迷宮脱出・ワン
前回のあらすじ。
アンディが僕の弟子になった。
「やっっったあああーーーー!!!」
「ーーーー!!!」
アンディの喜び様はすごいものだった。
雄叫びを上げ、ダリアとハイタッチしてはしゃいでいる。
「本当に強くなりたかったんだ!」
「ーー!」
「活躍したかったし、もっと人の役にも立ちたかった!」
「ーー!」
「それが出来るようになるかもしれないんだな!」
「ーー!」
わーわーとはしゃぐアンディの言葉は結構切実だ。
人形遣いでは一見して成長スピードが遅く感じるだろうし(なにせまず人形を使って人並みにレベル1のスライムを狩れるようになるには自身と人形を20レベルまで上げる必要がある)、世間からの人形遣いは不遇職という目も付き纏う。自分の限界にもなんとなく見切りが付いていたかもしれない。
彼の抱くだろう鬱憤と無力感は察するにあまりある。
そこに僕のような高レベルな人形遣いを見て、自分もそうなれるかもしれない可能性をぶら下げられて、なんかブワーッとなったんだろう。
僕はうんうんと満足げに頷いた。
そして、大事なことを思い出す。
「あ、僕の弟子になったからには、あのパーティ、なんだっけ、勇者? ケビン? あれからは抜けてね。まあ嫌なら要相談だけど」
「ああ、当然抜ける。俺もダリアも見捨てられたんだからな」
僕の言葉に、アンディは怒っているようにそっぽを向いた。
相当腹に据えかねているらしい。
まあ当然か。
彼はたったさっきパーティメンバーに見捨てられて殺されかけたわけだ。
ゲーム内でもPKされたら悔しいしムカつくし悲しいのに、リアルでそんなことされたら怒りも一入だろう。
僕だったらもう人間不信になって人形としか話さなくなっちゃうね。まあ、それは今もだが。
「それに、どうせケビンたちがギルドに戻ったら俺は死亡したって報告するだろ。多分自動的に脱退扱いだから、問題ない」
「ふぅん。……ん? それ、早めに戻らないとまずいんじゃないの?」
「え?」
アンディがポカンとこちらを向いた。
なんだか酷く間抜けな顔をしているが、しかし普通にまずいと思う。
アンディにも荷物とか、あと冒険者ギルドの資格とか色々あるだろう。
死亡扱いで処理されたら、荷物は捨てられてしまうか下手すると残ったパーティメンバーのものになってしまうだろうし、資格も全部なくなって、色々と面倒くさいことになるのではなかろうか。
そう言うと、彼は顔を青褪めさせた。
「そ、そうかも」
「そうでしょ」
「それに、そうだ。バイモとペンタスをギルドに預けたままだ」
バイモとペンタス。
確かアンディの手持ちの人形の残り2体の名前だ。
「預けてたの?」
「ああ、バイモは索敵能力の高い人形だが、この迷宮は何度も潜っているからいなくともなんとかなるし、ペンタスは魔法攻撃とかが得意な人形なんだけど、あのパーティには魔法使いがいるから」
曰く、パーティの適正人数は6人と言われている。
それ以上になると動きが取りにくくなるし、それ以下だと不測の事態に対応できない。
まあ人数が集まらない場合や逆に集まり過ぎてしまう場合もあるから一概には言えないが、大体それくらいが良いようだ。
そして、アンディの所属していた勇者パーティは、そういう「適正」とか「セオリー」とかを重要視していたらしい。
まあセオリーとは、多くの人が実践してきてその上で一番支持されている方法が多い。
セオリー通りにしておけば大きく失敗することはないのだから、その方針はなんとなく分かる。
「メインアタッカーの勇者とタンクの戦士、火力の魔法使いと、回復の神官。そしてなんか雑務な俺。これで5人だから、連れて行く人形は1体だけってことになってたんだ」
「意図的に6人にしてるだけで、パーティは6人じゃなきゃ組めないってことではないんだ?」
「? ああ、7人とか8人とかのパーティもよく見るぞ」
「ふぅん」
ゲームではパーティは6人以下の人数でなければ組めなかったので、その辺は仕組みが少々違うらしい。
それだと人形遣いや召喚士なんかはパーティ枠に捉われずにたくさん連れて行けるから、逆に有利だと思うんだけどな。
セオリーを重視するとはいえ何故わざわざ人形遣いの優位性を捨てさせたのか、疑問である。
そう言うと、アンディはムスッとした。
「ダンジョンは狭いから単純に多くても邪魔なだけだ。同じく他の場所でも、数の多さは戦線の広さに繋がる。弱いのに戦線を広げられても無意味、だってさ」
「まあ一理あるね」
あの勇者の台詞なのだろうか?
