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ミリオンヒーローオンライン  作者: 京々


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プロローグ・ワン


『ミリオンヒーローオンライン』というネットゲームがある。


 所謂VRMMORPGだ。


 よくある剣と魔法の世界を自由に冒険するといった内容であったが、その自由度の高さから世界を熱狂させた一大ゲームである。


 プレイヤーは異世界から降り立った冒険者という立場で、広大な世界を旅するのだ。


 ただ世界を見て回ってもよし、モンスターを倒して最強を目指してもよし、素材を集めてオリジナルの武器を作ってもよし、ひたすらポーションなどを生産してもよし、商売してもよし、モンスターを従えて人間と対立してもよし。

 まさに無限の遊び方があると評判を呼んだ。


 キャラメイクも、選べる種族だけで約300種類、職業は基本から上位職まで合わせて約1100種類、もちろんパーツの種類も数え切れないほど多い。

 それらを自由に組み合わせて好きなように作ることができるのだ。


 多くの人が夢中になって剣と魔法の世界へと旅立った。


 かく言う僕もその一人である。


 僕はプレイヤー名をキングダムという。

 このゲーム内ではそれなりに名の知れた人形遣いだ。


 人形遣いとは、その名の通り人形を使役して戦う職業である。

 人形遣いの中にも、一点ものの自律人形を操る人形師とか大量の使い捨て人形を操る傀儡師とか色々あるが、まあそんなに細分化し出したらキリがないので人形遣いでいい。


 足元まであるシフォンケーキのような柔らかな金髪に、瞳は右がキャラメルマキアートのようなとろりとした褐色で、左がジンジャーエールのようなシュワシュワキラキラな褐色のヘテロクロミア。メレンゲのような滑らかな白い肌を持つ13歳くらいの幼女の姿で、大量の人形を従えて王様のように踏ん反り返っているのは、なかなかいい気分だった。


 そう、いい気分だった。


 いい気分だけで終わっておけば良いものを。


「──ここ、どこ?」


 こてりと重い頭を振って起き上がる。


 視界に映るのは幼女のマシュマロのような細い手と、ふわふわと柔らかな金髪、そしてそんなやわやわな幼女には優しくない硬くゴツゴツした瓦礫と岩だらけの空間である。


 僕は気づいたら、お菓子のようにふわふわ頼りない幼女の姿で、広く薄暗い洞窟に倒れていた。


 いや、本当にここはどこだ。




 ◆◆◆




 直前の記憶を精査してみよう。


 僕は確か、ミリオンヒーローオンラインをやっていて、そして寝落ちした。

 以上。


「うん、何も分からない」


 僕は力強く頷いた。

 すると幼女がぽてりと頭を前後に振る。

 口から溢れるのも軽やかな甘い声だ。


 あまりに頭が重いので、頭の上に乗っているものをむんずと掴んで目の前に下ろす。

 それはよくある王様キャラがしているような赤い布と金でできた大きな王冠だった。


 キングダムのキャラの装備品である。


 ずっしりと重い。

 可愛いし効果は破格だが、重さにペナルティが付く装備品だからだ。


 キングダムは人形遣いの技能と魔力と耐久力に能力値を全振りしており、直接戦闘技能はゼロだ。

 だから、ペナルティは無視して好みの装備品を付けている。


 まあそれはいいとして。


「この感覚はどう考えてもゲームじゃないんだよなぁ……」


 ゲーム内の重さのペナルティは、速さとスタミナのステータスにペナルティがかかるだけだった。

 それなのに、手に持つ王冠は物理的に酷く重い。


 この状況は、明らかに異常だ。


「どうしよう……」


 わりと本気で途方に暮れた。


 ステータスを出して確認してみるとか周囲を確認するとか、もっとできることはあったと思うのだが、僕はすっかり呆けてしまった。


 あまりにも衝撃的な出来事だったのだから仕方ない。


 しばらくぼーっとしていると、やがてギィと大きな扉が開くような軋んだ音と共に、人の話し声が聞こえてきた。


「──よし、行くぞ、ボス戦だ」


 何人かの人間がカチャカチャと金属の装備を鳴らしながら洞窟の大広間のようになっているここへ入ってくる。

 すぐにボッボッボッと壁面に松明がともる。誰かがつけたわけではない。ボス部屋に冒険者が入ってくると松明がつくという演出なのだ。


 僕は眩しげにそれを見上げた。


 そっか、ここ、ダンジョンのボス部屋か。ボス狩りはレベリングに都合がいいから僕もよく来ていた。

 どうやら、僕はボス部屋の端っこのちょうど窪みのところに座り込んでいるらしい。彼らからは僕が見えないだろう。


 ボォオオオオオオオオッ!!


