レベルだ。もうちょっとレベルアップしないと不安が残る。相当貴重な素材だし、無駄にはできない。


 アンディの顔は最早キスでもできそうなほど近づいていた。


「ダム、どうすれば手に入るか分かるか、それ」

「欲しいの? 君にはまだ無理だよ。レベル……あー、Sランク以上の強さのレアモンスターを倒してごく稀に手に入る超レアドロップだ。手に入れる前に死んじゃうね」

「うぐぅ、そっかぁ……」

「残念そうだね」

「だって、ダリアとおしゃべりできるなんてワクワクするだろ」


 キラッキラッと星が乱れ打ちされているくらいにアンディの瞳は輝いている。ちょっと飲み込まれそうだ。気持ちは分かるけどそろそろ落ち着いて欲しい。


 顔が近いことを抗議するようにギュッと手で顔を押し退けると、アンディは大人しく姿勢を正した。それでもわくわくは抑えきれないらしく、さっきからぴょーんと飛び跳ねているダリアとハイタッチする。本当に君ら仲良いな。


 僕はコホンと咳払いをした。


「ま、自律人形に関しては君の努力次第でなんとかしてあげよう」

「え、ダムどうにかできるのか?」

「ふふん、僕を誰だと思ってるのかな?」

「いや誰だよ」


 今まで聞くに徹していたロロが短くツッコミを入れてくる。実に真っ当な疑問だ。

 僕は確認のためにチラッとアンディを見て、しかし下手に誤魔化してボロが出ても問題なので簡単に名乗ることに決めた。


「僕は──」

「分かった! 人形遣いくんがこの迷宮の下層で見つけた、自律人形のアーティファクトだね!?」

「「!?」」


 が、名乗ろうとしたところでマーチが何やら素っ頓狂なことを言い出した。冗談かと思ったけど、マーチは本気で僕のことを人形だと思っているようだ。マジか。


「いや、僕は──」

「なんだと……! この迷宮の下層にはアーティファクトがゴロゴロしてるって噂、本当だったのか! 君、その人形は何階層に!?」

「え、いや、会ったのは第4階層のボス部屋です……?」

「4のボス部屋ならいけるか……!? でも絶対に狙って一回じゃドロップしないよな……!」


 ロロも何やらおかしなテンションで食いついてきた。


 異様にテンションが高い。何かあるのだろうか。

 二人は僕が人形かどうかとかは最早どうでもいいようで、ハイテンションなまま話を進めている。


「いや、ボス部屋でもこの階層なら入念に準備して、あとはロロが頑張ってくれればなんとかいけないこともないと思うけどね」

「お前のギャンブル思考に付き合ってられるか! お前それで前のクランでやらかしてこんなことになってるんだからな! いい加減にしろ!」

「あれはガリガリさんが臆病だっただけで普段通りのパフォーマンス出してくれればいけてましたー。俺のせいじゃないでーす」

「ギャンブルするなら人間の感情も計算に入れろってんだ! あとダリタリさんだ!」

「人の名前はどうにもこうにも……」


 のらりくらりと言うマーチに、ロロが「あーもう!」と頭を抱えた。


 彼らも何か事情があるらしい。

 僕とアンディは顔を見合わせた。




 ◆◆◆




 ダンジョン内には、必ず階層ごとにいくつか安全地帯があるらしい。


 ゲームには別にそんな仕様なかったけど、リアルで考えたら必要なのだろう。


 聞くに、冒険者は何日も泊まり込みでダンジョンに潜ることもあるらしく(そうしないと大規模なダンジョンは深層まで潜れない)、そういうときに安全地帯がないと休むに休めないそうだ。


