東屋の片翼
ヴィンセント殿下に教えていただいた通りに、三番東屋へ向かった。
ダンスの時に「最近のビンチョスはあの場所を眺め、過ごすことが多い。君が何かを思い、伝えないかはわからないが…秘めたる思いは過ぎると重荷になる。もう一度会って話した方が良いのではないか?」
そっと、アルルに向かう角を曲がると、東屋の側のベンチに腰掛け、わたくしの来る方向を見ているマイク様の姿があった。
「マイク様…わたくしが来るのを殿下からお聞きになっていたのですか?」
立ち上がり、周りを伺うように視線を動かした。
「いいえ。リュミエール嬢の…足音がしたもので、まさかと思いながらも見ていました」
「足音?」
「気味が悪いですよね。僕の加護です、ちょっとばかり人より耳も目も良いんです」
マイク様の足元で、自嘲をするように土を擦る音がした。
「…気味が悪いなんて思いません。座りませんか?」
そう言って、アルルへ向かおうとすると、マイク様は困ったように微笑う。
「あの場所は…僕には敷居が高いのですが」
「ふふ、カップル限定でしたね。でも、わたくしが居ります」
夏のアルルの花はスイカズラだった。ベールように白い花弁を揺らして、夏になりかけた日差しを遮ってくれていた。甘い控えめな香りも鼻腔をくすぐる。
マイク様は前回と同じように「すいません、ちゃんと毎日洗っています」と言い、照れくさそうに、イニシャルの入っているハンカチを敷いてくれた。
「僕に何かお話しがあったんですか?」
マイク様はわたくしと瞳を合わせようとせずに、少し早口な口調で告げる。
「先日のお返事をしたかったんです、でもその前にお願いがあります」
「お願い…ですか」
「はい。わたくしがお返事をした後に…マイク様はどのような事があっても、わたくしを守ろうとしないで下さい」
自分でも矛盾のあることを言っているのはわかっていた。でも、零れてしまった言葉は溢れてしまう。
「それは…一体…」
マイク様がやっと躊躇いがちに目を合わせてくれる。それだけでも、心が浮足立つようだった。
「わたくしも、マイク様をお慕いしております」
「は…」
柔らかなアンディークゴールドの瞳を思うさま見開いてわたくしを見る。
わたくしは、そばにあったマイク様の大きな手にちょっとだけ触れる。でも、それはすぐに指を絡めとられた。
「本当ですか?」
「はい」
言ってから、頬が熱くなる。
「きっと、エアリルのお友達の方…そう認識する頃から、マイク様はここに居たのでしょう」
握られていない方の手を胸にあてた。
「お返事が遅くなり、申し訳ありません。でも…」
最後まで言えなかった。マイク様の焦がれるような言葉で途切れた。
「聞いた後でも、聞かない前でも、あなたを守らないなんて無理です。これからあなたがする事は止めません。でも、傍にいます。僕にできることは、全てします。ちゃんと見守って、おせっかいなくらいに手を取ります」
顔を上げてみると、マイク様が喜びが零れるように微笑んでいた。
「マイク様…」
「どうぞマクシーと、僕の片翼だけが呼べる名です。この名で呼べるのは…リュミエール嬢…」
「リュリュですわ。あなだだけに」
マイク様の眦が柔らかく綻ぶ。
「リュリュだけです。マクシーと呼ぶ声は必ず僕に届きます。たくさん呼んで下さい」
「はい。マクシー」
言葉にすれば、厄災の不安も先ほどの従妹さんとのダンスへの焦燥も全て消えて、マクシーへだけの想いが胸を占める。視線が滲むのは涙が零れたせい。
僕のとっときですよ。と言い胸元のポケットからオオルリのハンカチを出すと優しく拭ってくれる。
「これからの、マクシーのハンカチは全てわたくしに用意をさせて下さいね」
そう願うと口元に手をあて、マクシーが下を向く。
「…幸せすぎる。ごめん、もう少しだけ実感させて」
抱き込まれた胸元の鼓動が同じくらい早い。
「リュリュ…僕の片翼」
夢のように隔離された東屋で、私とマクシーはずっと寄り添い合っていた。
後から「あんな可愛いリュリュを僕以外に見せたくなかった」と、人除けの加護を使っていたを明かしたのはずっと先のこと。わたくしは呆れるフリをしながら、幸せに口元が綻んでしまったのはきっとマクシーにはわかってしまっていたと思うの。
お疲れ様です。
いつも読んで下さってありがとうございます!
読んでいただける方が少しづつでも増えて
本当に感謝しかありません。
みなさん、ありがとうございます!
さて、多くは語るまい。まい。
('◇')ゞ エヘヘ ←照れてる




