何かを間違えた。
「マイク様!」
リュミエール嬢が玄関から見える大階段を、降りてくる。僕は軽く手を上げた。色が白いから、淡いピンク色のワンピースが良く似合っている。そして、耳元に金のイヤリングが飴色に輝いていた。
「姉上、慌てると落ちますよ」
すでに玄関で迎えてくれていたエアリルが、笑いながら窘めれば「ごめんなさい、エアル」と小さく頭を下げて微笑んだ。
「リュミエール嬢の前では、この薔薇も霞んでしまいそうですね」
僕は手に持っていた花束を渡す。淡いピンクと白の薔薇で丸く作ってもらったブーケだ、リボンの色は金糸の入ったベージュにしてもらった。
「可愛い…ありがとうございます」
本当に嬉しそうに受け取ってもらえるから、こちらまで顔が綻んでしまう。
その時、帽子を持ったメイヤ嬢が、リュリュの後ろから声をかける。
「リュミエール様、お帽子を」
「ありがとうメイヤ」
メイヤ嬢と目が合うと、笑みを浮かべてはいるが笑顔は張り付いたままだ。
「…これはメイヤ嬢に」
リュリュよりは小さいが黄色いガーベラのブーケを差し出す。
「え?」
「先日のお詫びです。あの時は急いていたとは言え、怖い思いをさせてしまったと思います。すみませんでした」
近くで僕の加護を受けて以来、彼女は僕を警戒している。メイヤは何度か胸元とで、困ったように右手を振った。
「あ、あの、いただけません。仕方のないことだとエアリル様からお話しは聞いています」
「では、仲直りの代わりに」
彼女の大切な侍女殿である、できれば仲良くしたい。
やんわりとだが拒絶をするメイヤに、リュリュが声をかけてくれた。
「メイヤの好きな黄色のガーベラね。良ければ、謝罪は受け取って差し上げて」
「…わかりました。ありがとうございます。男性に花束を頂くのは初めてなので…嬉しいです」
うっすらと頬を染める彼女を見て、少しほっとする。
「…では出かけましょうか。姉上」
エアルが手を差し出せば、当然のようにリュリュはその手を取った。
「思いが通じあったと聞いたが、まだ公表もしていないからね。しばらくは僕の姉様だよ」
「ふふ、私はずっとエアルの姉様です」
馬車でも隣はエアルだ、植物園でも後ろに続いて歩く、仲の良い姉弟とその友人と、言ったところだろうか。今はこの距離感でも仕方ない。
「バル、薬草園を見たい。姉上、少し外します」
「わかったわ。わたくしはこちらのベンチで待っています。バルよろしくね」
バルは目礼を取る。
「護衛は馬車止めに待たせてあるんだ。マイク、後は任せても?」
「ああ。ここで待っている」
エアルが気をきかせてくれたらしい…いや、薬草園を見たいのは本音かな。
王都から少し離れるが、王立植物園は薔薇園だけではなく、研究所も設置されていてとにかく広い。ヒールで歩く女性には少しきつかったか…さほど離れていない場所に飲み物が買える店舗が見えた。
「リュミエール嬢、喉が渇きませんか?あちらの売店で飲み物でもどうでしょう」
「ありがとうございます。ではレモネードを」
「少々お待ちください」
その時に白いベンチに腰掛けたリュリュの傍に立つメイヤ嬢が、そっと距離を取った。
「淑女を立たせるわけにはいきません、どうぞお座りになって下さい」
三人で座るには狭い、リュリュも頷く。
「あなたも少し疲れたでしょう?隣に」
「でも…それでは…その」
「僕は大丈夫ですから、お気になさらず」
メイヤ嬢がちらちらと僕を伺う。にっこり笑って促せば、恐縮をしながらも彼女は座った。
売店でレモネードを三つ買う。どうも調子がでない、緊張しているのか?いつも通りに気の利いたことも言えない。
「どうぞ、メイヤ嬢も一緒で良かったですか?」
