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ガチャは一択ですか…。

お疲れ様です。コリンヌのターンです。

 私、コリンヌ・マイオニーは悩んでいた。

 今、私がいるのは、見渡す限り、女生徒しかいない淑女科であった。

 中身がヤローであっても、十五年もコリンヌをやっていれば、女生徒に浮き立つことはない。安心してほしい。


「明日集めます。保護者のかたに相談をして、サインを忘れずにして頂いてから、持ってくるように」

 入学式も終え、簡単な自己紹介とホームルーム後に配られた書面には、選択授業希望届けと書かれている。

 この学園の女生徒は、最初の一年を淑女科で過ごすことが多い。

 勉学に励みにきた市井生徒の一部は、二年になると試験を受けて普通科を進むが、将来王城に上がる際に文官やメイド、侍女を目指すにしろ基本的なマナーを知らなければ落とされてしまう、男子でも選択科目でマナー講義を取るくらいであった。

 逆にマナーを幼い頃から学んできた貴族子女と言えば、やはり淑女科で過ごす者が多い。それも三年間。

 嫁入りの際の箔付けと腰掛け替わり、そして学園は婚約者を見つけるための婚活会場であるからだ。

 ちなみにリュミエールとマリアベルの姿を、この棟で見かけない。二人はシナリオ通りに、普通科にいるんだろう。良かった。

 選択科目は、学年も男女も関係なく受講する。生徒たちの目の色も変わるはずだ。これからの一年を憧れの高位貴族の御方と週に二回は一緒に過ごせる、一回きりのガチャである。リセマラはできない。

 ちなみに王家の方々の選択授業は、一回目の講義まで秘匿となっている。その授業に生徒が殺到するのを防ぐためである。俺は知っているけどね。

 

 この選択科目はまごうことなく、分岐点であった。

 芸術選択を選べば第一殿下、キリアンは領地学だったはず、武術科を選べば第二殿下。マイクは第二殿下と一緒で、エアリルは薬草学である。

 非力なコリンヌに武術は難しい…ここは接点の少ない第一殿下を選ぶべきか…逆ハーギリギリの親密度を狙う自分としては、この分岐は本当に大切で、第一殿下ないし、第二殿下の友人枠さえ押さえれば、他のキャラはイベント時に勝手に付いてきたはず…。

 ホームルーム後の教室は浮足立っていて、皆、選択科目の話でもちきりだった。


「ヴィンセント殿下は何をお選びになるのかしら?去年は領地学だったと兄に聞いたわ」

「シルヴァン殿下とご一緒できたら…」

「わたくしは、マイクに同じ経営学の授業を受けないかと、お手紙を出しておりますの。ほら、彼は伯爵家の三男坊でしょう?いくら両殿下に覚えが良いとしても、やはり貴族家に婿入りをして、足元を固めるべきですもの」

「マギリア様は、ビンチョス様のご親族ですものね。羨ましいわぁ」

「まぁ、幼馴染ですから、気心も知れてるし、可愛いなんて言われれば悪い気もしないわね」

「あら、もしかして…」

「まだ、わかりませんわ~でも近いうちにお話しがまとまりそうなの。家族が積極的で困るわ」


 でかい声で、ある事ない事、ない事ばかりをでかい声で話す、義姉の方を思わず振り返った。

 マギリア・マイオニー、養子先で最近できた義姉である。キリアン家の寄子派閥である彼女は、養子縁組で初めて顔を合わせた時から、あまり良い印象はない。

 末席とは言え、貴族社会にどっぷり嵌まった義母と、それに追従する娘、婿入りのためか諫めることができない養父である。俺の加護に対して、国からは養育費が払わているおかげで、最低限の衣食住で困る事はないが、居心地はすこぶる悪い。

 目が合うとふふんとばかり、口元を吊り上げた。


「コリンヌ、今日はお友達とカフェに寄るから、一人で帰ってちょうだい」

 