 さて、僕たちは第4階層の安全地帯にやってきていた。


 落ち着いて話をするためだ。


「改めて、俺はAランクのマーチ。魔法使いだよ。このゴリラ女がロロね。彼女はBランクの戦士」

「えっと、Dランクの人形遣い、アンドレアです。こっちはキングダム。この子がダリアで、この人形がバロンだ」


 お互いに自己紹介をする。


 パッと鑑定したところ、マーチはレベル63、ロロがレベル38だった。


 マーチがやけに高いな。ガチガチの魔法使いっぽいから前衛がいないとダメなのだろうが、前衛さえいれば第6階層でも普通に潜れそうだ。

 逆にロロがやけに低い。この第4階層でもかなりキツイんじゃないだろうか。少なくともこのレベルでボス部屋は無理がある。


 見事な凸凹コンビである。


「ごめんな、マーチは人に興味がないんだ。明日にはあんたらのことも忘れてる」

「ロロはゴリラ女で厳ついだろ? あんまりゴリラだから最近恋人に逃げられたんだ」

「マーチはそもそも恋人ができない」

「セックスだけしたい」

「このようにデリカシーが死んでるからな」


 そして会話がコメディ染みている。

 気心の知れた仲のようだ。


 アンディが二人に気圧されて恐る恐ると手を挙げた。


「二人はどういうご関係なんですか?」

「幼馴染だね。不本意だけど。マーチが天才的な魔法使いなんだけど、人間性が壊滅的でね。以前大きなクランでやらかしてから、私以外は警戒しちまって組んでもらえないんだ。だからランクもA止まりだし」


 なんとなく、それは分かる。

 このレベルのチグハグ感、そしてマーチの職業。


 魔法使いは、職業やステータスにもよるけど、基本的に前衛がいないと強い敵とは戦えない。逆に言うなら、安定した前衛さえいれば、結構なレベル差がある相手でも攻撃が通る典型的な火力職だ。

 マーチは、装備を見るに前衛がいないとダメなタイプの魔法使いだろう。


 それがこんなにレベルの低いロロと組んでいるのは、マーチに他に組んでくれる人がいないか、マーチが人嫌いか、ロロが無理に頼み込んだかの三択またはその複合だ。一番最後はロロの性格的に無いだろうし。


 当のマーチは能天気に肩を竦めた。


「ロロはこう見えて世話焼きだよね」

「私に恋人がいないのは容姿で逃げられたのもあるけど、マーチが余計な手を回したからでもある。コイツ私がいないと前衛がいないから」

「あは、ちょっと女をけしかけたくらいでそいつと駆け落ちする恋人なんて、いずれ不倫するよ。早めに馬の骨を追っ払えて良かったじゃん」

「反省のはの字もない」

「殴らないでよ」


 ロロはマーチを殴っていいと思う。


 さておき、ロロは普通に可愛いと思うけどな。少なくとも、そんなにゴリラゴリラ言われるほどブサイクではないと思う。


 確かに背が高くて体はがっしりしてるし、顔立ちもやや厳つめではある。

 でもオシャレに気を使ってる感じするし、仕草も可愛い、何よりロロって巨乳なのだ。話した感じ性格もいいし、実はロロを狙ってる男の一人や二人いると思うけど。


 僕は半目でマーチを見遣った。そしてわざとらしく笑って言ってやった。


「……実はマーチ、ロロのこと好きでしょ?」

「あはは、やめてよ、こんなゴリラ女」

「歯を食いしばりな」

「殴らないで」


 マーチを見る。

 彼はロロに胸ぐらを掴まれながらも、「これ以上余計なこと言うな」と言わんばかりにうっすら微笑みながら目だけで睨んできた。


 ですよね。君絶対ロロに気があるよね。


 僕は生温い目をした。

 いやぁ、多分これは、ロロの方もマーチに気があるから世話を焼いてるんだと思うし、両片想いってやつじゃない? いやぁ、甘酸っぱいね。青春だね。


 僕がニマニマと二人を眺めていると、不意にアンディが僕の腕をつついてきた。

 顔を上げると、アンディが顔を寄せてくる。内緒話かな?


「ていうか、今更だけど、なんで同行をお願いするんだ? ダムだけで十分だろ」

「そりゃね、脱出だけならね」

「というと?」


 アンディが眉を顰める。

 よろしい、説明してあげよう。実に単純な話だ。


 僕は咳払いをして話し始めた。


「会話から察するに、君は冒険者界隈での地位低いだろ」

「う」

「そして僕も現状社会的地位はゼロだ。その二人が冒険者の拠点で騒いでみなよ。勇者くんが善人ならいいけど、もし悪人なら僕ら嵌められるよ。ただでさえ勇者くんが起こした殺人未遂なんだしさぁ、勇者くんが隠蔽しようとしたら、勇者くんが圧倒的に有利だろ」