「私にも?ありがとうございます。あ、あの、先ほど見た薔薇が美しかったですね。マリアベル様のお好きな薔薇もありましたね」
「ふふ、外側に向かってピンクがかっていく薔薇ね。そう言えば王妃様のお茶会でも飾ってあったわ」
それは情報収集のおかげです。メイヤ嬢が気を使ってか何度か話を振ってくれる。
「リュ…ミエール嬢は薔薇ではどのような色がお好きですか?」
今後のためにも聞いておきたかった。好きな花は薄紫のライラックだったと思うが、贈るにしてもレイクツリー邸には山ほど植わっている。
「わたくしはつる薔薇のクリーム色が好きですわ」
「領地邸にございますね」
嬉しそうにメイヤ嬢が笑う。
「ええ、お婆様が好きだった薔薇よ。お爺様がアーチにして毎年贈ったから、とても長い小道になっておりますの」
「それはすごいですね」
一度見てみたい、何百植えれば小道になるんだろう。リュリュが好きなら植えて上げたい。
「すまない、待たせた」
小さく謝罪をしながらエアルが合流した「こちらで使っている土を分けてもらえるように、バルに申し付けたんだ。メイヤ、僕にもレモネードを」エアルがそう申し付けるとメイヤが席を立つ、そうして当たり前のようにその席に座る。
「はい。エアリル様お待ちくださいませ」
「エアル」
リュリュは、そっと半分ほど残った自分の分を差し出す。半分こか…つい、二人を熱のこもった目で見てしまいそうで、慌てて視線をずらした。
「ありがとう姉上。メイヤ、バルの分だけでいいよ」
「承りました」
「面白い話が聞けたんだ…土の成分なんだけど…」
本当に楽しそうにエアルが話す。正直、植物園に来てからエアルが色々と説明をしてくれるので、助かっていた。そして…エアルが戻ってきたのをホッとしている僕が居た。
その後は食事を済ませ、リュリュの寄りたいと言ったシルク生地専門店に寄る。
「マイク様はどのお色が好きですか?」
店員が並べるいくつかの無地のハンカチ地をリュリュが手にとる。以前言った通り、これからの僕のハンカチは本当にリュリュが作ってくれるらしい。少し迷い、無難な色を選んだ。
「では…ベージュと白を」
「ベージュと白ですね。あと、薄い水色と…その青紫も」
「姉上、僕は最近土に触れる回数が多いので、紺色か藍色がいいです」
横から顔を出し、何枚かをエアルが見繕う。藍色…金糸は止めて欲しい。
包んでもらっている間、リュリュが僕にそっと聞いてきた。
「マイク様、お好きな柄を教えていただけますか?」
「…お任せします」
リュリュが作ってくれるだけでも嬉しいから。
「そうですか…ではイニシャルにしましょうね」
帰りも送りたかったが、この後二人はゴーディ家に寄るらしい。
「今日は楽しかったです。マイク様ありがとうございました」
「僕こそ楽しかったです。エアル、またな」
「すまない、マイク。ハウネ様が今日領地にお戻りになるらしい。どうしてもご挨拶をしたくて」
「いや、気にしないで。また明日」
最後にリュリュを見つめると、首を傾げ静かに微笑むリュリュがいる。
お互いの馬車に別れた時だった。エアルが僕の馬車に近づく。僕の耳が良いのを知っているからの小声だ。
「どうした?」
「マイク、君は姉上の従者になりたいのかい?」
「え?」
振り返りもせず「ではまた」と言い、自分の馬車に戻って行く。
…座席に沈み込む。
「ご自宅でよろしいですか」
ジャックが小さく聞いてきた。
「ああ」
「えー今日はポークチョップだそうです」
「うん…」
僕はまた何か間違えたらしい。
お疲れ様です!
いつも読んで下さってありがとうございます!
人付き合いは問題がないのに、恋愛になると
あれ?ってなるタイプです。
すいません、甘酸っぱさなかったです。




