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怒られた王子たち


「こんなものか…」


 姿見の前で着替えたばかりの居住まいを正す。「一人で何でもできる様に」は母の口癖だ。いざという時に、着替えも一人でできないようでは仕方ないと。


 公式の場以外では着ないが、騎士団軍服を模した装束は黒。金ボタン部分は金輪と艶無金でアレンジしてあり、王族の金輪瞳のイメージをしているそうだ。右前身頃部分に同色の漆黒の糸を使い、兄ヴィンセントと左右対称になるようにデザインをされた羽の刺繍をしてある。

 羽の刺繍が多いのは、父が我々が生まれた時に天使のようだったから、と好んでいるからである。母が言うならわかるが、父が言うのはどうだろう。さすがにこの歳になれば勘弁してほしいが、王城のドレスメーカーが、嬉々としていくつもの羽の刺繍図案を用意してあるのだから、仕方ない。


 生まれた時に授与された勲章をつけるか、王族紋章のラベルピンにするかを迷ったが、結局、ラベルピンを着けた時に部屋にノックがされた。


「用意はできたか?」


 兄上が顔を出す。


「ああ、陛下との謁見は久しぶりだ。こんなものだろう」


 朝餐は父と一緒にとったのだが。岩いちごジャムはおいしいねぇとお代わりをしていた父が浮かぶ。


「よく似合うじゃないか」


 普段の服装が緩いせいか、揶揄われたらしい。自分と同じ顔、色違いに言われたくはないが、笑って頷いておいた。


「兄上もな。やっぱりラベルピンか」

「生まれただけで、何の功績もない勲章を着けるのは、どうにも受け入れがたい」

「確かに」


 玉座の間まで気負いなく二人で歩く。これから願うことは、たぶん王子としては突拍子もない事なのだろう。


「いと貴き、王国の太陽リッチヒルド・カロヌロア陛下と王国の月ルドヴィカ・カロヌロア妃殿下にご挨拶を申し上げます」


 二人揃って、玉座の間までの道のりに敷かれた赤絨毯の前で片膝をつき、(こうべ)を下げ口上を述べる。人払いはしてあるらしく、宰相と叔父にあたる王弟殿下以外の姿はなかった。


(こうべ)を上げよ」


 顔を上げれば、典礼用の王族で受け継がれているローブ、王冠、王杖を持つ威厳ある父の姿と、少し顔色の悪い母が、同じように妃殿下のローブをかけ、ティアラを付けている姿がある。


「先日の賓客の間での話合いは()ぃから聞いているが、その件でよいか」

「はい。陛下には図書庫で扉を開けて頂けたこと、感謝を申し上げます」


 兄上に習い、再び頭を下げた。


「王国の危機にあたる事案である。それは良い。それで、私に願いとは?」

「今回の『海の災厄』への討伐行使権を私達にいただきたくお願い申し上げます」


 兄上の言葉を聞いた途端、宰相のキュービス侯爵の顔色が変わる。


「お恐れながら、ヴィンセント殿下はあの文献が真実であるとお思いか」

「ええ。王家の図書庫の話は、宰相であれば知っておられますね。あの場所には事実であった史実が収められております。その史実にて近しい将来、同じ様なことが繰り返されると…」

「それが今だと…レイクツリー公爵家の息女に守護印がでたからですか、私が親ならば献身などと許さない。ゴーディ公爵家の息女もそうです。たまたま弓が得意だからですか?たとえ史実通りになるとしても、戦いに達者な者が出れば良い、騎士団が何のためにいると思っていらっしゃる!いくら殿下方の願いだとて認めるわけにはいきません!殿下方はまだ学生の身。討伐に送りだすなど…国民になにかあったらどうするおつもりか!」


 叔父であるディート王弟殿下も声を上げる。


「陛下、私もキュービスの意見に賛成です。と、言っても殿下方の行使能力のことを言いたいのではなく、お二人は近い将来、この王国の要となる身。尊き御身に何かあったら大変ではないですか」