直接話したことはないからなんとも評価しがたいが、この発言だけを切り取って見るなら合理的なタイプのようだ。
……合理的なタイプなら、そもそも何故人形遣いをパーティに入れたんだ? 人形遣いは世間一般では雑魚扱いなんだろ?
僕は首を傾げる。
「単純に疑問なんだけど、なんで君のパーティの人は人形遣いをパーティに入れたの?」
僕の問いに、アンディは苦い顔をした。
「……ケビンは、なんというか、勇者に憧れる世間知らずっていうか」
「ほう?」
「先祖に勇者がいる家の出身らしくて、家に先祖の遺した英雄譚がたくさんあるんだとか。ケビンがやる戦術は大体それ譲りだ」
酒が入るといつも英雄譚の話ばかりして、パーティメンバーはまた始まったよとばかりに面白がるか聞き流すのが常だったらしい。
その中で、本人のランクよりも強い魔物に挑んで勝ち、持て囃される話があったような気がするとアンディは言った。
まあ聞き流していたのでうろ覚えらしいが。
「で、様々な英雄譚を遺した勇者の方針が、4人まではセオリー通りにすると強く、あとの2人は変わり者を入れると面白い、とのことだ」
「なるほどね」
つまり、その2人の変わり者枠がアンディだったのだろう。
聞けば、勇者ケビンは最初から「変わり者枠が足りない」と公言してパーティメンバーを探していたらしく、仮にパーティ加入希望者がいても変わり者じゃないと断っていたらしい。かといってあんまりにも戦力にならない希望者も断っていたらしい。
で、たまたまお眼鏡にかなって声をかけられたのがアンディだったのだとか。
「まあ、これでも俺は人形遣いとしては桁違いに強いんだ。人形遣いでまともにDランクの戦力を持つのは、ほぼいない。少なくとも俺は他に会ったことがない」
「他の人形遣いはどんななの?」
「ほぼFかEだよ。薬草採取とかの依頼を地道にこなしてランク上げするのばかりだし、戦闘でも人形を囮にしてパーティに貢献したり、人形に素材集めさせるのばっかなんだ。……まあ、人形は強くなりにくいからな。ぶっちゃけ俺自身、ダリアよりも戦えるし」
ちょっと不満そうにアンディが口を尖らせる。
人形は仕様的にプレイヤーやモンスターよりも20レベル分弱いので、最初はどうしても人形より人形遣い自身の方が強い。むしろ育て方によってはレベルが上がっても人形遣い自身の方が強い。
レベルが低いときは人形遣い自ら適当な武器を持って戦うのは、あるあるな笑い話だった。
まあその分人形にしか設定できないスキルとかがあるんだけどね。
「最初はそんなもんだよね。僕もある程度の戦力揃うまではフレさんに助けてもらってた」
「フレさん?」
フレンドのことである。僕はあまり顔が広い方ではないが、長くやっていればそれなりにフレンドはできる。中でも初心者支援が好きなモノ好きとかがいて、僕も最初はそういう人に助けてもらっていた。
まあそれはさておき、その勇者の言葉はほぼ受け売りだと思っておいた方が良さそうだ。
ギルドに預けてあるアンディのお人形、バイモとペンタスの扱いも、その勇者の実家の英雄譚次第なわけだ。
多分その勇者の行動は大分色々英雄譚に準拠しているっぽいから、その英雄譚の中で死んだ仲間の荷物がどう扱われているかでアンディの荷物の処遇が変わりそう。笑えるね。
「笑えねぇよ。と、とにかく、一旦戻っても良いか?」
