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キリアン frustrating day 2


 翌日から学園を頭痛がひどいと休んだ私は、庭園の東屋で本を読んでいた。単位は問題がない。両親は領地に戻っているので、誰からの小言もない。

 時間ができたらと、両親には内緒で楽しみに買い求めていた冒険小説だ。両親は市井の者が好む物はあまり好きではない。上品さに欠け、中には貴族を批判するものも混じっていると、よく話していた。

 子供の頃はそれに追従していたが、幼年院に通っていた頃、シルヴァン殿下に一冊の本を勧められた。


「市井で流行っている冒険譚なんだけど、面白いぞ」

「市井…そのような本をお読みになってるのですか?」

「市井も王家も関係ないだろ?面白いものは面白い、兄上が下巻を読んでいる。これ、貸してやるから読み終わったら兄上に下巻を借りるといい」


 正直、食指は湧かなかったが、両殿下との会話のきっかけくらいになればと読み始めた。翌日、私は同じ本を買い求めた。

 面白かったのだ。主人公の猫耳を生やした勇者は、言葉遣いさえなっていなかったが、まっすぐで勇敢だった。女主人公は愛らしく、努力家だった。その回りに集う仲間も個性豊かで、皆信じあっている。世界は広く、出てくる食べ物も描写豊かで、全て美味しそうだった。

 無色だった私の周りに色がついたような感覚で、殿下たちに読んだ感想を告げたが、心の堰きは壊れ、夢中になって話す私に吃驚されていた。だが、両殿下方とあれこれと意見を出し合うのも楽しかった。


「頭に入らん…」


 あんなに楽しみにしていた本なのに、字は拾うが内容が入ってこなかった。コリンヌが、私に失望したのではないか。昨日の言い方は悪かった、もっと違う言い方もあったのではないかと。気が付けば堂々巡りだ。

 私はコリンヌが好きだったのか、頼られて、気遣われるのが嬉しかっただけなのか、自問自答しても答えはでなかった。


「キリアン様、王家からの先触れで、ヴィンセント殿下がお会いしたいとのことです。体調が芳しくないようでしたら断って頂いて構わないとのことで、ただ今返事を待たせておりますが…」

 王族からの言葉に否はない。

「もう、近くにお見えになっているのだろう。こちらにお通ししてくれ」

 執事は少し安堵した表情を見せると邸へ戻っていく。

 キャナリィはビンチョス家のメイドだ、昨日のことが耳に入り叱責を受けるかもしれない。コリンヌが育てている苗が、どのようなものかは解らないが、有益ならば彼女の庇護も王家に移る可能性もある。ひとつしかない、彼女とのつながりが切れてしまう気がした。

 ほどなく現れたヴィンセント殿下は、庭を見回すと「ここに来るのも久しぶりだ」と微笑まれた。

 メイドが香り高い紅茶を用意したが、しまったと思う。殿下方が最近好まれるのはカフェだった。


「体調はどうだ?皆心配していた。最近は生徒会のことを任せきりにしてしまっていたからな」

「お気遣いいただき恐縮です。明日は登園いたします。カフェに換えますか?」


 ヴィンセント殿下はふっと笑うと、首を振る。


「このままで。まったく、キリアンは昔から俺たちに気を使いすぎだ。もっと私たちを雑に扱っても良い。友なのだから」

「友ですか…」


 初めて言われた言葉に、目が丸くなる。私は殿下方の側近候補であって臣下の一人と思っていたから。


「なんだその顔は?もしかして自覚がなかったのか」

「臣下の一人かと」

「臣下だから、友になれないのか?私もシルヴァンも友になれない者を傍には置かない」


 耳に触れる言葉はそのまま、私の心に響いた。


「ありがとうございます」


 素直に頷けた。私の心にあったわだかまりが崩れていく、最初から線を引いていたのは私だった。


「本日はコリンヌの件ですか?先日のことでの咎めなら謹んでお受けいたします」

「いや、キリアンには説明が必要だから出向いただけだ」

「説明ですか?」


 ヴィンセント殿下は胸元から防音用の魔道具を取り出す。私は執事に人払いを目視で告げた。


「少し長くなるが…」


 ヴィンセント殿下は紅茶で喉を湿らすと話し始めた。


「本当ですか『海の災厄』なる海獣が王都に迫っているなど、本当ならば国家全体を以って立ち上がらないといけない案件ではないですか!」


 リュミエール嬢にカリプテス神の守護印が表れたこと、マリアベル嬢が姫騎士の責を持ち鳥獣に立ち向かうなど、にわかには信じがたかった。そして、コリンヌの育てている苗が魔力酔いを緩和するなど。