 宰相らしい国を見据えた言葉だ。そして子のいない叔父上には、子供の頃から可愛がっていただいた。


「二人共控えよ。まず、文献の件だが私も読んだ。なぜ、災厄に選ばれた乙女たちの裏にそれを支える若者たちの姿があったと伝えぬのだ。過去の文献によれば、全てが乙女たちの不幸で終わっていたわけではない」


 陛下の言葉に兄上は答えない。いや、答えられない。


「乙女たちの選んだ若者が災厄を討ったともあれば、力を合わせ退けたともある。中には、王国が災厄によって危機に陥ったが、その後に土の乙女によって共に立て直したともあった。お前たちはそれも読んだはずだが?」


 兄上の代わりに俺が答えた。


「今世の乙女が、自らを支える者を選んでいないからです。いや、俺も兄も誰も選ばれるまで至っていないのかも知れません。それでも、彼女たちだけに行かせることはしたくはないのです。それは王族としての務めだと…」


 ふぅ…と妃殿下が溜息をつく。


「あなたたちには、まず、王子としての自覚がありません」


 静かだが、厳しい声だった。


「そのようなことは…」

「あります!なぜあなたたちは、典礼用のラベルピンを着けていて、王子である勲章を着けていないのです!あなたたちのことです、生まれただけで~とか考えたのでしょう。でもね、あなた方が生まれ、その姿を国民に披露目をした際の民衆が、どれほど喜び溢れたかを知らないのでしょう。この国は安泰だと、たくさんの祝福を得たかも。あなた方にとっては生まれただけかも知れないけど、既に存在しているだけで希望となり得たわ。その労を湛えた勲章です」


 打ちのめされたような衝撃だった。母に言われるまで考えたこともなかった。


「っつ…申し訳ありません」


 慌てて兄上と頭を下げる。


「そして、陛下の手を見なさい!」


 そう言って母は、父の手を引き、無理やり手袋を外した。包帯だらけの指に血がにじんでいる。


「もうね、あの文献は持ち出せない加護がかかっているから、レイクツリー家、ゴーディー家、キュービス家も、ディートも、神殿関係も来たわね。ラデーチェまで、ひっきりなしに文献を読みにくるから、ぼろぼろよ。それでも陛下は文句を言わず、こう、指を絞ってね…」

「何度も入ったのはルドヴィカじゃない…ナイフを持って寝所に現れた時には、僕はついに愛ゆえに殺されるのかと思ったよ」


 可笑しそうに陛下が笑う。


「すべてを君たちに任せるつもりはないよ。大人たちを少しは信じて欲しい」

「陛下…」 

「討伐の許可はあげるよ。でも、全権は駄目だ。私たちにも見せ場は必要だからね」

「感謝いたします」


 兄上が小さく呟くと、キュービス宰相が頭を下げた。 


「先ほどは、感情に任せた物言いを申し訳ありませんでした。私の息子が、お手伝いをできると話しておりました…今まで何一つ、口答えのなかった息子ですが、初めて私と妻に意見をしました。友として、側近としての務めを果たしたいと、息子をよろしくお願いいたします」


 危険がないとは言えなかった。キリアンは前線に立たなくては、足場を作れないから。


「いざとなったら、私も行きましょう。キリアンの加護は私譲りです」


 それを見越してか、宰相は微笑む。


「ありがとうございます」

「災厄が現れるのは、冬に差し掛かる頃のようだ。今しばらくは貴族たちにも、国民にも伏せておこう。それまでの期間、君たちは学生なのだから、学園生活に励みたまえ」


 王立学園長としての顔をして、叔父上が頷いた。俺たちは思い違いをしていた。自分たちだけで、成し遂げようとしていた。


 ……これから、起こることは現実で冒険譚ではないのだ。





お疲れ様です。

いつも読んでくださってありがとうございます。

少しずつ、お読みいただける方が増えて、本当に嬉しいです。

感謝しかありません。(ノД`)・゜・。←うれし泣き


『海の災厄』と戦っちゃうぞ!と言ってもイイよ!と簡単にいかないだろう。そう思いました。

一人で大人になったわけでは、ないのです。

そして、まだ彼らは庇護されるべき子供であると思いました。

パパは王だけど、親だからねを隠さず。

ママは「こんなにかっこよく生んだのに、なんで選ばれなかったのかしら?」とか思ってそうw

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