伝えられて良かった。
リュミエール嬢がゆっくりと僕の後ろをついて歩く。
本当は腕を差し伸べたかったけど、メイヤ嬢に言われた「醜聞」の一言が思ったより後を引く。
「彼は新しい護衛ですか?」
「ニシミルさんのことですね。はい、最近マリアに就いた方ですわ」
「…さすがゴーディ家スゲーのつけてきた」
ぼそりと言った僕の言葉にリュミエール嬢が首を傾げる。
「え?」
「いいえ、何でもありません」
僕が歩いてくるのをかなり先から気が付いていたらしい。目視できる時点ではすでにこっちを向いていた。メイヤ嬢に関しては、子猫を守る母猫のごとく警戒がすごい。これは当たり前か…。
三番に着くと、ベンチにハンカチを敷く。ここは陛下と妃殿下の思い出の場所だ。初めて聞いた時には、伝説のようなこの場所に僕が来ることはないだろうと思っていた。
「どうぞ」
ふっと零れるようにリュミエール嬢が微笑う。
「使ってくださっていますのね」
「ええ、本来なら敷くのももったいないのですが、お作りになられたリュミエール嬢のためなら本望でしょう」
イニシャルのついたハンカチを見て僕と目を合わす。
「ありがとうございます」
オオルリの方は、ずっと内ポケットに入れてある。それは言えなかった。
「隣に座っても?」
「もちろんですわ」
彼女が腰掛ける際に小さく呟く『ケイリューケイオウス神に乞う。この場の音をしじまに…』これで、ニシミルに届く声はない。
「あなたにどうしても謝りたいことがありました」
告解は神官にではなく、リュミエール嬢にだと教えられた。
「わたくしに…ですか」
「レイクツリー家での晩餐会に呼ばれた日の、リュミエール嬢は本当に美しかったです」
「え?あの」
「僕の髪色に似ていた紅茶の水色からベージュへのグラデーションが素晴らしく、銀色の花の刺繍も見事でした」
頬を染めて、ぽかんと僕を見ている。ああ、こんな表情もするんですね。とても可愛らしい。
「僕の色を纏うあなたに浮かれてしまい。でもそれが偶然だったらと思うと…何も言えませんでした」
隣に座るリュミエール嬢の手が、隣に座る僕のすぐそばに置かれていた。そっと上から手を重ねれば、ぴくりと身じろいだ。できれば、手を引かないでほしい。願いが通じたのか、リュミエール嬢はそのままにしてくれている。細くて小さな手のぬくもりが、僕の手の下にあった。
「あなたの縁談を壊すようなことを言いました」
「それは、我が家やエアルの…」
「あなたのためです。そして僕が嫌だったからです」
今だけは、僕の声をリュミエール嬢に拾って欲しかった。
「僕、マクシミリアン・ビンチョスは、リュミエール嬢に恋をしています」
言えた。僕はリュミエール嬢の手にかぶせていた不埒な手を外すと、テーブルの上に乗せ組んだ。
「…あ、あのわたくし」
「ずっと言えなくて、あなたをを褒めることすらできなかった僕をお許し下さい。すみませんでした」
覗き込んで目を合わせる。彼女の瞳に僕が映っているのを確認できるだけで、幸せだと思う。
「…そんな、謝罪なんて」
「謝罪を受け入れてくれますか?」
「それが、マイク様のお心の安寧になるならば」
「…ありがとうございます」
耳まで赤いリュミエール嬢は俯いたままだ。
「お顔が赤いですね。少し冷めてから教室へ戻りましょう。メイヤ嬢を呼びますか?」
「いいえ、大丈夫ですわ。少しこのままで…」
「はい。仰せの通りに」
「お返事は…できません」
本当に申し訳なさそうに小さく言うから。
「…はい。僕が伝えたかっただけなので、お気になさらず。ごめんなさい、嘘です。本当は気にしてほしい」
「まぁ…」
くすくすと微笑う、彼女の隣でずっと座っていたかった。
リュミエールsaid
マイク様に言われた言葉が何度も、頭の中で繰り返される。
ドレスの事は気にしていないと言えば嘘になるけど、そこまで考えていなかったし、エアルのためだと言われれば、それはそう。と納得できたのだ。
傍に座るマイク様をちらりと見れば、ずっとこちらを見ていて目が合うとにこりとされる。
この方の傍にいるのは安心できる。受容すれば、わたくしのことをアンティークゴールドのような飴色の瞳でずっと見守って下さり、隣で腕を差し伸べてくださるのだろう。この方と歩む先は、きっと穏やかであると思う。海の災厄のことがなければ…と考えるけど、答えがでなかった。
マイク様なら、私を救ってくださるのかしら…。
父と母をみていたからか、人を好きになるって、もっと激しく思い焦がれるのかと思っていた。片時も離れがたくなるくらいに。
予鈴が鳴った。そろそろ戻らないと、そう思い顔を上げると、メイヤが近づいてきている。
「そろそろ戻りましょう」
「はい」
「僕は先に行きます」
「あの…ありがとう。マイク様のお気持ち、嬉しかったです」
マイク様はちょっとだけ泣きそうな顔をして、それでも微笑むと頷いてくれた。
「…伝えられて良かった」
お疲れ様です。
いつも読んでくださってありがとうございます。
('◇')ゞ エヘヘ