「私も最初は信じられなかったが、王城図書庫に納められた書誌は全て真実でなければならない。真実以外の議事録、文献は棚に並ばない加護がかかっているんだ。図書庫の鍵は国家首の血でね、陛下に開けていただいた。その中の文献にあったんだ『海の災厄』が、ここ五百年余りはなかったが、その前は百年おきぐらいには頻繁に現れていたらしい」

「そのような事が…それが、今なのですか…」


 ヴィンセント殿下は足を組み替えると、再び話しを続けた。 


「日に日に海が荒れてきている。魔魚が先日、浜に打ち上げられていた報告もあった。天候も不順だ…『海の災厄』を退けるにはカリプテス神の姫御子の献身。火の女神ヘスティアの姫騎士の挺身。地母神テラーアウの加護を持つ乙女の救済が必要になる」


 全て当てはまっていた。まるで物語のように、彼女たちが戦うのが予定調和のように。


「すでに彼女たちは準備を始めていた。彼女たちが神託を受けたのかなどは、今では些末なこと。我々が彼女たちを支えられればよいが…喫緊の状況を見ればあまり時間がない。キリアンにも今後は迷惑をかけることにはなるが、手を貸してもらいたい」


 私はすぐにでも頷きそうになる。


「もちろんです…と申し上げたいのですが、私には戦う術も、殿下方やジュリアス様のように支援をするのも限られます。それよりも殿下方が出るのは危険です。騎士団に任せるべきです」

「私もそう思ったよ。でも我々にもできる事があるのではないかと…それとて、ジュリアスに発破をかけられて、気が付いたくらいだ」


 自嘲気味にヴィンセント殿下が微笑う。


「私は自分の成しえることを探す。キリアンは体調を崩さない程度に我々を手伝ってほしい。明日は私もシルヴァンも生徒会に参加するから、採決の必要な書類があったら言ってくれ」

「…殿下」


 しばらく考える。剣は得意ではないし、支援金を渡すのも違う気がする。


「足場を…」


 ヴィンセント殿下が顔を上げる。


「足場を作りましょう。海獣や全ての海を凍らせるのは無理ですが、騎士何名かの足場くらいなら…船などで戦うよりは良いのではないでしょうか…もちろん、それとて氷流(なが)されますから、戦いづらいとは思いますが」


 私の加護は氷の女神スカディアの加護である。父譲りの加護ではあるが、水を凍らせ、氷室を作るくらいにしか流用がきかない。父のように文官スキルもあればまだ良かったが、氷の加護のみだ。今の私を作っているのは努力のみである。子供の頃から氷ばかり作ってきた。領地の野菜も冷やしてきた。ついでに言えば、冬の領地邸の小さな池のスケートリンクは自前である。魔石作りには向いていない、加護量だけには自信があった。


「素晴らしいな」

「は?」


 初めてヴィンセント殿下の高揚する姿を見た気がした。


「船で戦うにも沈められては魔魚の餌になってしまう。板を張ろうとも海獣の姿さえわからない。手詰まりだった案件だ。もちろん、嫡男としての君の安全は必ず守ると、キュービス侯爵には王家から約束しよう」

「あ、よ、よろしくお願いいたします」


 こんなに喜ばれるとは思わなかった。


「私は城に戻り、今のことを告げてくる」


 席を立たれた殿下の目が、先ほどまで私が読んでいた本にとまった。


「それの下巻、もう出ていたのか」

「ヴィンセント殿下もお読みでしたか?」

「ああ、シルヴァンと回し読みをした」


 可笑しくなる。いまだに幼年期のままのお二人に。


「終わったら下巻をお貸ししますか」

「助かる!シルヴァンには読むときにお菓子は食べるなと言っておこう」


 こんどこそ笑ってしまった。


「読み終わったら、皆で感想を言い合いましょう」


 子供の頃のように。

 


お疲れ様です。

いつも読んでくださってありがとうございます!


キリアンはまだ恋心には至っていなかったと思います。

もしコリンヌが、キリアンを思っていたら、始まって

いたかもしれません。

彼のエンディングスチルは、夏に凍らせたスケートリ

ンクでスケートを教えるキリアンとヒロインだったで

しょう。あ、お約束ですが二人で転ぶのも有りですw

くぅぅ書きたいw

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