「いいよ。めんどくさいこと片付けてから、それからレベリングを始めようじゃないか」
僕が頷くとアンディはパッと笑った。嬉しそうだ。
それにしても。
「……その英雄譚さ」
「?」
「実話じゃなくて小説なんじゃないかな?」と言いかけて、やめた。
いや、きちんと読んだわけではないが、似たような小説を読んだことがあるのだ。
あと、4人は堅実に、2人は変わり者をって、本当に実践の方針だったか? 小説上の話で聞いたことあるような気がする。あとは……。
まあ詳しくは省こう。今はいい。
◆◆◆
「そういえば、アンディってどんな感じに戦うの?」
「俺?」
唐突な僕の言葉に、アンディは素っ頓狂な声を上げた。
アールが行く先のモンスターを倒して霧払いをし、僕はデュークに乗って、アンディとダリアは歩いてダンジョン内を移動する最中のことだ。
言い出しこそ唐突だったが、人形遣い個人として、アンディの師匠として、普通に気になるところである。
アンディは僕を見上げてビックリした後、ゆっくりと口を開いた。
「……俺は、まあ、人形と一緒に戦うんだ」
どこか恐る恐るとした響きでアンディが言う。
僕はふぅんと頷いた。
「これでも剣が使えるから、ダリアとは肩を並べて、バイモには俺がメインでサポートしてもらって、ペンタスだったら俺が盾になって魔法を撃ってもらって戦う」
「随分アクティブなんだね」
「変か?」
「別に。そりゃ使役する職業の戦い方として王道ではないんだろうけど、そんなのたくさんいるよ」
僕は肩を竦めた。
具体的には聖歌隊野郎とかね。
知り合いの人形遣いに、白い聖歌隊の服を着せたロリショタ人形を連れ歩く奴がいたのだ。
彼の人形は戦えない。その代わりに回復やバフデバフがえげつなく強い。
彼自身は戦う神父って設定で黒い神父服を着込んでガチガチの格闘戦をするんだけど、彼自身はそんな強くないのに重ねに重ねられたバフのおかげで馬鹿みたいな怪力を発揮するのだ。
面白い戦闘スタイルだよね、まあ話してみると無垢なものに興奮する変態なんだけどね。無垢なものを突き詰めた結果が神に仕える聖職者と純粋培養のロリショタなんだって、気持ち悪いね。
話を戻そう。
それに、アンディが人形と一緒に戦うのは予想通りでもある。
アンディ、体鍛えてる感じしたしな。
腰に剣も差しているし、僕らを庇おうとした時の仕草から見てもある程度は戦い慣れている感じがした。
「ちょっと今戦って見せてよ」
「ここで!?」
「アールが守ってくれるし、平気でしょ」
ギョッとするアンディに僕はにこっと笑って手を振った。
アールが恭しくお辞儀をして、配置につく。正直この階層のモンスターだったらアール一体で十分だが、アンディたちの安心感のためにあと二体出しておこう。
そして、パチンと一つ指を鳴らした。
「ナイト・ワン」
人形を呼ぶ。
すると、簡素な鎧を着た典型的な人形素体みたいな人形が現れた。
ナイトは僕の手持ちの戦闘用人形の中でも一番弱い人形だ。レベル50しかないので、実質レベル30でしかない。雑魚もいいところである。
ただ、実質16レベルのダリアとおそらく30レベル後半のアンディの相手なら不足はないだろう。
まあ順当に負けるだろうけど、彼らの実力は見れるはずである。
「殺さないくらいに相手してあげて」
「ちょ、ダム!?」
僕の指示を受けて、ナイトがアンディたちに襲いかかった。
