昼食と来訪者
リュミと昼食を食べる約束をしていたので、授業が終わり、そっとクラスから抜ける。昼食はリュミととることを、理解した最近はあまり誘われなくなったが、昼食を誘ってくれるクラスメイトは少なくない。
「マリア、こっちよ」
約束をした西の東屋でリュミと来合せる。
「お待たせしたかしら?」
「いいえ、護衛の方はよろしいの?」
私の護衛であるニシミルは手に持ったランチボックスを、東屋のテーブルに置くと小さく首をふる。
「おれ、私はあちらで頂きますから」
そう言って、ほど近い木陰は指した。ポケットが膨らんでいるから、パンでも入っているらしい。ニシミルは最近付いた護衛で、ヘンリーの甥にあたる。二歳年上だが、王立学年へは今年から入学をした。男性なので、色々と付いてまわるのは無理がある。何かあれば声掛けをとだけ言われてはいたのだけど、先日正式に任命された。
「ダンスで目立ったから、お兄様が心配をしてしまって」
「まぁ…」
くすくすとリュミエールが微笑み、メイヤさんの持っていたランチボックスから小さな包みを出す。
「良かったらどうぞ。ミートパイですわ」
「いっ、や、」
言葉にならない声を上げると、私とパイの間で視線を動かす。さっきから、リュミの顔も見れずに、おろおろしていて可笑しい。
「いただいたら?リュミのお宅のミートパイは絶品よ」
「ど、どうも、ありがとうございます!」
「お茶のご用意ができましたら、お声をかけましょう」
メイヤさんがポットをだすと、カップの準備を始めた。
「今日はエアリル様は?」
サーモンを挟んだサンドイッチを食べながら、リュミとおしゃべりをする。
「それがね、薬効成分の高い薬草が見つかったから、行ってきますって朝から向かってしまったの。授業は単位が足りておりますからって」
リュミはわたくしの持ってきた、ピースキッシュを優雅に口元に運んだ。
「あら、素敵。今度は何のお薬かしら、エアリル様もお忙しいのね」
「聞いてみたけど、色々調べないと効用がわからないと言っておりましたわ」
並べられた小さめのサンドイッチとミートパイ。色とりどりのフルーツサラダ。私の持ってきたキッシュや焼き菓子もある。いつもはエアリル様とバルさんも一緒なので、全体的に少し多めだ。持ってきたキッシュは完全に余りそうであった。
ニシミルに手招きをすると、動きはすばやい。
「これも、食べて。お茶も持っていきなさいな」
「ありがとうございます!」
その時だった、ニシミルが顔を上げると、目を懲らす。
「…マイク様だわ」
ニシミルが小さく頷く。
「ビンチョス伯爵令息ですね。覚えました」
私たちの会話を聞いた、リュミもカップを持っていた手を下ろすと見つめる。
「エアルは今日はいないのだけど…」
近くまで来ると、マイク様が小さくお辞儀をした。
「こんにちわ。お食事中失礼をします」
メイヤさんが少し強張ったのは気のせいかしら?
「エアルでしたら…」
「聞いております。僕が本日、お時間をいただきたいのはリュミエール嬢にです」
「わたくしですか?」
「ええ。放課後お時間があったら、こちらでお話しができませんか?」
いつものような気軽さがなく、真剣味を感じた。
「どのようなご用件でしょう?リュミエール様の醜聞につながるようなお声がけはおやめ下さいませ」
「醜聞…ですか」
困ったようにマイク様が微笑む。
「メイヤ…失礼だわ。お時間はかかりますの?あちらの東屋でしたら空いておりますから、今からでもお聞きします」
「三番…わかりました。では行きましょう」
「マリア、ちょっと行ってきます。メイヤはここで控えていてちょうだい」
東屋三番はこちらからでも目視できる位置だった。リュミはマイク様のあとに着いて歩きだす。
「姫さま…」
「お嬢、あいつ大丈夫ですか?」
そう、ニシミルが今まで私に付いていなかったのは、この口の悪さと性格である。ちゃっかり席に座ると、もぐもぐと食事をしている。
「お嬢は止めなさい。メイヤさん、大丈夫?」
「あ、はい」
「俺が警戒をしたのは侍女殿が、明らかに動揺をしていたからです。あいつ、ちょっと絞めてきますか?」
「私はそんな…」
「あれー顔強張ってたでしょ?」
私は、二個目のミートパイに手を伸ばしかけたニシミルの手を叩いた。
「いいかげんにしなさい。メイヤさん、気にしないでね」
「いたっ、それに三番で話すなんて…」
「三番がどうしたの?」
手をすりながら、ニシミルがぶつぶつと話し出す。
「あの場所は、陛下と妃殿下が出会い、告白をして、愛を育んだ場所として有名ですよ。まぁ東屋自体がカップルしかとれない穴場ですから、彼氏のいないお嬢ならご存じないかもしれませんが…」
ニシミルの言葉に、前世のスチルが浮かぶ。そうよ、いくつかのコンプしたビジュアルのバックは東屋が多い。
「思い出した!そして、失礼!」
「わ、びっくりした~今更ですか。ちっ、あいつ…」
ニシミルの突然の舌打ちに顔を向ける。
「なに?」
「俺より、防音障壁上手いです。話聞いてやろうと思ったのに…」
ニシミルはゴーディ家の斥候としても名高いので、気配察知や音を拾うのが得意であった。
「そんな事しなくていいの!」
「あ……」
メイヤさんが、急にカタカタと震えだす。
「どうしたの?何かあった?」
「どうしましょう…マリアベル様…わたし」
震え出したメイヤさんを座らせると、話を促す。
「わたくしで良かったら、何があったか教えてくれる?メイヤさんがそんなだと、リュミが心配をするわ」
何度も頷き、小さい声で語り始めた。
「マイク様が…わたくしたちの話を聞いていたのね。」
「はい。姫さまが倒れ目覚めた直後の時でした。その時には、心配ならそうすべきと思ったのです。お二人のお話を聞くマイク様を止められませんでした」
あの時のリュミは目覚めたばかりで、つい口走ってしまったのだ『海の災厄』と…聡明なエアリル様なら、聞き流すはずはないと思っていたけど…そんなに早く動いていたなんて。実際その後のエアリル様のことを聞いても、リュミはいつも通りよと、気にしていなかった。
「大丈夫。私もリュミもたいした話はしていないわ。それよりエアリル様のご許可を頂いていたのなら、そんなに気にいないで。ね、ニシミルもそう思うでしょ」
「そうっすね。俺は斥候なんで気にしません」
「あんたの事はいいのよ」
「お嬢、口調が領にいる時に戻ってます」
私たちのやり取りを聞いていたメイヤさんに少し笑顔が戻る。
その後、リュミは授業のぎりぎりまで戻っては来なかった。
お疲れ様です!
いつも読んでくださってありがとうございます。
三番東屋は以前、キリアンがコリンヌと昼食を
とるのに誘った場所ですw