 モンスターの雄叫びが聞こえる。ビリビリと肌を痺れさせるような大音量。


 そして、彼らのボス戦が始まった。


「タウント!」

「ファイヤランス!」


 戦闘音が聞こえる。戦士がヘイトを稼ぎ、魔法使いが魔法を放つ。バランスの取れたパーティのようだ。そして彼らのパーティにはさらに攻撃力の高い必殺技を放つ者が一人。


輝く神の剣シャイニングゴッドソード!!」


 ピカリと聖なる光を剣に纏い、果敢に攻撃を重ねていく。


 戦闘は聞く限り順調に進んでいった。怪我をすれば神官が回復魔法を使ってメンバーを癒す。攻守のバランスが良さそうだ。

 実にセオリー通りのボス攻略。攻略サイトをしっかり読んできた初挑戦者のようだ。


 ただ、レベル不足だったらしい。


「クソ、回復アイテムが切れた!」

「もう魔力がなくなるわよ!」


 そんな声が聞こえ始めた。メンバーの全員が危機感からイライラし始め、そんな不和が戦況を破綻させていく。


「がぁっ! くそ!」

「おいアンドレア! 囮くらいしっかりやってくれ!」

「ずっとやってるだろ!」


 うーん、まずそうだな。


 戦闘音を聞きながら、僕は冷静にそう思った。


 彼らがここから立て直して勝つのはほとんど無理だろう。

 ボス部屋は一度入ったら特殊な脱出アイテムがないと離脱できない。彼らが離脱するのか全滅するのか、分からないが、ボス部屋に誰もいなくなれば次に狙われるのはなぜかこの部屋内にいる僕だ。


 僕は軽く手を振る。


デューク・ワン(一人目の公爵)


 すると、豪奢な鎧を着込んだ3メートルもありそうな大きさの人形が現れた。

 のっぺりとした顔が僕を見下ろす。


 彼はデューク(公爵型人形)。僕の戦闘用の人形の一つである。

 僕の手持ちの人形の中でも上位の強さを誇り、堅牢なのが特徴だ。


「守って」


 短く命令した。


 ずんぐりと大きな人形は一つ頷くと、スッと僕の盾になるように立ち、構える。

 これでいきなりボスが襲ってきても大丈夫だろう。


 なお、手助けをするつもりはない。なんでお前がボス部屋にいるんだって話になるし、こういうのは手を出すと横取りだとかうるさいんだ。


 僕はそれだけやると再び耳を澄ませた。

 まあわざわざ聞こうとしなくとも、声も音もこの空間に反響して普通に聞こえるんだけれども。


「もう無理だ! 撤退するぞ!」

「待てケビン! 俺とダリアがまだ範囲内にいけない──」

「人形を囮にして早く来い!」

「はあ!? ダリアを犠牲にしろって言うのか!」

「仕方ないだろ! 人形と命どっちが大事なんだ!」


 言い争いはなおも続いている。


 そのうちの一人が、どうやら僕と同じ人形遣いらしい。

 僕は「へえ」と頬杖をついた。


 珍しいな。


 人形遣いはマイナー職だ。

 正直あまり見ない。

 理由は色々あるのだが、大きな理由の一つがパーティを組むのに向いていないからだ。


 人形遣いの使役する人形は、パーティを組む際にプレイヤーと同じ扱いを要求される。

 つまりパーティの枠を一つ埋めてしまうのだ。

 そのくせ同レベルのプレイヤーと比べると戦力的に見劣りするから、他のプレイヤーと遊ぶときにあまり歓迎されないのだ。


 ソロなら問題ないんだけどな。


 あと、上記の条件は召喚士やテイマーといった職業も一緒だ。

 しかし人形遣いは召喚士やテイマーと比べると人気がない。理由は単純だ。モフモフには勝てないのである。


 そんなわけで、人形遣いは結構少ない。

 職業専用掲示板とかで示し合わせて会うならいざ知らず、普通に冒険していて偶然会うことは滅多にないのだ。


 僕がそんなことを考えている間にも、言い争いは続く。


「そもそもケビンが無理にボスに挑むから──」

「黙れ! 馬鹿が! 足手纏いはそこで囮をやってろ! 人形に名前なんかつけやがって! キモいんだよ!」

「なッ──!!」


 推定人形遣いが絶句するのが聞こえた。


 ……これはもしかしなくても修羅場ではないか?


