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女子トークは大切です。


 マリアの部屋は、その甘い容姿とは逆にシンプルにまとめられている。天蓋付きのベッドなどはお約束だが、飴色のライティングデスクやテーブルはオーク材の質感が素晴らしいし、ソファーなどは座り心地重視の少し大きめな特注。

 わたくしは、愛らしいクッションに鎮座している、金茶毛のシュタイフタイプの熊を抱きしめ、鼻の頭に自らの鼻の頭をこつんと当てるご挨拶をした。


「いつ来てもマリアのお部屋は落ち着くわ」

「ふふ、嬉しい。あ、ハイランド二世はその辺に転がしてもよろしくてよ」

「まぁ、マリアのひいお爺様のお名前を冠したくまさんを、転がすなんてできないわ」


 軽口を言いながら、ジェシカさんの淹れてくれたお茶をいただく。


「お父様がリュミとエアリル様にお土産を持ってきたらしいから、後で届けさせるけど、びっくりしないでね。リュミにはミミーズリィの皮を一山!お父様自ら狩ってきたから、とても立派。エアリル様にはゴーディ領の岩塩クッキーを一山!お父様は加減を知らないのかしら…」


 二人して思わず笑ってしまった。ミミーズリィの苦手なジェシカさんだけが、少し遠い目をしている。


「エアリルの好物を覚えて下さっていたのね。皮も最近、養護院の方でシュシュを作り始めたから、先日手に入れた物だけでは足りなかったの。助かるわ」

「なら良かった。千個は作れるわよ」

「え、そんなに大きいのですか!」


 ジェシカさんが、今度こそ表情を失くした。


「乾燥はしているけど、ジェシカは見ない方がよいわね」


 くすくすとおしゃべりは止まらない。


「そう言えば、先ほどハウネおじ様がおっしゃった事は、本当にご冗談なのかしら?」

「お兄様との婚約の話?お父様のことだから、思い付きかとも思うのだけど…」

「そうなの?」


 ハウネおじ様はおおらかな方だけど、思い付きで人の一生を決めるような方ではない気がする。


「ええ。あ、ジェシカ、お茶のお代わりをもう少し熱めのお湯で欲しいわ」

「承りました。でしたら、リュミエール様から頂いたレモンムースもご用意してまいりますね」

「ありがとう。嬉しいわ」


 やんわりとした人払いに気が付いたジェシカさんが、整えた所作でお辞儀をすると部屋を出ていく。


「きっとね…もう、気が付いているのよ、海の災厄のこと」


 確かに、エアルが気が付いて、マイク様が聞いていたとなれば…何らかの方法で災厄のことを調べるに違いない。でも、目立った話はなかった。エアルはいつも通りだし、学園の日常すら変わらない。そしてその日常に、私たちは救われている。


「だから、お父様は少しでも、わたくしの力になればと思っているのではないかしら?わたくしは昔からお兄様が大好きだったから、小さい頃はよく、お兄様のお嫁さんにしてくださいませ!ってお父様に強請っていたしね。あら、これって傲慢のマリアベル?」


 二人して笑ってしまう。そんなに可愛らしいエピソードはアイシュア様にとっては誉れだわ。


「…お兄様のお気持ちはきっと違いますわ」


 俯いたマリアが、困ったように微笑む。


「少し前のわたくしなら、やったぁ!ってはしゃいでいたでしょうね」

「今は…違いますの?」

「そうですわね。傍に居れれば安心をするし、穏やかにいられるけど、それって恋愛の好きかなぁと思うの。昔のように推しだから好きっ!て言うよりは、家族として大切な気持ちが強いわね」

 

 …マリアはちゃんと自分の気持ちに折り合いをつけたのだ。そう思った。


「あのね…マリア。わたくしは先日、マイク様に告白をされました」

「ああ、あのランチの日ね。お受けしたの?」


 やっぱり気が付いていたのね。わたくしは首を振る。


「父と母を見ていたせいか、恋愛が怖いこともあるわ」

「反面教師…」

「ふふ、言い得て妙」

「リュミがマイク様には、気を許しているように見えたのだけれど…」


 少し考える素振りを見せてマリアは言う。


「ええ。とても優しい方」


「優しいねぇ…それは良い人で終わってしまうことなのかしら?」

「それは…」


 マイク様が良い人で終わってしまう?でも、わたくしが答えを出さずにこのままでいれば、マイク様は素敵な方だからきっとすぐに…。


「リュミは…本当に」


 マリアが何かを言いかけた時だった。ズゥゥンと地響きのような音が階下からする。


「え、地震かしら…マリア」


 もしかしたら、厄災が動き始めた?


「違うわ、ジェシカ!」


 バーンと扉が観音開きにされ、ジェシカさんが入ってきた。


「マリアベル様!旦那様とアイシュア様が手合わせを…今、リーが止めにいっておりますので、リュミエール様はなるべく体を低くして…」


 それは地震では?


「エアルが!」

「大丈夫です、ニシミルが安全な場所に…」


 安全って?ハイランド二世を抱いたまま、わたくしはソファーから降りる。


「心配しないでリュミ、すぐに止めに行くから!」

「マリア、危ないわ!」

「大丈夫よ!日常茶飯事だから、領地ではよくあったの!」


 えええ、どんな手合わせ?


「姉様!」

「エアル!」


 ニシミルさんに連れられて、エアルが飛び込んできた。


「大丈夫だった?お姉さまが付いてますからね」


 ぎゅっと、ハイランド二世と一緒に抱き込めば、姉様こそお気をつけてと抱え込まれる。


「うっわ、尊い。何、この姉弟」


 ニシミルさんが、何か言っている。


「ニシミル、二人を見ていてあげて、ジェシカ行きましょう!もーお父様もお兄様も、ただじゃ置かないんだから!」

「はいはい、見てますよ~」

「ヘンリーも何をやってるのかしら」


 慌てて出ていくマリアをはらはらしながら見送ると、エアルがぼそりと呟いた。


「マリアベル様…止められるんだ。すごい…」

「あの二人を叱れるのは、ヴェロニカ様とマリアベル様くらいです。音もすぐ止みますから」 


 しばらくすると、本当に音が止む。


「終わりました」


 あっさりと言ったニシミルさんが、手を差し出して立たせてくれる。


「ありがとうございます」


 その日のマリア邸での晩餐は、ハウネおじ様とアイシュア様の手合わせを止める、マリアの武勇伝で終わった。




 マリアベルside


「そう言えば、リュミは気が付かなかったのよねぇ」


 寝る前に私の髪を丁寧に梳いてくれるジェシカが不思議そうに尋ねた。


「何をでございますか?」


 リュミの前世の好みにぴったりな男性が近くにいたのだ。糸目ぎみの瞳と、八重歯と癖のある性格と…学園に居る時にはあげているが、普段は下ろしている鬱陶しい前髪。今日は下ろしていたはず。


「ニシミル」


「あら、ニシミルがリュミエール様に何かしました?」

「ううん。何も」


 好みの方が現れても気が付かないくらいに、気持ちを囚われている人がいるのね。もどかしさの距離も今は大切なのかしら。


「恋って難しいのね」

「は、はい。難しいですわね…どなたのことかしら…」


 ジェシカの動揺も気が付かないまま、マリアは小さく溜息をついた。



お疲れ様です。

いつも読んで下さって、本当にありがとうございます!


女の子トークは書いていて楽しいです!

エアルが「姉様」と呼ぶときは焦ったり、心情が振れる

時で、「姉上」は外的な時です。('◇')ゞ


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