 ああ、はいはい。帰りの馬車を使うなってことですね。

 行きでも散々「平民と同じ馬車を使うなんて」とぐちぐち言われた。どうやら、俺の出自と可愛さがお気に召さないらしい。

 大切なことなので二度言おう。

 俺が超可愛いのが、お気に召さないらしい。ふふん。


「わかりました。今日は帰りに神殿に寄ることになっておりますから、周回馬車を使います」

「まぁ、やはり、希少な土のご加護をお持ちになっているコリンヌ様は、ジュリアス様とお親しいのかしら?」

「良くして頂いております」


 にっこり。同じ土俵には上がらねぇからな。


「ジュリアス様がお優しいからって、あまりご迷惑をおかけしないでね。コリンヌはカーテシーひとつ、きちんとできないから、義姉として恥ずかしいわ」


 だから、それを学ぶ一年間だろうが。


「えっ!ご挨拶もお出来になりませんの?」

「平民上がりですものね。マギリア様、お可哀そう…」


 類友ですか、そうですか。

 周りも遠巻きに見ているだけで、何も言わない。

 これがぽっちのテンプレか。


「コリンヌ・マイオニー嬢はいるかな?」


 教室の入り口から、通りのよい、俺には聞き慣れた声がする。いくつかのグループに固まった女生徒から、さざめく感嘆に満ちた声も。

 式典の時とは違う、簡易な聖職者用のオフホワイトのローブだが、それさえも煌めく金髪引き立てる。鷹揚に微笑む、格段に整った容姿に自然と道ができた。


「ジュリアス様!」

「居たね。今日は神殿に寄る日だと聞いたからね、一緒に行こうと思って迎えにきたよ」


 キラキラしい次期神官長様の登場に、マギリア一行は口を噤む。


「ありがとうございます。でも、よろしいんですか」


 何を期待したのか、マギリアが俺に近づいてくる。


「コ、コリンヌ…紹介しなさいよ」

「私が誘っているんだから、良いに決まっている。ああ、もしかすると、君がコリンヌの姉君か…」

「は、はいぃ、マギリアと申します!」

「十歳の頃から神殿にいたコリンヌは、私の妹のような存在なんだ。これからも仲良くしてやってほしい。さ、行こう。馬車を待たせてある」

 一瞥しただけで、マギリア終了。

 俺の鞄を従者に預け、さっさと歩きだすジュリアス様に促されて、教室を後にした。

 マイオニー家よりも格段に乗り心地の良い馬車で、向かいに座ったジュリアス様にお礼を言う。


「先ほどは、ありがとうございました」

「どういたしまして、貴族は矜持の固まりみたいな人々ばかりだからね、気にしない方が良い。神殿籍には学園に通う信徒もいるから、コリンヌのことは気に留めるように言っておこう」

「お手数をおかけします」


 神殿に居た時から、お世話になっているけど、ジュリアス様の気遣いには何度となく助けられてきた。

 本当にありがたいと思う。


「馬車の件は上に伝えておくから、徒歩で通うなんて考えないように。攫われたりしたら大変だからね。何だったら、神殿から通っても良いんだよ」


 それはヤバい。ありがたいとは言え、ジュリアス分岐まっしぐらだ。


「大丈夫です。せっかくのご縁ですから、私も至らない点はたくさんありますし、気を付けます」

「そう?あ、選択科目の希望届けもらった?」

「はい。明日までの提出だそうです」


 明日までに考えておかないと…三悪の攻略方法はとにかく、学園内を隈なく周り、キャラに話しかけ、時には差し入れし、攻略対象者の好むコマンドを上げる。

 一定の親密度で次のシナリオが開くから、それまではひたすらに好感度上げである。

 第一殿下は経済学で、第二殿下はダンス、キリアンがマナーで…マイクが一般教養、エアリルが薬草学、アイシュアが武術だったか…そして目の前の宗教歴学がにっこりと微笑んだ。

 

「その時間は、加護を学ぶ時間に使うので提出をしなくていい。担任にも伝えておこう」

「え、選べないんですか」

「悪いけど、君にはまだまだ学ぶことがたくさんあるから、今しばらくは我慢をしてほしい」


 否応なしに、分岐は一択だった。

 しかし、それにめげる(コリンヌ)ではない。

 待ってろ、リュミエール、アリアベル。


「我慢なんて、、わたし、頑張りまぁす!」


 


私はリセマラが苦手すぎて、いつになったら、パレスの地を踏めるのか…(笑)

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