 脱出アイテムを使うパリィンと澄んだ音がする。部屋全体が淡く輝いて、そして光が消えた。脱出アイテムがメンバーたちを離脱させたのだ。


 グガァァアアアアア!!


 しかしボスモンスターは消えていない。

 もちろん僕のところにもやってこない。


 戦闘音は続いている。といっても、先程までとは比べ物にならないか細い剣戟の音だ。


「くそ、くそぉ……!」


 さっきの推定人形遣いの声。彼の声だけしかしない。

 マジで見捨てられたらしい。え、本当に? だいぶ悪質なPK(プレイヤーキル)じゃない?


 だって、彼は脱出アイテムを持っていなかったらキルされるしかない。


「ぐぁッ!?」


 大きな破砕音と、人体が吹き飛ばされて壁にぶち当たるような鈍い音。


「ダリア……」


 人形の名前を呼ぶ声だろう。


 僕はため息をついた。自分の状況すら分かっていないから、できるだけ関わりたくなかったんだけど。


アール・ワン(一人目の伯爵)。まだ間に合いそうなら助けてあげて」


 僕は鎧を着た細身長身な人形に命じる。

 アール(伯爵型人形)はすぐにボス部屋の中央へと身を躍らせて行った。彼ならレベル的にも負けることはないと思う。


 僕は黙って戦闘が終わるのを待った。




 ◆◆◆




 ボス戦が終わった頃には、辺りはすっかり静かになっていた。


 松明の炎はまだ燃え続けている。これは冒険者が部屋を出ていくまで燃え続ける仕様だ。


 僕はゆっくりと洞窟の窪みの中から顔を出した。ボス部屋の中には誰もいない。ボスは倒され、その死体が消えて魔石がポップしている。


 僕はため息をついた。


 同時に、カチャリと人形の関節が鳴る音がする。


 見ると、デュークの傍らにはアールが立っていた。

 その手には、やはりというか一人の青年と一体の人形を抱えている。

 どちらも気絶していてピクリとも動かない。


 怪我はまあまあというところ。致命傷ではなさそうで安心した。


「それで全部?」

「──」

「そう。ご苦労様」


 ボス部屋に残されたのはこの二人だけらしい。


 僕は改めてマジマジとアールの腕の中の二人を見た。


 青年の方は、まあどこにでもいそうな感じの見た目をしている。

 短く整えた跳ねた黒髪に整っていると言えなくもない顔立ち。まあ、パーツは整っているのでイケメン予備軍ではある。

 ただ、なんだか目元が生意気そうだ。僕の好みではない。


 体つきは人形遣いにしては鍛えているのが窺える程度にはガッシリとしている。腰に剣を差しているから、剣が使えるのかもしれない。

 年齢は18歳とかそのあたりだろうか。わりと言い争う内容が幼かったからもっと年少だと思っていた。


 人形の方は、少女型の大層よく出来た人形だった。

 一見して人間と相違ない見た目をしていて、おそらく機能も多彩なのだろう。


 これは、高かっただろうな……。


 人形と命とどっちが大事なのかと問答していたが、人形遣いとしての意見を言わせていただくと、正直人形によるんだよな。


 僕みたいに量産型ののっぺらぼう人形を扱う人形遣いであれば、人形一体はそこまで惜しくない。

 もちろん無駄にはできないが、ああいう場面で捨て駒として使うのも大いにアリだ。


 しかし、一点ものの人形を扱う人形遣いであれば話は別だろう。そのタイプの人形遣いにとって、人形は最早相棒であり戦闘能力そのものである。

 人形の喪失は自分のアイデンティティの損失に等しい。


 捨て駒にするくらいなら、大人しく自分がキルされてデスペナルティを払う方が良いのである。


 まあそんなことは人形遣い以外の人には預かり知らぬ事情である。

 きちんと説明しなかったこの青年か、もし説明されていたとしたら理解しなかったパーティメンバーが悪い。


 そもそも状況的に仕方がなくとも、ボス部屋で人を見捨てるのは立派なPK(プレイヤーキル)だしな。

 いや詳しい事情は知らないけどな。