「……」

「話した感じ、この二人は視点がフラットだ。そして勇者くんよりも強い。つまり社会的地位が高いと思われる。まあマーチの人付き合いが死んでそうなところに不安はあるけどね」


 でもその辺はロロがカバーしていそうだし、まあ問題ないだろう。

 僕はウインクして見せた。


「法廷に弁護人を連れていくのは基本だよ。そうじゃなくても、証言者くらいにはなってもらわなきゃ」

「うーん、大きな問題にしないようにするっていうのは……」

「無理じゃないかな。だって殺人未遂だよ。未遂と言っても、僕がいなかったら君は死んでたんだから、つまり大体殺人だよ。君が生きてギルドに戻る時点で騒ぎにはなるさ。……まあ、君がギルドに預けている人形を諦めて、この町から出て隠れて生きていくなら騒ぎにならずに済むけどね?」

「そんなことッ!!」


 人形を諦めて、の部分でアンディはカッと目を釣り上げて怒鳴った。譲れない部分のようだ。

 そうだろうね。僕も気持ちは分かるつもりである。


 僕はふんふんと頷いた。


「だったら、戦うしかないだろう? まあ万に一つもないだろうけど、勇者くんが善人であるという可能性に賭けて、対策なしでのこのこ戻ってもいいけどね。僕はお勧めしない」

「……」


 僕の言葉に、アンディは黙り込んでしまう。

 迷っているようだ。


 何に引っかかっているんだろうか。

 あの別れ方だ。戻った時に勇者くんとトラブルが発生するのは容易に想像がつくだろうに。

 僕は首を傾げた。


「なにか迷うことあるかな?」

「それは……、だって、勇者に逆らうのは」

「そもそもあいつ勇者じゃないけどな」

「えっ」


 珍しく歯切れ悪く話し出したアンディに向かって、ロロがなんてことないように言う。

 さらりと明かされる衝撃の事実。アンディはギョッと顔を上げた。


「えっ?」

「ああ、そうか、知らないのか。アイツな、上位ランクの冒険者の間じゃ有名なんだけど、以前にもパーティメンバーがダンジョン内で死んで帰ってきてるんだよね」

「は?」


 不穏な話である。

 戸惑うアンディ、大体察した僕、我関せずなマーチ。

 ロロは続けた。


「まあ、以前アイツがいた町での話なんだけどな。私もギルド職員から聞いたんだ。そのメンバーは侍っていう職業で、刀って名前の珍しい剣を所持してた。それをアイツは遺品だっつって持って帰ってきて、売り捌いてた、らしい」

「まさか」

「お前みたいな世間知らずで、でも金になるものを持ってる奴を仲間に引き入れて、ダンジョンで殺して身包み剥ぐのが常套手段なんだろう。アイツ自身、別の町から流れてきたばっかりだからまだこの町での件数はゼロだし、証拠も無いから野放しにされてるけど、ほぼ間違いないって有名だよ」

「なん……!」

「だから、お前の場合は残りのギルドに預けてる人形が狙いなんだろうね」

「なっ……!」


 酷い話だ。もう色々と酷い話だ。


 勇者くん自身も酷い奴だし、ギルドでほぼ間違いないとまで言われているのに対策が取られていないのも酷い。アンディは見殺しにされたようなものじゃないか。


「な、な……!?」


 可哀想に、アンディは口をパクパクさせて放心している。

 そりゃあそうだ。タチの悪い詐欺にあって、そして死にかけたんだから。

 おそらく、アンディは彼らに見捨てられたことを怒りこそすれ、それは彼らを仲間と見做した上での怒りだったのだろう。しかし、それが実は前提から違っていたのである。ショックも一入なはずだ。


 そんなアンディを他所に、ロロがその場に座り直した。そして、力強い視線で真っ直ぐに僕を見る。

 うん? 僕?


「さて、というわけで、取引と行こうじゃないか。あの勇者もどきの件について、私たちは全面的に協力しよう。だから、そっちの自律人形のアーティファクト。お前も、私たちの事情に協力してくれ」


 そして、ロロもこのタイミングで勇者くんのことを明かして交渉に持ち込むなんて、なかなかに酷い奴だった。


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