アンディは咎めるように僕を見たが、僕が本気だと分かるとすぐに表情を引き締める。
そしてすらりと剣を抜いた。
「行くぞダリア!」
「ーー!」
アンディとダリアが地を蹴って同時に駆け出す。
二人でナイトを挟むように移動して武器を構える。
位置取りはいい感じだ。
ナイトがアンディの方に剣を構えて振りかぶる。
アンディも剣を持ってそれに応じた。
次の瞬間、ガキィンッと剣が打ち合う音。
ナイトの攻撃をアンディが受けたのだ。アンディの受け流し方が上手い。それに思ったよりも剣術の型が綺麗な気がする。誰かに指導を受けたのかな。
そして、その隙にダリアがナイトに背後から攻撃を仕掛けた。
ドドドッとダリアの連撃が息もつかせぬ勢いでナイトの胴部に突き刺さる。ナイトは衝撃で少し体勢を崩された程度だが、レベル差を考えるとえげつない威力だ。
ナイトがアンディ諸共剣で払い除けようとすると、二人ともすぐさま後退、ヒットアンドアウェイで攻めていく。
アンディとダリアはなかなか善戦していた。
動きはかなりいいと思う。
連携もきちんとできている。
でも多分、圧倒的にレベルが低くて、パワーが足りなかった。
ナイトが背後から襲いかかってきたダリアにタイミングを合わせて峰打ちを当てる。小柄なダリアは軽々と吹き飛んだ。
「ダリアッ!!」
アンディが叫ぶ。
そんなアンディに向かってナイトが迫った。ナイトが勢いよく腕を振り下ろすのに、ダリアに気を取られたアンディの反応は確実に遅れている。
僕は静かに口を開いた。
「そこまで」
ナイトがぴたりと動きを止める。
その手が持つ剣の柄は、アンディの顎スレスレだった。
もうちょっと遅かったら、アンディも吹っ飛んでいたことだろう。
「ご苦労様。ナイト、下がって」
僕の指示にナイトは恭しくお辞儀をする。
僕はナイトを回収して、それからアンディを見下ろした。
アンディは強い青色の瞳をギラギラさせて僕を見上げている。負けたのが余程悔しかったようだ。それか、ダリアを吹き飛ばしたことを怒っているのかな?
まあどちらにしても言うことは一つである。
「分かってたことだけど、雑魚」
「ーーッ」
アンディはあからさまにムッとした顔をした。
僕は構わず続ける。
「育てがいあるね」
笑って見せる。
アンディが虚をつかれた顔をした。
「……、……ダムって見た目のわりに口悪いよな」
「なーに? お淑やかな言葉を使うように見える? それとも、甘ったるい赤ちゃん言葉を喋りそうってこと?」
「性格も悪い」
「それほどでもないよ」
消化不良な気持ちを吐き出すように僕に悪態をつくアンディ。
僕が澄まして「ダリアの回収行っといでよ」と言うと、アンディは煮え切らないながらも踵を返す。
その後ろ姿に向けて、鑑定をした。
「……ふぅん。アンディ、レベル20しかないんだ」
小さく呟く。
道理で、予想よりも弱いはずである。
ダリアが36レベルだから、てっきりアンディもそれと同じかそれ以上あると思ったのに、まさかの20レベル。
「……マジで絆で従えてんだな、ダリア」
アンディの資質に戦慄した。精霊使いや召喚士をやれば一瞬で大成するやつだ。強い精霊やモンスターに謎に好かれまくるやつだ。
……さておき、とりあえず、アンディ本人のレベル上げから始めよう。
僕は頭の中でレベリングスケジュールを立て始めた。