 そもそもここがゲームの中の世界なのかすら怪しいしな。


 僕はため息をついた。


 青年が起きたら事情と世界観を聞くとしよう。


 とそんなことを考えていたところで。


 ──カチャリ


 人形の関節の鳴る音がした。

 瞬間、デュークがアールから少女の人形を取り上げて押さえつける。


 ギョッとして見ると、少女の人形がジタバタと暴れていた。

 少女の人形もデュークも相当力が強いらしく、ギシギシと関節が怪しい音を立てている。


「ありゃ」


 僕はアールの腕の中の青年に意識がないこととデュークが完璧に少女の人形を押さえ込んでいることを確認すると、少女の人形に近づいた。


 術者である人形遣いの指示がないのに人形が動くことは、たまにある。

 所謂主人の危機に力を発揮するというやつで、人形遣いの中でも相当特殊なスキルを所持していないとならないやつだ。ちなみに僕は持っていない。


 少女の人形は今も暴れていた。

 デュークに完璧に押さえつけられているとはいえ、その膂力は驚異的だ。


 僕は少女の人形にギリギリまで近づき、口を開く。


 確か、この人形の名前は「ダリア」だったか。


「ダリア」

「──!」


 人形がピクリと反応する。

 人形遣いとして命令を出すスキルを使いながら、なおも僕は続けた。


「ダリア、僕たちは君の主人に危害を加えるつもりはない。大人しくなさい」

「──」

「大人しくなさい」


 少女の人形は、僕の命令に徐々に動きを弱めていく。


 僕は人形遣いとしてはかなりレベルが高いのに、それでもこれだけ時間がかかるのは、それだけこの青年の技量が高いのか、人形との絆が強いのか。


 やがて、人形が完全に動きを止めた。


 デュークがゆっくりと少女の人形の拘束を解く。

 少女の人形は、糸が切れたようにその場に座り込んだ。


「ふむ」


 改めて見ると、少女の人形──ダリアは綺麗な人形だった。


 艶やかな紫の髪は毛先だけ赤にグラデーションしている。それをダリアの花のようなポンポンでサイドテールにしていて華やかだ。瞳も力強い赤色。

 おそらく近接戦特化型の人形だろう。

 しなやかな体躯だが、その出力は半端ないのはさっき分かった。


「君は、主人が好き?」


 特に意味もなく尋ねてみる。

 もう動かないかと思ったが、ダリアは意外にも顔を上げて、こくりと頷いた。


「ありゃ」


 僕は僅かに驚く。


 これは、相当絆が強いタイプだな。


 ちょっと羨ましい。

 僕は大量の人形を操る傀儡師タイプだから、そういう絆的なパラメータは上げていないのだ。


 人形は人形なのである。


 そもそも絆を深める的なことをやりたいなら、人形遣いよりも召喚士やテイマーの方が向いているしな。

 人形遣いよりも召喚士やテイマーが人気な理由の一つだ。


「さっきは囮に使われなくて良かったね。僕なら人形は種類によっては囮にしちゃうから、彼に感謝して尽くしなよ」

「──」


 肩を竦めながらそう言う。

 ダリアは再びこくりと頷いた。


 にしても、この青年は人形遣いの才能あるんだな。


 キャラメイクをするとき、ミリオンヒーローオンラインには、実は隠しパラメータなるものが存在する。それぞれに完全ランダムで設定される、色々な能力への適性値みたいなものだ。


 プレイヤーの間では「才能」なんて呼ばれている。


 この青年は多分、絆を深める系の才能が高いんだろう。

 精霊使いとか召喚士とかテイマーとかをやっても成功するタイプだ。


「さて、じゃあ移動するよ。こんなダンジョン内にいてもね、危ないしね」


 デュークが僕を抱えて肩に乗せてくれる。

 体長3メートルの人形の肩はなかなかにいい眺めだ。あと意外にも乗り心地は悪くない。


 青年を抱えたアールと立ち上がったダリアを引き連れて、僕は移動を開始した。



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